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0039 小さな悲鳴

「ノブコさんの言いたいことは分かりました。要するにこの部屋を漫画喫茶にしたいと言うことですね」


「だーーっ!! 違います。何をどう聞いていたのですかー!! ですから。日本中の妖怪の情報、そして救世主レイセイの情報を集めたいと言ったのです」


ノブコが激しく首を振って言いました。

珍しく真面目だったみたいです。


「そうですわ。寮では、ネットの使用はできません。スマホの所持も禁止されています。だから、ここで部活動の一環として情報の収集をしたいのですわ。地球の未来はわたくし達にかかっているのですから」


エイリも熱く言います。

いつになく真剣です。


「と、言われましても、ここにパソコンを三台用意して、ネット環境を整えるというのは、相当な費用がかかります。予算がー……ありません」


吉田先生が笑いながら言いました。


「だーーっ!! まったく、先生まで財○省や自○党みたいな事を言わないでください。先生の冬の賞与は六パーセント上がったと聞きました。自分達の給料の財源はあるのに、生徒の為のお金になると急に財源が無くなるのはおかしいです。ここは学校です。生徒の為にお金を使うのが優先されるべきです」


「うふふ、なかなか勉強していますね。まあ、国民の為に何かをしようとすると財源が無くなる政府と同じで、学校では生徒の為になると学校からは財源が無くなります。よく憶えておいてください」


「は、はい……」


エイリとノブコは、しょんぼりして返事をしました。

今の日本の政府は、国民の為にはお金を使わないのですか。何のために税金を取っているのでしょうか。ビックリですね。

そういえばガンネス達、外国人にはジャブジャブ年金を出すのに、ユウキのおばあちゃんには、生きて行くことも難しいほどのお金しか出していませんね。悲しいことです。

いったい誰の為の政府なのでしょうか。


「お姉様! そのお金、私が学校に寄付したら出来ませんか?」


「うふふ、さすがはユウキさん、一番貧乏なのにお金の使い方は一番よく知っていますね」


「くすくす、異世界人が攻めてきたら、お金なんか価値はなくなります。使うなら今です。日本人の為になります。まだ、いっぱい残っています」


ふだん、自分のためにはお金を最低限しか使わない、ユウキが言いました。

それを見て、エイリとノブコが驚きの表情をしましたが、ここでユウキと同じ事が言えなかったのが恥ずかしいのか、顔が真っ赤になり下を向きました。


ユウキはすごいですね。まるで贅沢は敵とでもいうように、自分のためには極力お金を使わないようにして、大勢の人の助けになるとわかれば惜しげ無く使おうとします。

普段、贅沢し放題、自分達の為にはお金を使いたい放題なのに、他人の為には一切使おうとしない政治家や大金持ちとは考え方が根本的に違うようです。ふふふ、だから貧乏になるのかも知れませんね。


「まっ、待ってください。お金なら、わたくしが出しますわ。そうでしたわ。学校になんか頼る必要はありませんでしたわ。わたくしは自分がどう言う立場の人間か思い出しました。それをあきらめるなんて。ユウキさんにお金の使い方を教えられましたわ」


エイリが、涙目になって言いました。


「ふふ、エイリさん、そしてノブコさん、あなた達がこの学校に来たのはきっと偶然じゃ無いとおもいます。うふふ、神様のお導きかな。ユウキさんと出会ったのは、貧しい人の生活を学べという事なのかも知れませんね。夏休み、合宿をしましょう。ユウキさんの生まれ育ったあの村で。神様の住む神社で。あなた達二人には良い勉強になる事でしょう」


「うわあー!! たのしみーー!!」


ユウキの目が大きく見開かれて潤んだ瞳がユラユラ輝いています。

自分の故郷に友達が遊びに来る事を本当に喜んでいるようです。

でも、ユウキさん、あなたの故郷の生活は極貧生活です。

この二人が耐えられるとは思えませんよ。


「本当に!! 今すぐに行きたいですわ」


「私も行きたいです!!」


エイリとノブコもユウキの顔を見ながらうれしそうにしています。

だから、あなた達には無理ですよ。大丈夫でしょうか?




「ただいまーー!! すごいよ! ユウキー!!! 本がいっぱいあったーー!! 僕はあそこに住みたいくらいだーー!!!!」


話が一段落したところで、神様達が帰って来ました。

神様は、心から感動したみたいですね。


「お話は済みましたか?」


奈々が部屋に入って来てノブコに聞きました。


「はい」


「神様!! 神様!! カッパ、カッパに会わせてください!!」


吉田先生が神様に唐突にお願いしました。

顔がもはや、いたずら小僧です。


「吉田先生、僕は姫神守護です。他の人の目もあります。神様では無く、ヒメガミマモリと呼んで下さい」


「では、マモリさん。カッパに会わせてください」


「カッパ?? さてなんでしょう」


「うふふ、カルッパーン族です」


ユウキが笑顔で言いました。


「カ、カルッパーン族。まるで戦車に乗る女の子みたいな名前ですね」


ちーちゃんが奈々に小声で言いました。

奈々は、うんうんとうなずいています。


「ああ、じゃあ、ちょっと連れてきます」


そう言うとマモリ様は姿を消しました。




「うわっ!!」


しばらく間を開けて、マモリ様が突然現れました。

驚いた吉田先生と奈々とちーちゃんが声を上げました。


「デェスちゃん!!」


「ユウキーー!! 久しぶりデェス!!」


「えっ? えっ?」


吉田先生が不思議そうな顔をしています。


「どうかしましたか? お待ちかねのカルッパーン族のデェスですよ。吉田先生」


「で、でも、デェスさんは、おっぱいのでっかい、普通の色っぽい女性ですよね」


「ああ、本当の姿が見たいということですね。デェス、認識阻害を止めてください」


「はいデェス」




「うぎゃあああぁぁぁーーーーーーーーーーっっっ!!!!


吉田先生と奈々とちーちゃんが、大きな口を開けて顔面蒼白で机の下に潜り込みました。

それだけではありません。

ユウキもエイリとノブコまで、机の下に潜り込みます。この三人の悲鳴の方が大きいくらいです。


デェスの姿は、全身緑のヘドロをかぶったような質感で、所々黒い斑点があり、顔はグロイ宇宙人のような感じです。

口はくちばしのようになっていますが、細い細かい歯が何列も並んでいるように見えます。

目が吊り上がり、金色の瞳にたてに鋭い瞳孔が浮き上がります。

背中に甲羅がありますが、それは背中だけでは無く亀のように前まで保護しています。


「ユウキ、ひどいデェス」


デェスは、悲しげな声を出しました。

それが恐かったのか、また全員が「ヒィ」と小さく悲鳴をあげました。

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