「ええっ!? せ、先生はマモリさんをご存じなのですか?」
吉田先生が神様と言ったのを聞いて奈々と、ちーちゃんが驚いています。
「知っていますよ。それどころか、私の命の恩人です。私は余命三ヶ月の悪性腫瘍におかされていました。そこから、神様が救って下さったのです。かみさま……」
吉田先生は神様を抱きしめました。
とてもうれしそうです。
「ええーーっ!?」
奈々とちーちゃんがさらに大きな声で驚いています。
そして、神様の顔をじっと見つめます。
「お姉様!」
ユウキが目をウルウルさせています。
そうですね。吉田先生はユウキの恩人ですものね。
吉田先生はユウキのお母さんの親友で、安土山の神社にお金を届けてくれた方です。
「あら、ユウキちゃんまで、元気にしていましたか?」
「は、はい。お会いしたかったです。おかげ様で高校に入学出来ました」
「うふふ、私のおかげではありません。ユウキちゃんの実力です」
ユウキはそういう意味で言ったのではないと思います。
ユウキは首を振って、神様を抱きしめる先生に抱きつきました。
「はっ!! 吉田先生!? って、あなたは??」
今度は、ノブコが驚いています。
「あら、あら!! あなたは旧仲先生のお孫さん。今日はうれしい再開が多いですね」
「お姉様は、ノブコちゃんともお知り合いなのですか?」
「うふふ、ユウキちゃんのお金を用意してくれたのがノブコさんのお爺さんですよ。私とユウキちゃん、二人の大恩人のお孫さんです」
「うふふ、よく言います。うちの家の前で大騒ぎを起こして乗り込んできて、お爺さまを脅してお金を十億円も保険会社に用意させたのですから。でも、そのおかげでお爺さまは吉田先生をとても気に入っています」
「十億円? 私とユウキちゃんは四億円ずつです。八億円では?」
「あらまあ、お爺さまったら、手数料としてお小遣いを取っていたみたいですね」
「お、お小遣い。ぷっ、うふふ」
先生がおかしそうに笑っています。
「ノブコちゃん。私、わた……ありがとうございます」
ユウキは、目に涙をためてノブコに頭を下げました。
「ユウキちゃん。私は何もしていません。御礼はお爺さまに直接言ってください。今度ご紹介いたします」
「は……、はい」
ユウキはノブコに抱きつきました。
ノブコは神様の腕から手を離すと、両手をユウキの背中にまわして、ギュッと抱きしめました。
ノブコは誰にも見られないように顔を天井に向けると、鼻の穴がおっぴろがってヒクヒクしています。
こらこら、ノブコさん、神様が見つめていますよ。
でも、神様は温かい目でノブコを見つめています。
そうですね。神様もノブコに感謝をしているみたいです。
それだけにその顔は残念です。
「あ、あの……」
取り残されていたエイリが小さな声を出しました。
「こちらは?」
先生が気づき、ユウキに声をかけました。
「十田愛莉さんです。私の親友です」
「そ、そうですか。十田……。ユウキちゃんはすごい方二人と、もうお友達なのですね。さて、それは、おいておいて、まずは自己紹介をしますね。私は吉田恭代。高校の社会の教員免許を持っていましたので、ノブコさんのお爺さまのコネでこの学園の先生になりました。音楽の先生はブラスバンド部の指導が忙しいので、私が軽音部の顧問になりました。でも軽音部は部員が二人なので、今年度で廃部の予定です。ですから活動も指導もする必要がないので、私は息抜きの為にたまーにのぞいています。で、なぜ、神様が女子校にいるのでしょうか?」
「先生、それにはふかーいわけがあります」
ノブコが、天井から先生に視線をうつして、真面目な顔をして言いました。
ノブコが真面目な顔になると、とても頭が良さそうになります。
「えっ!?」
ノブコの真剣な表情をみて、ただ事ではないと思ったのか、先生が驚いた表情になりました。
「あ、あのう、奈々先輩、ちーちゃん。かみ……マモリちゃんを図書室に案内してくださいませんか」
「と、図書室? いいの?」
神様が目をまん丸にして、キラキラ輝かせてユウキに聞きました。
「はい!! 先輩! お願いします!」
ユウキが両手を合せて、奈々とちーちゃんに頭をさげます。
「まあ、わかったわ」
奈々とちーちゃんは返事とはうらはら、表情はうれしそうです。
まあ、神様は美しいですからね。
「ああ、みんな! 僕は行くけど、あの事は気にしなくて良いからね。本当は聞かせるつもりは無かったんだ。三人は僕が絶対に守るから、安心して楽しく学園生活を送ってほしいんだ。じゃあね」
そう言うと神様は奈々と、ちーちゃんに手を引っ張られて、音楽準備室から出ていきました。
「あのこと?」
吉田先生は、すぐに何かに感づいたみたいですね。
「お姉様、聞いて下さい。たいへんなんです」
ユウキは、吉田先生の顔に自分の顔を近づけました。
「と、その前に、お茶でも用意しましょう。全員席についてください」
全員が、部屋の中央に置いてある机の回りのイスに座ると、先生は全員の前に紙コップを用意しました。
そして、安物のティーパックで出した紅茶を入れていきます。
安物でも、部屋中に紅茶の良い香りが広がります。
「さて、聞かせていただきましょう」
先生は、イスに座ると一口紅茶を飲んで腕を組みました。
ユウキとエイリとノブコはお互いに顔を見合わせます。
ユウキとエイリがフンフンとうなずきます。
ノブコは自分を指さしました。
「では、説明します」
ノブコが、メガネを指で上に押し上げると、メガネが白く光を反射します。
ノブコは体を前にのり出して、自分の顔を先生の顔にグッと近づけます
「お、お願いします」
ノブコの迫力にまけて、先生が少し後ろにのけぞりました。
「異世界人がこの世界に攻めてきます」
「ええっ!!」
「うふふ、こんなことを言われても信じられないと思いますが、これは事実です。信じていただけますか」
「神様が言ったことなのでしょ。それなら、言われなくても真実だとすぐに理解出来ます。はやく続きを」
「あっ、そうでした。わたし達三人は、少しでもなにか神様の手助けがしたいと思って、行動を起こしました」
どうやら、ノブコは信じてもらえないと想定していたようですね。
「それが、なんで軽音部なのですか?」
「実は軽音部ではなく、オカ研部だとおもってやって来たのです」
「ああ、オカルト研究部とでも思ったのですね。でも、オカルトって、あなた達は高校生ですよね」
「あの、先生は、神様も異世界人も信じていますよね。じゃあ、カッパも信じて下さい」
「あはは、カッパ! 妖怪なんているわけありませ……まさか?」
「カッパはいます。そして、私の予想ですが、この世界の妖怪はひょっとすると、異世界人の種族なのでは無いかと。少なくともカッパは神様の世界の存在でした」
「なるほど、それを探そうというわけですね。あの、カッパに会うことは出来るのですか」
先生が目をキラキラ輝かせます。
まるで、おもちゃ屋さんで超合金のロボを見ている昭和の子供の様な目です。
「私は会わない方がいいと思いますが、神様に頼めば会えると思います」
こうして、ノブコはこれまでのいきさつを細かく先生に話しました。