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0052 廃墟に開く悪魔の口

五人のカッパ戦士は、それでも強い戦士だったのでしょう。

数十秒と立たないうちに目を開きます。


「ぐぞーー!! まだまだだーー!! おらだじは、まだ負けてねえだーー!!」


ヨロヨロと体を震わせながら立ち上がろうとします。


「いい加減にしなさーーい!! もう、見ていられませーん!! みぐるしいデェース!!」


デェスが認識阻害をといて本当の姿をあらわしました。


「うわあああああああぁぁーーーーーーーーっっ!!!!!!」


五人のカッパ達が驚きの声を上げ平伏しました。


「ピッピ王女様!! はっははーーっ!!」


カッパ達のリーダーがそう言うと、アスファルトに額を付けました。


「えっええーーっ!!」


ユウキ達が驚きの声を上げました。

デェスが王女様なんて、驚きですよね。


「おらが王女様で驚かせてしまったデェースか」


「ち、違います。全員同じ姿にしか見えないのに、よく見分けられたなあという驚きです」


ユウキが言いました。

た、確かにデェスを含めて、六人のカッパが全員同じに見えます。

でも、皆は王女様の方に驚いていたみたいですよ。

皆が小声で「言われて見れば見分けが付きません」と言っていますから。

ユウキはやっぱり少しずれているようです。


「おめー達は何を言うだ! ピッピ王女様からは、あふれ出す気品があるだ。おら達とは全然ちがうだーー!!」


言われて良く見ると、デェスと他のカッパとは頭の天辺の皿の大きさが少し違います。

デェスの方が少し小さいです。

私はこの大発見をユウキの耳元でユウキに教えてあげようと思います。


「ユウキ! 大発見ニャ! 皿ニャ、頭の皿を見るニャ。デェスだけちょっと小さいニャ」


「本当です。大発見です!!」


ユウキは目をキラキラさせて喜んでくれました。


「ユウキちゃん、どうしたのですか?」


ノブコがユウキの言葉に反応しました。

ノブコには、まだ私の声は聞こえないみたいですね。


「うふふ、私は大発見しました。デェスちゃんと他の皆の違いを」


「ええっ??」


人間の全員がユウキの顔に注目しました。


「ふっふっふっ、それは、頭のハゲの大きさです。デェスちゃんだけ少し小さいのです!!」


「すごい! 本当です!!」


人間の全員が感動の声を出しました。


「ムッキーー!! な、何を言うのデェースかーー!! それは個体差です。そんな些細な事ではありませーーん。ぜんぜん、ちがいまーーす。なんでわかってくれないのデェースかー。それに頭のこれは、お皿デェース。ハゲではありませーーん。ひどすぎまーーす。がっかりデェーース。ふえぇーーん」


あらあら、デェスちゃんが悲しそうに泣き声を出しました。

全員が「何てことを言うんだ」という目でユウキを見つめます。

責めているような目です。

ユウキがシュンとしました。

ごめんなさい。それを言ったのは私です。


「ピッピ王女様、しょうがねえだ。おら達だって人間はパンツの色の違いでしか判別できねえだ」


カッパのリーダーが言いました。


「た、確かに」


他のカッパとデェスが納得しました。

いやいや、他にもあるでしょーー!!

しまった。リーダーのギャグに突っ込んでしまいました。


「デェス。皆に認識阻害で人間の姿になってもらってください」


「は、はいデェース。皆!! 神様がそうおっしゃっていまーす。すぐに人間になってくださーい」


デェスはマモリ様をあえて神様と言いましたね。

王女様が神様と敬えば、他の五人も神様と敬わねばなりませんからね。


「えええぇぇぇーーーー!!!! 女の子がいるーー」


またもや、人間の全員から声が出ました。

カッパ五人衆の中の一人が女の子になっています。


「ひ、ひどいだー。皆さんには私が男に見えていたのだかー」


「いいえ、男に見えていたのでは無くて全員同じで見分けがつかなかっただけです」


ユウキが正直に言ってしまいました。


「そっちの方が余計にひどいだーー!! おらが、こんなおじさんと同じに見えているなんてーー!!」


「ぷっ、あはははは」


皆が笑いました。

その笑いが収まるとマモリ様はカッパ五人衆を見つめます。


「そのままでは、皆を呼びにくいので名前をつけます。あなたはアカ、あなたはアオ、そしてあなたはキイ、あなたはミド、あなたはモモです」


マモリ様は全員の髪の色で名前をつけてしまいました。

女の子は桃色の髪なのでモモにしたようです。

カッパ達は見た目では誰かわからないためか、髪の毛の色を変えて見ためを人間にしたようです。


「さて、モモに聞きます。まだ中に一人いますね」


「いるだ。いまいましいやつだ。いつもおら達の邪魔をするだ」


「仲間ではないのですか?」


「仲間なんかではねーだ。むしろ敵だ。大きな魔力を持っているから戦ってはいねえだが、何を考えているのかわからねえ奴だ」


「そうですか、ありがとうございます。皆さんは危険があるかもしれません。ここにいてください。カッパ達はデェス頼みます」


マモリ様はそう言うと、ひとりで崩れ落ちた宿泊施設の入り口に向います。

まだ見ぬ敵がいると思うと、崩れ落ちた入り口は悪魔の口のように見えます。

どす黒いオーラがユラユラ揺れているように感じます。


そんな、恐ろしい廃墟に向うマモリ様に、駆け寄る後ろ姿が私の目に飛び込んで来ました。

マモリ様の言いつけを守らずに駆け寄るのはユウキでした。

ユウキはマモリ様に駆け寄ると、その手を当たり前のように握りました。でもその手は少し震えているようですね。

エイリとノブコも少し腰を浮かせましたが、すぐに元に戻しました。

二人で行かせてあげるつもりのようです。

やさしいですね。


マモリ様とユウキの姿が、廃墟の入り口の闇の中に少しずつ溶け込んでいきます。

やがて二人の姿は闇に消えてしまいました。

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