マモリ様とユウキは建物に入ると、動画で見たままの景色の中を進んで行きます。
でも、動画と違うのは昼間なので動画ほど建物の中が暗くないこと、もう一つが人を食べる化け物が五人いなくなった事で、恐さは半減しています。
「大丈夫? ユウキ」
「はい」
マモリ様がユウキに声を掛けました。
マモリ様が声を掛けるほどユウキの様子がおかしくなっています。
踊り場にイスのある階段を上り三階まで来ました。
ここまで上ると、ユウキは肩を揺らしています。
「スン、スン」
ユウキは息を吸うときに音が出るようになりました。
顔をのぞき込んだら、涙を流して泣いています。
いったい何があったのでしょうか。
よくある心霊に乗り移られた現象でしょうか。
マモリ様は、優しい顔でユウキの顔を無言で見ているだけです。
やがて、歩くのをやめて立ち止まりました。
ユウキの瞳は、そこにまるで誰かが歩いているのを見守るように動きます。
――あっ、部屋に入りました。
そうか、わかりました。
ユウキはこの廃墟の宿泊施設で、旅行を楽しんでいる人の幻影を見ているのです。
廃墟だからこそ感じる虚無感がそうさせるのでしょうか、想像力がかき立てられて、ここが営業している時を想像させるようです。
楽しそうに会話をする家族連れの姿がみえているのでしょう。
「ねえ、おかあさん! 今日はたのしかったね!! 晩ご飯も美味しかった」
「そうね。また来ましょうね」
「うん! 絶対来る」
そんな会話が聞こえてくるようです。
廃墟だった壁や天井が、営業している当時の美しさにパーッとかわっていきます。
多くの家族連れが笑顔ですれ違います。
――あああぁーっ!!!! わかったーー!!
わかってしまいました。
あそこにユウキのお母さんと、お姉さんが手をつないで歩いています。
そして、お父さんと手をつないで、うれしそうに会話をする少女がいます。
「おとうさん、おかあさん、おねえちゃん。ううっ……」
三人が部屋に入りました。
ユウキの家族はユウキが幼い時に事故で亡くなっています。
まさか、会いに来てくれたのでしょうか。
営業している綺麗で、にぎやかな高級ホテルでは得られない雰囲気がそうさせるのでしょうか、ユウキは失った家族に会えたようです。
ユウキは、家族の入っていった部屋の扉に小さく手を振りました。
「うううっっ」
ユウキは両手で顔を覆うと、心の底から吹き出す悲しみを押し殺しように泣き声をもらしました。
事故がなければ、楽しく家族で暮らせていたはずなのに、くやしいのでしょうね。
「がみざま、ごべんだざい。ぼう、だいじょうぶです」
あんまり大丈夫ではなさそうですが、目をゴシゴシこするとユウキはそういいました。
「……」
マモリ様はユウキの言葉を聞くと無言でうなずき突き当たりの部屋を見つめます。
あそこは赤いイスのある、広い御姫様の部屋のような所でした。
さっきまでは綺麗なホテルのように見えていましたが、急にボロボロの廃墟の中に引き戻されました。
「嫌な感じがします」
ユウキは、マモリ様と一緒に過ごした時間が長いので、この空気の揺らぎのような物を感じられるみたいですね。
あのカッパ五人衆の五人合せた揺らぎより、はるかに大きいです。
ユウキの腕の毛穴が閉じて鳥肌になっています。
パキッパキッと足元で歩くたびに音がします。
本当は無音で気配を消したいのでしょうけれど、それは無理のようです。
「うっ!?」
ユウキが、部屋の中を見て声を出しました。
入り口から人影が見えるのです。
でも、その影が異常です。
頭と首、肩と上半身の影が見えるのですが、頭の真ん中に長いものが見えます。
「て……ん、ぐ……」
ユウキがゆっくり言いました。
そうです。鼻の長い妖怪、天狗の顔に見えます。
「うわっ!!」
ユウキが驚きの声を上げると、影が消えて黒い四角い物が開けっぱなしのドアの中央にあらわれます。
そして、その黒い物から恐ろしく速い物が飛び出しました。
その速い物は、真っ直ぐユウキ目指して飛んできます。
パッシという音と共に、その速い物がユウキの前で止りました。
マモリ様の手からシュウシュウという音と共に煙が出ています。
その煙の中に矢が一本見えてきました。
黒い箱の中から撃ってきたようですね。
恐ろしい攻撃です。
「幻影魔法ですか。暗い所であんな攻撃をされたら、全く気付かずに射貫かれますね。明るい昼間で良かった。僕の一番大切なユウキを狙うとは許せませんね」
マモリ様が独り言にしては大きな声で言いました。
「ひいいぃぃぃぃーー!! ままま、待ってくださーい!! ちゃんと当たらないように四ミリ上に狙いを外しましたーー」
天狗は、弓の名手のようですね。
四ミリ頭の上に狙いを外して撃ったようです。
「知っていますよ。もし、当たる位置なら、光の速さで走っていって攻撃をくわえています」
マモリ様はゆっくり歩いて部屋に近づきます。
「ひいぃぃ、言っている事がいちいち恐いですぅーー。顔は二人とも超かわいいのにぃーー」
「まずは、姿を見せて下さい」
マモリ様は黒い箱に向って言いました。
「は、はいですぅーー」
ドアの向こうで姿をあらわしたのは、銀髪の耳の長い女性でした。
むむっ! おっぱいが半分出ている服を着ています。
しかも、その胸がとてもでかいです。
まさか、これが天狗の正体なのでしょうか?