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0061 贅沢は敵

「ささっ! マモリ様、こちらへ」


ガンネスは自分の横のイスに座るよう、マモリ様を手招きします。

そのイスは、会議室の大きなテーブルの正面でガンネスのすぐ横の席です。

ボスであるガンネスの座っているイスより贅沢なイスです。

このファミリーの守護神様であるマモリ様は、当然ガンネスファミリーのボス、ガンネスより偉いということですね。

王様が座るような超豪華なイスです。


「嫌だよう、そんなイス! 偉そうだもん。アスラン変わって」


既にアスランは、ガンネスファミリーの二番手になっているのでしょうか。

豪華なイスの斜め前の席に座っています。

マモリ様はアスランの襟首をつかむと、猫の子を運ぶように豪華なイスにアスランを、有無を言わさず置いてしまいました。

そして、マモリ様はアスランの席に座ってご満悦です。

ボスのガンネスが、アスランの顔を見てあきれたような表情をしています。

量の多いボサボサの赤髪の、恐い顔をした体の大きなアスランが、子猫の様にイスの上で小さくなっています。


「くっ、くっ、くっ」


幹部から我慢出来ずに笑い声が聞こえます。

みんな、ガタガタ肩が震えてしまっています。

マモリ様がイスに座ると、部屋にコーヒーのいい香りがしてきました。

部屋に少し太った貫禄のある女性が、お盆に飲み物をのせて運んで来ました。


「これが、私達が毎日お祈りしている祭壇のあるじかい? 滅茶苦茶可愛いじゃないか。あんた達、いたずらをしたら許しませんよ。マモリ様の分はクートが持ってくるからね。少し待っておくれ」


ガンネスの奥さんのようですね。

一目マモリ様を見たかったようです。

他の幹部の飲み物を運んでいる人達も、幹部達の信頼のおける奥さんのようです。

全員、マモリ様をチラチラ見ながら、口々に「可愛らしい」と言って頬を赤くして優しい表情になっています。


「うふふ、コーヒーの香りは最高だけど、飲むと苦いばかりだからね。僕はクートが入れたホットミルクが一番好きなんだ」


マモリ様が言い終わるのと同じタイミングで、クートが大きなマグカップに入ったホットミルクをマモリ様の前に置きました。


「マモリ様どうぞ!!」


クートは短めの銀髪をオールバックに決めて、かっこいい出来る執事のような服装にしています。

そして、軽くウインクをしました。

かーーっ!! かっこよすぎるだろう!!

恐い顔が逆に良いアクセントになって、素直にかっこいいですね。


「クート、ありがとう! うーーん、良い香りだね」


マグカップを鼻の前に持って来て、大きくミルクの甘い香りを吸い込みました。

その後、少しだけ口に含みます。そして、しばらく飲み込まず口の中で味わっています。


「いかがですか?」


「うん、いつも通りの最高の味です」


マモリ様が、幸せそうな笑顔をしました。


「か、かわいいねえ」


奥様方が、美味しそうなマモリ様の表情を見て、とろけそうな顔になりました。


「か、かわいすぎるーー!!」


ガンネスファミリーの幹部連中も、マモリ様のうっとりした笑顔をみて、幸せそうにほっこりしています。


「おい! 何をしている!! あれを持ってこい!!」


ほっこりを破ってガンネスが、扉の近くにいる幹部に言いました。

これだけのメンバーが集っていると、普段は偉そうにしている幹部も下っ端扱いですね。


「もたもたするんじゃねえ!!」


これ幸いと、アスランが大きな声を出すと席を立ち、扉の外へ走り出しました。

よかったですね。その変なイスから逃げられて。

扉の外に用意してあったのでしょう、大きなカバンを重そうにしてアスランが戻って来ました。

そのカバンを邪魔にならないように、マモリ様の横に置きました。

アスランはそのままマモリ様を護衛するかのように、マモリ様の後に立っています。よっぽど豪華なイスが嫌なようです。


カバンは、まるで死体でも入っていそうなくらいパンパンです。

でも血がしみだしていません。なんでしょうか?


「まさか、死体ですか?」


マモリ様も同じ事を思ったみたいです。


「ひゃははは、ちげーます。金でやす。入るだけ現金が入れてありやす。何億かは入っているんじゃねえでしょうか。とにかく詰め込みやした」


ガンネスの言葉を聞くと、マモリ様は悲しそうな表情をして、でも口だけは笑っているように変化させました。


「ありがとう、ガンネス。でも僕は、これはもらえない。もらいたくないんだ」


「へっ!? そ、それは、どうしてでやすか?」


「うん。ほら、僕はもともとこの国の住人じゃないでしょ」


「へい、そんなことは知っています。神様の国、天界の人でやしたなあ」


マモリ様は何か言いかけましたが、いったんそれを飲み込みました。

きっと、神様の国じゃないと否定したかったのでしょうね。わかってしまいます。

マモリ様は苦笑して続けます。


「ふふ、だからね、ガンネス。僕はこの国に暮らす、貧しくても一生懸命暮らしている人より贅沢をしたくないんだ。たとえば、ユウキのおばあさんが貰う、国民が人間らしく暮らすためのお金、国民年金は手取りでは四万円も貰っていないんだ。だから、お年寄りなのに一生懸命、毎日農作業をしている。この国にもホームレスがいて、家すらなくてそれでも誰からも助けてもらえずに、空き缶を拾ったりして毎日懸命に生きている、そんな人もいるんだよ。僕がそのお金をもらったら、きっとその人達より贅沢をしてしまう」


そうですよね。他国なら、外国人を助ける余裕があるのなら、困っている自国民から優先的に救って、その後から外国人を助けますよね。

まあ私は、日本人が他国を助ける事を良しとする民族ということも知っていますけどね。


「へぇ」


ガンネスは生返事をしました。

外国人ですものね。


「外国人を助けるため、日本人は、貧乏に耐えながら生きているんだ。僕はお金が無くても生きていける。だからね、ガンネス! 僕は最低な暮しで我慢してくれている日本人より贅沢は出来ない、したくないんだ。このまま文無しがいいんだ。そのお金は、秋に侵略してくる異世界人から、日本人とガンネスファミリーを守るために使って欲しい」


「マモリ様!?」


ガンネスが驚いた顔をします。


「うん。侵略者はこの世界の、秋の収穫が終わったら攻めて来るつもりです。収穫したばかりの作物も根こそぎ持って行くつもりだよ。きっとこの世界は酷い食糧難になるはずです。ガンネス、しっかりファミリーをまもってください」


「マモリさまぁーー!!」


奥様方がマモリ様の名前を呼んで涙ぐんでいます。

幹部の中にもウルウルしている人がいますね。


「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! マモリ様ーー!!!!」


無欲なマモリ様に感動したのか、アスランがイスの後ろからマモリ様に抱きつきました。


「このヤローー!!!!!!」


会議室全体が割れそうな程の叫び声が、部屋中を震動させました。

アスランは一番近くにいた、ガンネスの奥さんにお盆で力一杯はたかれました。

ガーーンという音と共にお盆が割れて飛んで行き、床でグワングワンと回転しています。


「ふふっ、ガンネス用事が済んだら僕は帰るよ」


マモリ様は、アスランの血が噴き出す頭に手をかざして、アスランの血が止まるのを確認すると帰ろうとしました。


「いえ、待って下さい。話はこれからでやす」


ガンネスは、じっとマモリ様の顔を見つめました。「マモリ様を呼び出した本当の理由はこっちです」と言っているようです。

何でしょうか? 気になります。

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