「うわあああああああぁぁぁぁーーーーーーーーっっ!!!!!!」
「おおーーとっ!! 会場から一際大きな歓声が上がります。アメリカチームの最後の砦、ヘラクレス モーガン選手の入場です!!」
「ナンバーーワーーン!!!!」
「おおーーとっ!! モーガン選手が右手を高く上げ人差し指を突き出します。プロレスファンなら、誰もがおなじみのポーズです。モーガン選手は現役最強の世界チャンピオンです。どんな試合を見せてくれるのでしょうかーー!!」
舞台にモーガンが上がると、審判が二人に注意事項を説明し始めます。
「勝ってくれーー!! たのむーー!!」
「ころせーー!! 日本人なんぞ殺してしまえーー!!」
「モーガン!! 四人ともぶち殺してくれーー!!」
観客から悲壮感のただよう声援が聞こえてきます。
かたき役の高橋一郎への声援は皆無ですね。
「オイ! 猿!! 勘違いするんじゃねえぞ!! おめーが倒したのは、たかがボクシングの元世界チャンピオンだ。世界最強の格闘技はプロレスだ。そして、その現役チャンピオン様がこの俺様だ。ぶっ殺してやる!! 覚悟をするんだな!!」
柔らかな金髪を揺らしながら、青い目をつり上げて、二メートル程の巨大な体のモーガンがドスの利いた声で、高橋一郎を見おろして言いました。
「ふっ! おめー達はつくづく、めでてー頭をしている様だな。まだ、どっちが格上かも見分けがつかねえと来たもんだ。まったくやれやれだぜ」
標準的な日本人の体格をしている高橋一郎が言いました。
二人が並ぶと、大人と子供です。
どう考えてもモーガンの方が強そうに見えますが、まあ、実力は異世界人の高橋一郎の方が上でしょうね。
「……はじめーーっ!!」
審判は何も聞かない二人に、説明を一通り言うだけ言うと試合を始めてしまいました。
「おい、デカブツ好きに攻めさせてやる。やってみろ!!」
一郎が笑いながら言いました。
挑発されたモーガンは、みるみる顔が真っ赤になります。
「こ、このやろーー!! いい度胸だーー!!」
「おおーーとっ!! これはいけません。高橋一郎選手は、またも棒立ちだ! しかも手の平で挑発しています。モーガン選手が高橋一郎選手に近づきーー! 右手を伸ばしましたーー! いったい何が始まるというのかーー!? その右手を高橋選手の頭の上にのばしー、そのまま頭をつかみましたー! フリッツ・フォン・エリック選手をほうふつとさせる、アイアンクロー、ブレーンクローだーー!! モーガン選手の巨大な手が高橋選手の頭全体を包み込みます。これは、いけません!! このままでは脳波が乱れて、再起不能になってしまいます!」
「やっぱりかよ! 期待外れもいいところだ!! まるで効かねえ!」
高橋一郎が顔色一つ変えずに言います。
それを聞くと、モーガンはさらに右手に力をいれます。
ガクガク右手が震えだしましたが、やはり効かないのか高橋一郎は涼しい顔をしたままです。
「ふん、もう気が済んだか!! 遊びは終わりだ!」
高橋一郎が頭をつかむモーガンの手の、親指と小指を右手と左手でつかみました。
「ぎえぇぇぇぇぇぇっっ!!!!」
「おおーーとっ!! いけません、高橋選手! モーガン選手の指一本をつかんでの攻撃です。これは反則です――いえ、反則なのはプロレスの場合でした。ここでは反則はありません。モーガン選手が大きく悲鳴を上げました。おおーーとっ!! これは酷い、モーガン選手の親指と小指が折れています」
「おいおい、おめーの指は爪楊枝か? 軽く折れちまったじゃねえか。くっくっくっ」
高橋一郎が苦しむモーガンの顔に自分の顔を近づけて言いました。
「ぐぞおぉぉぉーーーー!!!!」
「おおーーとっ!! モーガン選手、恐ろしい表情で叫び声をあげて、左手を握りしめ振り上げていまーす! その拳をそのまま高橋選手の頭に振り降ろしまーーす! ハンマーのように恐るべき勢いで高橋選手の頭の上に落ちていきましたーー!!」
「これが、どうかしたのか?」
高橋一郎は、その拳が頭に触れる寸前の所で、左手の指二本でモーガンのハンマーパンチを止めました。
モーガンの動きがピタリと止まりました。
「うがっ!!」
動きが止まったモーガンの腹に、高橋一郎はまたもや拳を出しました。
モーガンは、大きく高く吹飛びました。
舞台の上から落ちると。
「ごぶえぇぇぇぇ、ごえぇぇぇ、ぶはっ!!」
モーガンは口から、腹の中の物を全て吐き出したようです。
マモリ様の小指が微かに動きました。
モーガンも致命傷を受けていたようですね。
「おおーーとっ!! ここで審判の手が頭上でクロスされました。これでアメリカチームの敗退が決まりましたー! 二番人気のアメリカチームが敗退し、七番人気の日本人マフィアチームの勝利が決定しました。しかも、高橋一郎選手一人で四人を倒すという快挙です。決勝へはこのチームが進むのは間違いないでしょう。そして第二試合は、私がいつもお世話になっている麻薬の密輸でおなじみ、南米系マフィアチームと、人気最下位のガンネスファミリーチームです」
いよいよ、ガンネス一家の登場ですね。
先鋒のデェスが舞台に進みます。
まだ、舞台の下ではモーガンが吐き出した血の掃除を必死でやっている最中です。
「おおーーとっ!! これは、いけません。舞台の上に初めて女性が上ります。地下武闘大会十年の歴史の中で初めての女性選手です。この大会をなめているとしか思えません。ガンネスファミリーは勝負を捨てているのでしょうか。おおーーとっ!! しかも出場選手の名前が姫神デェス、姫神ズラー、姫神ダニー、姫神マモリです。完全になめています。なめきっています。大会へのぼうとくです。おおーーとっ!! 姫神デェス選手は何と言うハレンチな格好でしょう。ビキニアーマーを着ている戦士を私は初めて見ました。胸など隠れている部分の方が少ないくらいです。ですが美しい。美女です。歩くだけでも揺れています。戦ったらどうなるというのでしょうかーー!!」
まあ、デェスの場合はそう見えているだけで、本当の胸は甲羅ですけどね。
「隊長、どうやらこの世界の人間はたかが知れていますね」
ベンチにもどった高橋一郎が奥のベンチで偉そうに座っている男に言いました。
「うむ、世界で一番強い奴があの程度では、俺達が侵略を始めたら日本など一年で占領できそうだな」
「ふふふっ、半年で十分でしょう。それより奥で酒でも飲みませんか?」
「うむ、こんな試合は見る価値もなさそうだ。いこう」
日本チームはいったん、奥で飲み物を飲むためベンチから消えました。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーーっっ!!!!!」
観客から大歓声が上がりました。
一体何があったのでしょうか。