「おぉーーとっ!! 敗退したアメリカチームのベンチに今回優勝の大本命ファルコンチームの入場です。そしてベンチの前にコング選手が出てきて、ファンサービスです」
「コングさまー!!」
「うおおおぉぉぉーーーーーーーーっ!!!!!」
「コング!! 今年も全勝だーー!!」
「お聞きください! コロシアムに女性の黄色い声援! 男性の喚声が響きます。九年連続でファルコンチームを優勝に導いた立役者、このコング選手こそこの大会最強の戦士です。そして、今年は何とファルコンチームはコング選手一人でエントリー、まあ、これまでの大会もコング選手の全勝で優勝していますので無理もありません。はたして、日本チームの高橋一郎選手がどこまで通用するのでしょうかーー!!」
コングと紹介されたファルコンチームの選手は、ベンチの前で観客席に向くと両手を大きく振っています。
甘いアイドルの様な顔に、二メートル程の身長、分厚い筋肉の鎧をまとっています。
上半身は裸で下は白いぶかぶかの、空手のズボンのような物をはいています。
でも、体からは空気の揺らぎ、魔力のような物はぜんぜん見えません。
これなら高橋一郎選手が戦えば、圧勝するのではないでしょうか。
「あいつ、恐ろしい気配を感じるダニ」
「さすがですね。僕も感じます」
えーーっ!!
私には全くわかりません。
でも、ダニーとマモリ様がいうのなら間違いありません。
きっと、強いのでしょう。
「きゃーーっ!!!!」
コングは笑顔になると、真っ白な歯を見せました。
見せた歯がキラリと光ります。
最強の戦士には似つかわしくない、可愛い笑顔です。
女性ファンがメロメロになっています。
そして、ベンチに戻ると舞台に目をやりました。
「なっ、なにっ!!」
コングは舞台を見て驚いています。
何があったというのでしょうか?
「うっ、嘘だろ??」
コングは今度、ガンネスファミリーの選手の座る、このベンチを見て驚いています。
まさか、あいつ、こっちの強さを感じ取っているのでしょうか?
だとすれば、あなどれる相手ではありませんね。
私は言い知れない恐怖を感じて体がぶるっと震えました。
「おおーーとっ!! これは、すごい!! 信じられません!! 半裸の女性戦士、デェス選手が高橋一郎選手に続き四人抜きをしてしまいましたーー!! これで、ガンネスチームの勝利です。人気最下位ながら二回戦進出を果たしました。二回戦はなんと全勝同士、高橋一郎選手とデェス選手の注目の対戦から始まります」
「おいおい、今度は裸のねーちゃんが舞台にいるぞ」
さっき、高橋一郎に隊長と呼ばれていた男が、一杯飲んできたのでしょうか、赤い顔をしてお酒の臭いをさせながらベンチに戻って来ました。
裸ではありません。
ちゃんと、着ています。良く見てください。
ううっ、言っていて情けなくなりました。
酔っぱらいが裸と勘違いするような戦闘服って、デェスちゃんもうちょっと、露出をひかえてほしいです。
「ストリップでも始まるのでしょうか?」
高橋一郎がニヤニヤしながら言いました。
「地下武闘大会だからな、そのくれーのサービスはあるのかもしれねえ。良く見りゃあけっこういい女じゃねえか」
隊長がデェスちゃんの体を嫌らしい目で見つめます。
うふっ、本当の姿を見せてあげたいです。
「いえ、あいつが勝者のようです」
高橋一郎が、少し驚いた表情で舞台の上を見ながら言いました。
「ふん、あんなエロいだけのおっぱいねーちゃんに負けるのか。人間とは全く弱い生き物だなあ」
まだ、異世界にはセクハラという言葉はないみたいですね。
「あのー、次の試合が始まります。準備をお願いします」
うさぎのお姉さんが、震えながら日本チームのベンチに来て言いました。
「お、おいおい、何があった? まだ、十分と、立っていねーぞ。まさか、あのねーちゃんが俺達の次の試合の相手なのか?」
「はい、あのデェス選手が相手チームを秒殺しましたので」
うさぎのおねーさんは舞台の上を見ながら言いました。
「なにっ!! あの裸のねーちゃんが秒殺? そんなにつえーのか?」
隊長の酔いが覚めたのか、すっと顔色が元に戻って言いました。
「ふん、しょせん、人間の女です。俺がたたきのめしてやりますよ」
高橋一郎選手がベンチから一歩足を踏み出しました。
「まて、見ろ!! 奴の体から魔力のような物を感じる。ただものじゃねえ!!」
隊長がデェスの異様さに気が付いたようですね。
ちぇっ気付かなければ良かったのに、まあ、敵ながら天晴れです。
「まさか? 何者なのでしょう?」
「ふふっ、それはわからん。だが、いままでは人間の世界に何故潜入する必要があるのかと思っていたが、いま潜入してよかったと言う事がわかった。俺達の知らねえ何者かがいるということだろう。まあ、負けるとは思わねえが、慎重に行動し決して、姿形にまどわされ油断をするな」
「はっ!!」
高橋一郎は、さっきまでのゆるんだ表情が一瞬で引き締まりました。
「おぉーーとっ!! すぐに日本チームの高橋一郎選手が舞台に上ります。姫神デェス選手は、試合が終わったばかりなので、三十分の休憩が許されているはずですが、そのまま戦うようです。さっきの高橋一郎選手の試合を見ていなかったのでしょうか? それとも、それを知った上でこのまま戦っても勝てるという自信なのでしょうかー? 注目の試合が始まろうとしています!!」
舞台の中央にデェスと高橋一郎が並びました。
「デェスちゃーーん!! がんばれーー!!」
「ガンネース!! 日本人をころせーー!!」
「そうだそうだー!! ぶっころせーー!!」
観客席からデェスちゃんを応援する声も聞こえますが、相変わらず日本人は不人気ですね。
審判のいつもの説明が始まります。
当然のように二人とも聞いていません。
「よろしくお願いするデェース」ぷるん
最初に口を開いたのはデェスでした。
話し終わると、なぜか胸がぷるんと揺れます。演出でしょうか。
「おっ、おう!!」
おぉーーとっ!! 高橋一郎選手の顔が赤くなり、鼻の下がのびています。
――いけません。マーシーの話し方がうつってしまいました。
デェスちゃんの胸は目の前で見ると、破壊力が違うと言うことでしょうか。
でも、高橋一郎の視線が胸に移動した瞬間、デェスちゃんの目が鋭く吊り上がり、白く輝きました。とてもこわいでぇす。今度はデェスちゃんの話し方がうつってしまいました。
デェスちゃんは一瞬で、高橋一郎を油断させるのに成功したようです。
男の人は女の人のエッチな衣装には決して油断しない方がいいですね。
「はじめーー!!」
もう、いい加減誰も聞いていないので、審判は説明を早めに切り上げて試合開始を宣言しました。