「おーーと!? 二人ともまったく構える様子がありません。まったく動く様子もありません。これはどうしたことかー? はっ!! こ、これは、アニメや映画でおなじみの、速すぎて動いているのが普通の人間には見えていないという現象かー? こんなこともあろうかと、こんなこともあろうかとーー! 特別に用意しましたー!! いいえ私が無理を言って用意してもらいましたーー!! 超高速高解像度カメラ、これなら、どんな速さでも捕らえることができます。コロシアムの巨大スクリーンをご覧くださーーい!!」
マーシーが言うとコロシアムの壁に、東西に二つ備え付けられた、巨大スクリーンに審判の「はじめーー!!」の合図の所から映し出されます。
審判の「はじめーー」が超スローモーションで映し出されます。
そして、一郎とデェスの姿は微動だにせず、そのまま突っ立たままの姿で映し出されます。
「あれーー??」
「バカヤロー!!!!」
「なにが『あれーー』だー!!」
「可愛くねーんだよー!!」
「動いてねーじゃねーかー!!」
観客から文句が出ました。
舞台の上で、一郎とデェスが腹を抱えて笑っています。
二人とも自分が強いと言う余裕がにじみ出ています。
「マ、マモリ様。あのデェスという女性は大丈夫ですか?」
アスランが心配そうにマモリ様に聞きました。
「バカヤロー!!!! デェスが最弱種の人間なんかに負けるわけがねえダニ! 黙って見ているダニ!!」
アスランの質問に、ダニーが答えました。
「えっ!? 最弱種?」
「うふふっ! デェスは手加減が上手になっていますから、わからないかも知れませんが強いですよ。デェスから見れば、異世界人の兵士など、この世界の人間と同じ程度にしか見えていないはずです」
マモリ様が可愛い笑顔で答えました。
デェスにとっては、きっと異世界人も人間もネズミ程度にしか見えないのでしょうね。
異世界人の兵士が少し大きいネズミなら、この世界の人間は少し小さいネズミ程度という事なのでしょう。
「さーーて、女をいたぶるのは……」
舞台の上で、嫌な笑顔で高橋一郎が言いながら左足をゆっくり前に出しました。
「いたぶるのは、嫌なのデェスか?」ぷるん。
デェスはまだ、なにも構えを見せずに言いました。
「ふっふっふっ、大好物だからよう、まずは、裸にひんむいてやる!! こんな所に、のこのこ出て来たことを後悔させてやる!」
一郎は右手を素早くデェスにのばします。
その手は、デェスちゃんの胸にむかっています。
服を、はぎ取るつもりなのでしょうか?
「おおーーとっ!! これは、どうしたことだ。高橋一郎選手の足元がフラフラしています」
「ふふっ」
「ひひっ」
「くくっ」
マモリ様とダニーとズラーが笑いました。
「おおーーとっ!! そのまま、両手をブラブラしています。こ、これは、酔拳です。高橋一郎選手が酔拳を使い始めました。そして、そのまま舞台の上で横になりました。えっ……」
審判が、デェスちゃんの手を上げました。
一郎が手をのばした瞬間、デェスちゃんは素早くカウンター気味に、アゴ先を人差し指でチョンと押しました。
それだけですが、大きく脳が揺れたのでしょう。
一郎は立てなくなりました。
「なっ、なにがあった。畜生!! なにをしやあがった!!」
日本チームのベンチで隊長があわてています。
デェスちゃんが何をしたのかもわからないようですね。
隊長がその程度では……。
「おおぉーーとっ!! これはすごい、大変な事になりました!! デェス選手、日本チームの四人を全員倒してしまいましたー! あれほどの戦いをした高橋一郎選手以外の選手は雑魚だったのでしょう。これでガンネスファミリーが決勝進出を決めましたーー!!」
うふふ、雑魚扱いされていますが、高橋一郎から高橋四郎選手の順で実力順でしたよ。
「やべえ!! 無茶苦茶つえー!! 隊長、司令に報告しなければ!!」
デェスちゃんがしっかり手加減したので、ベンチで意識を取り戻した三郎が四郎、こと隊長に話しかけました。
さすがは隊長です。この中では最初に意識を取り戻しました。
「バカヤロー!!!! そんなことをしてみろ、せっかく決まった侵略が延期になるかもしれねえ。それに、司令なら倒せるはずだ。駄目なら元帥もいる。俺達が負けた事など報告する必要はない!! さっさと引き上げるぞ!!」
こうして、組織にほころびが出来るのでしょうね。
報連相は大切です。
巨大な堤防も、蟻の巣穴で決壊しますからね。
まあ、私が侵略者の心配をする必要もありませんけどね。
デェスちゃんが上手に手加減をして勝利したので、少しマモリ様の機嫌が良くなっています。ほっとしました。
「さあ、いよいよ、Bブロックの戦いが始まります。注目のチームはやはり、優勝候補ナンバーワン、一番人気のファルコンチームです」
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! コングーー!!!!」
「お聞きください。この声援を………………」
マーシーは絶好調で話していますが、Bブロックの選手にベンチを譲るために、マモリ様は控え室にいったん戻ります。
「ほら、ユウキちゃん! これも食べてみてください。とても美味しいですわ」
「ほら、ユウキさん! わたくしの方も食べてください。とても美味しいです」
「ほんらに、いわれへも、わらしのおくひは、ひろつしかありません。くひにはいりきりまふぇーん!」
ガンネスファミリーの控え室に近づくと、聞き覚えのある声が聞こえます。
あーあ、せっかく内緒にしていたのに、どこから嗅ぎつけたのか、あの子達が来ている見たいです。
でも、すごいですね。
マモリ様の機嫌は、マックスで良くなったみたいです。
「なんで、皆さんがいるのですかーー!!」
控え室の扉を開けると困った表情でマモリ様が言いました。
でも、口元はほころんでいます。
控え室は思ったより広くて、部屋の中央に大きな机があり、そこに沢山の食べ物が乗っています。
ピザのチーズの良いにおいがただよってきます。
そこで、ユウキが口一杯に食べ物を詰め込んで、さらにエイリとノブコに食べ物を詰め込まれようとしています。
ユウキの口の回りが、ケチャップやソースや油でベチョベチョになっています。可愛いですね。
「うふふ、マモリ様。わたし達に内緒はつれないですわ。駅で英樹さんから教えてもらいましたの」
エイリが言いました。
実家に帰ろうとしていたときに、駅でしょうか、幸魂工業高校の総長ヒデキに会ったみたいですね。
「駄目だよー。マフィアのイベントに来たらー危ないし、こんな所に出入りしているのがばれたら、大変な事になるよ。特にエイリとノブコは一般の人じゃないんだからー」
「でも、来てしまったものはしょうがないですね」
ユウキが可愛い笑顔で言いました。
「まったく、まったく! それは僕のセリフだよ!」
控え室で、しばらく食事を全員で楽しみました。