ユウキが大きなカバンを持ってうれしそうに神社の長い階段を上ってきます。
一段一段確かめるように、懐かしい思い出を思い出しながら上っているようです。
最期の階段を上り終わる時に、マモリ様が神社に戻って来ました。
「かみさまぁーー!!」
ユウキがマモリ様を見つけて、うれしそうな顔をして手を千切れそうなほど激しく降ります。
「ユウキーー!! おはよーーぅ!!」
マモリ様もそれにこたえます。
なつかしい。とてもなつかしいです。
これが、ユウキとマモリ様、いいえ神様の毎日の始まりでした。
ユウキは走り出します。まるで子供のようです。
うふふ、子供の頃のユウキの姿が、今のユウキの姿の横に見えてきました。
そして、神様に飛びつきました。
昨日も一緒にいたはずですが、ここで会うのはまた全然違うのでしょうね。
「あはははは!! なつかしーーい!!!!」
「ねえ、ユウキ大きなカバンだねえ。何が入っているの?」
神様が、ユウキの不自然に大きいカバンに気がつきました。
「あーーこれ。お昼ご飯のおにぎりと、水筒、そして夏休みの宿題!」
「へーーっ……まさか今日中に終わらせるつもりなの?」
「そうだよ!! 今日中に終わらせて、後のお休みは遊びまくるのよ。だって、夏休みなんてすぐに終わってしまうもの」
「いくらユウキでも、一人で一日だけでこの量を終わらせるのは無理じゃないかなあ」
「あら、なんで一人なのですか。神様と私の字はほとんど同じです。絶対にばれません。さあ、頑張りますよ」
「えーーっ!! 僕の字はユウキより綺麗だよー!! 真似して書いてあげているんだよーー!!」
文句を言うところがそこですか。
確かに、ユウキは字が致命的に汚いです。
見た目も美しく、頭もよくて運動神経もいいユウキですが、字がとても汚いのです。
毒を飲まされて、けいれんしているミミズのような字です。
「さあ、さあ、時間がありません始めますよ」
でも、神様は問題が中々解けないみたいです。
それはそうですよね。高校の授業なんか受けていないのですから。
問題が解けない神様に、ユウキは一つ一つ教科書で説明しています。
そんなことをしていては、余計に時間がかかると思います。
いいえ、違いますね。ユウキは、神様に授業をしているみたいですね。
思い出しました。こうやって神様は、言葉と文字、算数や社会を憶えたのです。
「大変デェス!!!!」
そんな神様とユウキが、お昼ご飯を食べ終わって、授業を再開して少したった頃にデェスちゃんが来ました。
「たっ、たいへん!!!!」
神様が敏感に反応します。
「どうしたのですか?」
たいへんと聞いて、ポンコツになっている神様に変わってユウキが質問しました。
「はい、道路を沢山の自動車がここに向って来ているデェス」
「あーーっ! それはガンネスです。心配いりません。でも、おかしいですねえ。控えめにと言ったはずなのですが」
五分ほどで自動車は、神社の下の空き地、バスの回転場に止まったようです。
ゾロゾロ、安土のお山の階段をのぼってきます。
安土のお山の上の神社には、既に心配してカッパと天狗と鬼の全員が集結しました。
「おおっ!! 神様!!!!」
鳥居をくぐって、神様を見つけたガンネスが言いました。
ガンネスの他には三狂獣とヒサシ、そしてスーツ姿の男達が十人以上います。
「う、美しい!! お美しい女神様が二人もいる!!」
一緒に来ていたスーツ姿の男達が口々に言いました。
「ここは、すごい場所でやすなあ!! 周囲が深い山で、道が一本有るだけ、陸の孤島です。もし、戦争が起きても守りやすそうだ。ここを梁山泊に出来そうでやすなあ」
ヒサシが神社の長い階段を登りおわって、周囲を見回しながら言いました。
「なるほど、ここがこの国の最期の砦になるかもしれません」
オールバックの銀髪、イケメンのクートが言いました。
「そうなったときのために、大きな工事が必要ですなあ!!」
ガンネスが棒読みで言いました。
下手な芝居ですね。
車で打ち合わせをしてきたのでしょうか。
「ガンネス! こんなところまで敵が攻めて来たとしたら、もう既にその戦争は負けが決まっています。大げさな工事は必要ありません」
神様は、大げさなことは必要無いとピシャリと言いました。
「ははっ!!」
ガンネスは、神様の言葉で顔を伏せましたが、影が落ちた顔の、その口元はニヤリと悪党の口元になっています。
そして、手のひらを後ろにだけ見えるようにしてパタパタしています。
「おっ、お待ちください。我々は、小さな地元の建設会社です。万博の工事が終わって、仕事がなくなりました。そこにガンネスさんからありがたい工事の話です。我々のような小さな会社は、大手ゼネコンの下では中抜きによる中抜きで、降りてくる工賃は雀の涙です」
頭のはげたスーツのおじさんが言いました。
「そうです。そこにガンネスさんから直接の工事の話、中抜きがないのでそのまま我々の収入です。作業員にも五万の日当を払って欲しい。工事の金は言い値で支払うと言って頂きました。こんなありがたい話はありません。是非やらせて下さい。御願い致します」
やせて神経質そうなおじさんが言います。
「御願い致します!!!!」
スーツのおじさん全員が、神様に頭を下げました。
小さな建設会社も苦しい経営をしているのでしょう必死です。
さすがはガンネスですね。
神様の急所をよく知っています。
「ふーーっ!! お金が沢山いりますよ」
神様は長い大きなため息の後に困り顔で言いました。
「ふふふ、ガンネスファミリーの金は、その全てを神様が稼いでくれたようなもの、少しは神様の為に使わせてくだせい」
「ガンネスがいいのなら、それでいいです」
神様は少しだけ笑っています。
やれやれという表情ですね。
「ははっ!! みんなーグズグズするなーー!! 神様の気が変わらないうちにさっさと始めるぞーー!!」
ガンネスが言うと、スーツの男達は笑顔で鳥居をくぐって階段を降りていきました。
「うふふっ!! なんだかすごいお祭りになりそうです」
ユウキがうれしそうに笑います。
「ここが、神様の聖地でやすかーー!! ここにいるだけで何か力をもらっている気がいたしやす」
ガンネスは、スーツの男達を見送って、そのまま残って言いました。
大きく深呼吸を始めました。
「この方達が、姫神一族ですか。すごい迫力ですね」
クートが言い終わるとブルッと体を震わせました。
神様とユウキがおやしろの前に立ち、その両側を護衛するように、カッパと天狗と鬼が立っています。
そう言われてみれば迫力がありますね。
ガンネス達も少し神様と雑談すると帰って行きました。
翌日から、重機が入り大工事が始まります。