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0097 助けて

床に血の水たまりがドンドン大きくなります。

お母さんは唇を噛みしめて痛みに耐えています。

傷口はガタガタで、何かが近くで爆発したような見た目になっています。


「智子、御願い逃げて」


私は、聞こえていましたが聞こえないふりをして、どうしたらいいのか考えていました。

全身が凍るように寒いです。

両手がガタガタ動いて止まりません。

まずは、血を止めないと。

それでもこの考えにたどり着きました。


血を止めるためには、傷口のすぐ上の動脈を締める必要があります。

何か足を縛る物を探しました。

お母さんはズボンをはいています。

腰にはベルトがありました。


「お母さん借りるよ」


そう言ってベルトを外そうとします。

でも、手が震えてうまくいきません。

こんな時こそ落ち着かないといけないのに。


「ふぐうぅー」


変な声が出て来ます。

血が次々出て来ます。

いつもより時間がかかって、やっとベルトが外れました。

震えの止まらない手で傷口のすぐ上を締め付けます。

何度か流れ矢が、天井を壊しました。

出血は少なくなりましたが、それでもジワジワにじんできます。

私はこんな大けがを見た事がありません。

真っ白な骨まで見えています。


お母さんの出血が少なくなると、だいぶ落ち着きました。

でも、手は勝手にガタガタ別の生き物のように動きます。

まるで、切れたとかげの尻尾のようです。


「智子、よく聞いて」


「いや!!」


私は反抗期の子供の様に駄々をこねます。

お母さんは、右手を上げました。

烈火のように怒りの表情です。

でも、唇は紫色になっています。

弱々しく私の頬をペチンとしました。

そして、声を出さずにポロポロ涙をながしました。


私はさっきから、警察に電話をしようとしていますが、勝手に手が動いてしまってなかなかかけられません。

やっとダイヤルし終わっても、話し中でした。

消防も同じでした。


「ごめんね」


お母さんは、弱々しく謝りました。

私は、首をふってお母さんに抱きつきました。

いつぶりでしょう、お母さんに抱きついてあまえるのなんて。


「たれかーー!! たれかーー!! いませんかーー!! わたしたちはーー!! きゅうちょ隊てーーす!!」


声がしました。

よく考えればこんな発音の救助隊はいませんよね。

でも、私は。


「た、助けてくださーーーーい。ケガ人がいまーーす」


大声で返事をしてしまいました。


「おお、いまつぐいきまーーつ」

「おおーい、みんなーー、こっちに女がいまーーす」


私は全身に冷たい汗が噴き出しました。






「ひっひっひっ」


男達の姿はとてもかたぎには見えませんでした。

大きな傷痕が顔にある人や、目つきが殺し屋のような人、全部で5人ほどが集って来ました。


「べっぴんさんじゃねえか」


1番からだが大きい恐ろしい顔をした男が言いました。

リーダーでしょうか。


「2人ともべっぴんさんだ。だが、こっちはいけねえ。大けがをしているなあ」


殺し屋のような目の男が、お母さんの足の怪我に顔を近づけます。


「へっへっへっ、そう長くはなさそうですぜ」


「死んでからでは気持ちよくねえ。先にこっちを楽しむぞ。そっちの娘は逃げられないようにつかまえておけ」


リーダーの男が言いました。

私の体を、手下の2人が押さえつけました。


「なんで、なんで、こんなことをするのですかーーーー」


私は、さけんで暴れました。

手下は、あんまり出来が良くないようです。

私は、押さえつける手を振りほどくことが出来ました。

お母さんは、それを見て。


「ともこーー!! にげなさーーい!! にげてーー!!」


お母さんは、殺し屋の足に噛みつきました。


「いてーー!! なにをする!!」


殺し屋は、お母さんの出血する傷口に顔を出す骨を思い切り蹴りました。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!」


それは、耳を覆いたくなるような悲痛な叫びでした。

私はその悲鳴を聞くと全身から力が抜けてしまいました。


「ねえちゃん、勇ましいなあー」


そんな私に、リーダーがニコニコ顔で近づいてきます。

そして、髪の毛をわしづかみにして腹を殴りつけました。

内臓がズタズタになるような激痛が走ります。

同時に呼吸が出来なくなりました。


「がはっ!!」


息が出来なくて、とても苦しくて意識がとおくなります。

立っていられなくて、ひざからくずれおちました。


「なにしとるんじゃーー!!!!」


私を押さえつけていた手下の方が、激しく殴られて蹴られています。


「ねえちゃん、俺達を怒らせるんじゃねえ」


「げほっ、げほっ。な、なんでこんなことをするのですか?」


「ひゃははは、お前達は忘れているのかもしれんねえが、俺達は忘れていねえ。いや永遠に忘れねえ。第二次世界大戦の時日本軍がしたことをなあ。やっと、仕返しができるってもんだ。ひゃあぁーーはっはっはーー!!」


「ううっ、御願いします。なんでもします。母を、母だけは助けて下さい。御願いします。母だけはたすけてくださいーー!! うっうっうっ」


私は押さえつけるリーダーの男に懇願しました。


「ともこー、ちがう、ちがーーう。私が何でもします。私は何をされても抵抗しません。だから娘だけは助けて下さい。御願いします。御願いしまーーす。御願いします」


「バカなのかお前ら、俺達が楽しんだ後は2人仲良くあの世いきだ。最初から助ける気などは微塵もねえ」


「ぎゃはははははははーーーーーーー」


リーダーと殺し屋と傷痕の男が高笑いをします。


「ゆ、ゆるして、くたさーい」


手下の1人が、顔を腫らして私のスカートを引きずり落ろしました。

もう一人の手下が、母のズボンを引きずり落ろします。


「バカかー」


また、手下が殴られました。


「いきなり下を脱がす奴があるかーー。上から、楽しむんだろうがーー」


リーダーが言いました。

手下が、母の上着を脱がせます。


「しかし、若いなー。娘と言っていたが姉妹にしか見えねえぜ」


私も上着が脱がされました。


――誰か、誰か。助けて下さい。


お母さんのブラジャーが外されそうになっています。

そして、私のものも。






「おーーい、誰かいねーーかーー!! 助けに来たぞーーーー!!」


「ば、ばっきゃろーー!! そんな言い方じゃあ、誰もたすけてーーって言えねえだろうがよう」


がらの悪い体の大きな外国人が4人ほど近づいて来ました。


「た、たすけてーーーー!!」


私は「もうどうでもいいや」という気持ちで大声を出しました。


「この野郎!!」


リーダーが私の顔面を殴りつけました。


「きゃっ!!」


下を向いた私の顔から、ポッポッと血の滴が床に落ちました。


「ひひひ、兄貴、たすけてーーって聞こえましたぜ!!」


体の大きなどんぐり眼の外国人が言いました。


「おおーーい、だれか、いるのかーー??」


兄貴と呼ばれた髭面の外国人が言いました。


「うおっ!! 兄貴ーすげー恐い顔をした奴らがいるぜ。日本人かな??」


「誰が、日本人かーー!!」


「なんだ、ちがうのか」


髭面の外国人がいいました。

この人もすごく恐い悪人顔です。


「あの、何でもします。ですから、助けて下さい。そして、こいつらを……うっうっうぅぅ」


私は髭面の外国人に頼みました。

そのときブラジャーが外れそうになったので、手で胸を押さえて隠しました。

この人達もどうせ同じでしょうが、それ以上にリーダーや、殺し屋、傷痕の男が許せませんでした。


「ほう、助けたら本当に何でもしてくれるのか?」


「はい」


私はもうどうでも良くなっていました。

何もかもどうでもいいと思ってうなずきました。

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