「かわいそうになー。顔を殴られたのか。女の子の顔を血が出るほど殴るとは、どんな教育を受けてきたんだか」
髭面の外国人が私の顔を見て哀れむような表情で言いました。
「兄貴、この人は足がズタズタにされている」
どんぐり眼の外国人が言いました。
「こ、こりゃあひでー。ひでーことをしやーがるぜ。おめーたちは日本人になんの恨みがあるんだ」
髭面の外国人がリーダーをにらみ付けて言いました。
「ふん、俺達は第二次世界大戦の時に日本軍に酷い目にあわされた。だから、日本人には何をしても許されるのさ。だが、その女の足は俺達じゃねえ」
「おいおい、第二次世界大戦って何年前だよ。お前達の生まれる前じゃねえのか。それに今の日本人は、平和的でやさしい。自国の国民が貧乏のどん底でも、俺達みてーな不良外国人に、生活費をくれて大事にしてくれた。いまこそ、その恩を返すときじゃねえのか? おめーさん達とはとことん考え方があわねーようだな」
「うるせーー!! ごたくはいいんだよ!! 日本人の味方をするのならてめー達も日本人と同じだーー!!」
リーダーが、どなりつけて刃物を構えました。
それを見ると、殺し屋も、傷痕の男も刃物を構えます。
「おめー達、何をしている。おめー達もやるんだよ」
傷痕の男が手下の2人に言いました。
私達の服を脱がせていた2人の手下も刃物を出して構えます。
私はこの隙にブラジャーを素早く直しました。
外れかけているお母さんのブラジャーも直しました。
「おおーー、こわい、こわい。全員目が行っちゃってるよ」
髭面の外国人が笑いながら言いました。
でも、目だけは笑っていません。
青くギラギラ光ります。
私は体がブルッと震えました。
「やったれーー!! しねーー!!」
5人が一斉に髭面の外国人に襲いかかりました。
「うぎゃーー!! や、やられたーー!! うがーー!! ぐえーー!! どわああーー!!」
髭面の外国人が5人の刃物を体に受けました。
大きな悲鳴と共にヨロヨロよろけます。
よろけます。
そして、よろけます。
まだまだよろけます。
「なーーんちゃってな。防刃チョッキだ。だが、防刃チョッキを着ていなければどうなっていたか。本気で殺しに来るとはよう! おいたがすぎるぜ!! うりゃあーーーー!!」
迷彩服に五箇所穴が開いていますが、体はなんとも無いようです。
髭面の外国人はリーダーと殺し屋のえり首をつかむと、その体を建物の外に軽々と投げ捨てました。
すごい怪力です。
「うぎゃあああぁぁぁーーーー!!!!」
断末魔の悲鳴が聞こえました。
外に出れば、弓隊がすぐに見つけて矢をうってきます。
リーダーと殺し屋の体に矢が当たって、体の一部が吹飛ばされています。
「おい!」
どんぐり眼の外国人が一緒に来た外国人に言います。
「うぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!」
残りの3人が、同時に外にほうりだされました。
全員弓矢の餌食になったようです。
「さて、おめーさん。助けたら何でもしてくれるんだよな」
髭面の外国人が、恐い顔をして私の顔を見ました。
私は、もう覚悟を決めています。
決めていましたが、体がビクンと反応して、またガタガタ震えはじめました。
「あの、処女なので、うまく出来ないと思いますが、なにからすればよろしいでしょうか」
それでも私は勇気を振り絞って言いました。
「待って下さい。私が、私が。経験豊富な私がお相手いたします」
お母さんが言いました。
そして、せっかく直したブラジャーを外そうとしています。
「てめー達、何をしているーーーーーーー!!!!!!!」
また、叫びながらさらに別の体の大きな猛獣の様な外国人が、ものすごい勢いで走って来ました。
「バカヤローがーー!!!!」
猛獣のような男の人が、髭面の外国人の顔を殴ります。
体が壁まで吹っ飛びました。
「カ、カブランさん!! ち、違います。俺達は襲われていたこの子達を助けていたのです」
どんぐり眼の外国人が言いました。
「なにーー!! ハア、ハア!! ほ、ほんとうですか?」
カブランと呼ばれた男の人が恐い顔なのですが、優しい笑顔を作って全力で走ってきたためか、息を切らせて私に聞いてくれました。
いい人なのかもしれません。
でも、やっぱり猛獣のような顔が恐いです。
「…………」
私は答えようとしましたが、口がパクパクするだけで声が出ませんでした。
「みろ、違うじゃねえか。それに、このお嬢さん達の姿を見て見ろ!! おめー達が襲おうとしたにちげーねえ」
私はお母さんを見ました。
お母さんはもうブラジャーを外して手で胸を押さえています。
下はショーツ一枚です。
「まってくだせえ、濡れ衣だーー!!」
壁まで吹飛ばされていた髭面の外国人が、何事もなかった様に歩いて来ました。
「でも『何でもしてくれるのか?』って言いました」
やっと、声が出ました。
私は弱々しく震える声で言いました。
「なにーー!! やっぱりじゃねえか!! 可哀想に声が震えているじゃねえか。よっぽど恐かったんだ。こっちのお嬢さんは足が引きちぎられている。おめー達がバカ力で引っ張ったにちげーねえ」
カブランさんが恐ろしい怒りの表情です。
手がプルプル震えています。
私達のために怒ってくれているようです。いい人なのでしょうか?
でも、お母さんの足はこの人達に引きちぎられたわけではありません。
それに、いくらバカ力でも人の足を引っ張って引きちぎれるものなのでしょうか。
「違う違う。俺がやって欲しいのは呼びかけだ。俺達が『救助に来ましたー』と言っても怖がっちまって誰も出てこねえ。だから、お嬢ちゃんが『何でもします』って言ってくれたから、救助を待つ人に呼びかけをしてもらいたかったんだ。やましい気持ちは、これっぽっちもねえ」
「なにーーっ!! 本当か?」
「本当ですとも、マモリ様に誓って嘘は言わねえ」
髭面の外国人が、首からさげている小さな袋を持ち上げながら言いました。
「マ、マモリ様。マモリ様って、姫神マモリさんのことですか?」
「お、お嬢ちゃん。マモリ様を知っているのか?」
カブランさんが驚きの表情で言いました。
「知っています。学校で同じ部活動です」
「そうか、よかった。よかったー! マモリ様のご学友を助けることができた。本当によかった」
「お母さん、もう大丈夫です。私達は助かりました。この人達は私の学校の友達の知り合いの人です」
「そうですか。よかったぁー」
お母さんはそう言うとスイッチが切れたように倒れ込みました。
「おっと、あぶねえ!!」
カブランさんがお母さんを優しく受け止めてくれました。
胸を押さえる手もそのままの形になるように抱き留めてくれました。
「しかし、すげー人だな。この血は全部この人の物だろ。出血多量でいつ死んでいてもおかしくねえ量だ。意識なんか保てるわけがねえ。それをここまで。よっぽど娘さんの事が大切だったんだな」
私は、それを聞いてどっと涙が出て来ました。
私に娘が出来た時、同じ事が出来るのでしょうか。
いいえ、しなければいけませんね。
私はお母さんの娘なのですから。