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0111 実はまもられていた

「ひけーーっ!!!!」

「こうたいだーーっ!!!!」

「遅れるなーー!!」


西の防衛ラインに動きがあります。

自衛隊が、後退をはじめました。

侵略軍はあわてること無く、周囲を警戒しながら進軍速度を変えずに進みます。

油断は少しも無いようです。


「マモリちゃんや」


長官が僕を呼びました。


「はい」


「自衛隊には打つ手は無いようじゃが、もし、マモリちゃんが自衛隊ならどうするのかね」


「今のこの状況下で、ですか?」


「ふむ、そうじゃ」


僕も自衛隊には打つ手は無さそうに思います。

魔導師隊まで同行している侵略軍に、有効な武器を自衛隊は持っていないでしょう。

いえ、世界中の軍隊に無いはずです。

ではノブコは、どう考えているのでしょうか?

ちょっと聞いてみたくなりました。


「ノブコ、あなたならどうしますか?」


「うふふ、簡単です」


「えっ!?」


長官も僕も、ユウキもエイリまで驚きの声を上げました。

少なくとも僕達4人は、打つ手無しと思っていますね。

ノブコは、メガネの右のレンズのカドをクイッと上にあげました。

レンズが真っ白に光を反射して、ノブコの目が見えなくなりました。


「私なら、」


ノブコはここで、僕達の顔を一人ずつゆっくり見ていきます。

じらして楽しんでいます。

不意にノブコは部屋の扉に視線を移しました。


「た、たたた、たいへんです!!!!」


「ななな、なんですってぇぇーーっ!! そそそそ、それはたいへんじゃないですかーー!!!!」


扉が開いて飛び込んできたマーシーさんの「たいへん」という言葉に、僕はまたかじょうに反応してしまいました。

はずかしいです。


「どうしたのじゃね、マーシー君そんなにあわてて」


「は、はい。これを見てください!!」


マーシーさんは携帯端末を皆の前に出しました。


「これは!! なんじゃね??」


長官にはわからないようだった。

ついでに、僕にもわからなかった。

でも、ノブコとユウキは既にわかったみたいです。


「これは、世界各国の侵略を受けている国の元首からの直接のメッセージです」


「なんじゃと、して、内容はなんじゃね」


「はい、地球防衛義勇軍への援軍要請です。『地球防衛というのだから我が国の防衛も頼めるのだろう』と、いうことのようです」


「なるほどのう、じゃが我々は組織が小さい。地球防衛義勇軍とは言っても日本だけで手一杯じゃ」


「はい。私もそう思って、長官と同じ断りの連絡を入れました。すると『地球防衛義勇軍は日本国ではテロリスト扱いではないか。わが国ならば国賓として丁重に扱う、日本国など出てわが国へ是非来て欲しい』と懇願されて困っています」


マーシーさんの言葉を聞いて、ノブコが「わかりましたか」という表情で僕を見てきました。


――あーっ、そういうことか!


もし、ノブコが自衛隊ならば、地球防衛義勇軍に援軍の要請をする。

それが、答えのようです。

そうですね。答えを聞くとそれしか考えられません。さすがです。


「どうじゃね、マモリちゃんや。いっそ日本をあきらめて海外に行くかね」


「いいえ、それは無理です。僕にはマモリたいものがあります。それは、残念な事に日本にあるのです。だから、日本から侵略軍がいなくなるまでは、日本から出ることはできません」


「ふふふ、うれしい回答じゃ。全日本人を代表して感謝したい気持ちで一杯じゃ」


「あの、神様! 神様の守りたいものってなんですか?」


ユウキが聞いて来ました。


――えーーっ!!


あなたがそれを聞きますかーー!!!!

僕はガッカリしました。

だから、1番にマモリたいユウキを外して言うことにしました。


「まずは、ユウキのおばあさんだ。だから、おばあさんの家と畑もマモリたい。次が吉田先生、ノブコとエイリ、そして、その家族です。ガンネスファミリー、ファルコンファミリー。会長にお母さんもマモリたい」


ここまで言ってユウキの顔を見たらユウキの顔が悲しみで一杯になっています。

僕は、後悔しました。

意地悪すぎました。

だから、付け加えました。


「でもね、1番マモリたいのはユウキだよ。何よりも優先してユウキだ」


ユウキの顔に花が咲きました。

キラキラ輝きます。

こんなに、美しくて可愛らしいものは他には絶対ないです。


「かみさまーー!!」


ユウキが僕に抱きついて来ました。

ユウキはいつまでたっても初めて会った時のままです。

ああっ! 心が温かいなにかで満たされていきます。

強く幸せを感じます。


そして、いま気がつきました。

そうです。

僕が守られていたのです。

僕の壊れてしまった心が。

何もかもを失ってしまって空虚だった僕の心が。

幼い頃のかわいいあなたの笑顔に救われていたのですね。


「ありがとう。ユウキ」


僕は心からの感謝をユウキの耳元で小さな声で、でも最高に心を込めていいました。

ユウキは僕に抱きついたまま、頭を左右にゆっくり振りました。




西側の防衛ラインの部隊が次々橋を渡って引き上げていきます。


「団長、報告します」


「なんだ」


「はっ! 敵自衛隊、司令官! 撤退を指示し自決したとのことです!!」


「なにっ!! ふふふ、よし!! まずは我が軍の兵士の被害状況を確認せよ!!」


西側の防衛ラインを攻めていた、侵略軍の団長がガッツポーズをして言いました。


西側の自衛隊の司令といえば、僕の顔を「冥土の土産に見ておきたい」と言った人です。

あの人は既にあの時、この事を決めていたのですね。

自分の命と引換えに大勢の命を救ったのでしょう。

御冥福を祈ります。


東側の防衛ラインは、いまだに戦闘が続いています。

前線の隊員はどんな気持ちで戦っているのでしょうか。

指示を出した人は高級料亭で美味しい料理で舌鼓を打っているのに。


「団長! 敵の司令官が逃げ出しました。部隊をすてて逃走しました」


長い時間ののち、東側の侵略軍の団長に勝利の報告が入りました。


「うむ! ご苦労であった。我が軍の被害状況を知らべよ! おおそうだ。このカメラは、ライブ配信されているのか?」


「は、はい」


「ふふふっ! 我が軍の被害は軽微、いや皆無かも知れない」


団長は、鋭い目つきでカメラに顔を近づけます。

そして続けます。


「次は、お前達だ。旧仲!! 弔い合戦だ。首を洗ってまっていろ!! ふふぁはははは」


団長が高笑いします。


「ぬう!! マモリちゃんや、どうやら侵略軍の次の目標はわしらのようじゃ!」


長官が不安そうな表情で僕を見ています。

ぐっと、僕の手を握るノブコの手に力が入りました。

僕に抱きついているユウキが上目づかいで僕を見ました。

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