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0110 つないだ手

「俺の後をみろーーーー!!!!」


僕が戦う決心をして身構えていると後で声がしました。

キュートルグリーンが橋の上を歩いて来ます。

キュートルグリーンの今日の姿はズボンをはいて男装です。

ノブコのはずですが、声は低くして男の子の声になっていました。


「ぜんぐーーーーん!! とまれえぇぇぇーーーーっ!!!!」


自衛隊の団長が大声を出しました。

僕は自衛隊の全員が止まるのを見てから、後を振り返りました。


「おおっ!」


思わず声が出ました。

大勢の人が後の河川敷に集って手を振っています。

ファルコンファミリーではないですね。誰でしょう?

どこからか援軍が来たのでしょうか?


キュートルグリーンが僕の隣まで来ました。

隣まで来ると、僕の手を握ってきます。

その手は大きく震えています。

僕は、ギュッと「大丈夫だよ」そういう気持ちを込めて握り返しました。


「あそこにいるのは、東京からの避難民です。日本国民ですよ」


キュートルグリーンが言いました。


「ふむ」


そう言うと、団長が隊員をかき分けて最前列に出て来ました。


「自衛隊は、避難民の日本国民を守ってくれるのでしょうか?」


「もちろんだ! 日本国民を守らずに武器を持って暴れ回ったら、それはもうただのならず者だ!」


「あの方達を保護して、安全な場所まで護衛して頂けませんか?」


「ふふふ、あなたはメガネを掛けていますか?」


「はい。でも何故ですか?」


「いえ、何でもありません」


そう言いながら、団長は僕の顔をいたずらっぽく見ました。


「避難民の方は、昨日から水道の水しか飲んでいません。最初に食事をあげて下さい。では、マモリ様行きましょうか」


ノブコはこうなる事を見越して、いつもなら避難民に炊き出しをして公共交通機関で帰しているのに、食料の節約までして待機してもらっていたようです。


「すごいなあ、ノブコは。かなわないやー」


「全然すごくありません。本当にすごいのはマモリ様です」


ノブコは僕の顔を見つめているようです。


「俺達の任務は今から避難民である日本国民の救助に変ったーー!! すぐに炊き出しの準備にかかれーー!! 避難民が腹を空かせている。いそげーー!! 食事が終わったらすぐに出発だーー。避難民を安全なところまで護衛するぞーー!!」


自衛隊員が次々に河川敷に降りていきます。

自衛隊員達からの安堵の気持ちが、なんとなく伝わってきます。


「では、団長さん。僕は帰ります」


「ふむ、マモリちゃん。お元気で。ああっ、そうだ! 君達の優秀な軍師さんに助かったと伝えてくれ。自衛隊員全員が、心から感謝していたと」


「はい、わかりました。帰ったらちゃんと伝えます」


僕とノブコが歩きだすと。


「しかし、最初はこんなに可愛いマモリちゃんを、一人で武装した男達の前に出すとは鬼かと思ったが、俺達全員を守るための作戦だったとは恐れ入った。すごい軍師様だ」


後で、聞こえる様に団長さんがつぶやきました。

団長さんは、キュートルグリーンが軍師様だと気がついているようですね。


「マモリ様、急ぎましょう。既に始まっているはずです」


――えっ?? 何が??


ノブコの指示のまま、ユウキとエイリと一緒に義勇軍の幸魂支部の作戦会議室に移動しました。






「おおっ!! もどったか」


旧仲信作長官が険しい顔でこっちを見て言いました。

会議室には人がまばらにいるだけです。

長官は視線でモニターを見ろと無言で言いました。

いつもなら、このタイミングでホットミルクが出てくるのですが、今日はクートが救助隊に出ていていないので、ホットミルクはお預けです。

僕は視線をモニターに移しました。


「これは……」


モニターには、東西の第一次防衛ラインの配信ライブ映像が、様々な角度で映し出されています。

第一次防衛ラインで戦う、侵略軍と自衛隊の激しい戦いが映し出されます。

自衛隊側からの映像は一つもありませんが、侵略軍側の映像だけでも十分状況が理解出来ます。


「戦況は悪そうですわね」


エイリが言いました。

それは、自衛隊側に立った言葉でした。エイリは当然、心の中で自衛隊を応援しているのでしょうね。

侵略軍は、重装歩兵隊が大きな盾を壁のようにして、密集陣形で移動しています。

まるで、移動する陣地です。

重装歩兵の護衛の影に弓隊と魔導師隊が隠れながら自衛隊を狙い撃ちしていきます。

自衛隊もビルの中や影に隠れながら狙撃をしますが全く効果がありません。

狙撃をすれば、それで居場所がばれて、弓や魔法で返り討ちにされています。


大きな爆音と共にジェット機がビルに突っ込み爆発しました。

脱出できていないようなので、生死はわかりません。

戦場は死体だらけなのか、キリのようにモヤがかけられて、はっきり映像が見えないようになっています。

動画が規制に引っかからないように工夫されているようです。


ヘリや戦闘車両の残骸が煙を上げています。

建物も大きく崩れているものがほとんどで、凄まじい戦闘が行なわれたことがわかります。

銃声が至るところで聞こえます。


「状況を報告せよ!!」


侵略君の団長が声を上げました。

団長の表情まで良くわかる位置にカメラが寄っているみたいです。


「はっ! ただいま、我軍から苦戦の報告はありません」

「いたって順調であります」


「ふむ、そうか。くれぐれも油断しないようにと、各隊の隊長に伝えよ」


「報告します!! 第一旅団、敵師団を撃破、敵師団長を討ち取りました」


「ほう。よし!!」


「おおそうじゃ、わしも、報告を聞かねばなあ。ノブコ、西方の前線はどうじゃった?」


長官が思い出したようにノブコに報告を求めました。


「はい、自衛隊の被害は廃棄処分間近の弾薬のみです。当方の被害は、マモリ様の魔力が少々です。自衛隊はその後、避難民を保護し炊き出しをおこなって美味しいご飯で避難民のお腹を一杯にして、安全なところまで護衛をして行きました」


「うむ、うまくいったようじゃのう」


「そうですね。優秀な自衛官だったのだと思います」


「ふふふ、その優秀な自衛官が、避難民を護衛したおかげで、第一次防衛ラインで死なずにすんでよかったのう」


「まさか、ノブコはそこまで考えていたのですか?」


僕は驚いて少し大きな声が出ました。

そして、ノブコは最初から第一次防衛ラインで自衛隊が大敗北すると想定しているようですね。


「はい、もちろんです。軍を預かるのでしたら、その位は考えないといけません。当たり前のことです」


ノブコはさも当たり前の事のように言いました。

ノブコの策は、自衛隊1万人の命まで救ったようです。

現時点で、自衛隊は敵軍です。

敵軍の命まで救うように策を巡らせていたようです。

そう言えばさっきからずっと、ノブコと手をつないだままです。

僕は握る手に少しだけそっと力を加えました。


ノブコはうれしそうに頬を赤くしてうつむきました。

とても可愛いですね。

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