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0103 塩辛いおにぎり

「じゃあ、リリイさん。行きましょうか」


「あ、あの」


私は思わずマモリ様に声をかけてしまいました。

これから何があるのか知りたいのもありますが、少しでも長く近くにいたいですから。


「はい、会長。なんですか?」


「見ていてもよろしいですか」


私が言ったら、全員が私を見ました。

グッジョブという、心の声が聞こえたような気がします。


「リリイさんが来ていますので、何も見えないと思いますが良いですよ。橋の上からでも見ていてください」


「あ、はい」


「私達もよろしいですか」


キュートルブルーが代表で聞きました。

考える事はやはり同じみたいですね。


「いいですけど、まあ、自由にして下さい。リリイさん、行きましょう」


「はい」


マモリ様とリリイさんは、倒れる侵略軍の所へ進みます。


「あの、質問してもいいですか?」


マモリ様は倒れる兵士に聞きました。


「ペッ!!」


聞かれた兵士はツバをはき、マモリ様をにらみ付けました。


「ぐぬぬぬっ!」


リリイさんが態度の悪い兵士に怒っています。


「わしでよければ、こたえようかのう」


近くにいる老兵が声を出しました。


「あの、魔人の国の魔人達はどうしていますか?」


「むむ!? そんなことがなぜ気になるのじゃ??」


「ええ、魔人の国の攻略にめどがついたから、こっちを攻めてきたと聞きましたので、少し気になったのです」


「ふむ、それこそ、そんな情報をどこで聞いたのじゃ。まあ、いいじゃろう。魔人は全人口の2割ほどになっておる。もう、立ち直れないじゃろう」


「と、いうことは、民間人まで殺されているのですね」


「ふむ。女、子供も容赦無く殺されておる。全滅させる気かも知れないのう。質の悪い兵士にあたった者は最悪じゃのう。なぶられて、ひどい苦しみのうちに殺されておったのう」


「このまま、日本人も同じ目にあうのでしょうか」


「ふむ、お前さんの聞きたい事はそれじゃったのか。もちろんそうなるじゃろうのう」


「ありがとうございます」


「こ、これは、どうした事じゃ?」


マモリ様が御礼を言うと、老人の表情が驚きの表情になりました。


「お爺さん、出来るだけここから離れて下さい」


老兵のケガが治ったようです。

ここにいる兵士は、全員何かしらの骨が折れているようです。

足の骨はねらって折られているみたいです。

足が皆、大変な事になっています。


「あ、あんたは、いったい何者なんじゃ?」


「はやく行きなさい!!」


リリイさんが声をあらげて言いました。

老兵はペコリと頭を下げると走り去りました。


「ひゃははは、日本人に明日はねえ。全員なぶり殺しだ」

「ぎゃははははーーーー!!!!」

「くくくく」


マモリ様のまわりの兵士達が皆で嫌な笑い声を出しました。


「あなた達は、むごたらしく殺した側なのでしょうね」


「ひゃははは、魔人が泣き叫ぶ様をみるのは楽しかったなあー」

「ガキを守る母親から、ガキを取り上げて目の前で、そのガキを切り刻んでやったさ」

「そうだ! それが、戦争だ。きれいごとばかりじゃねえんだよ」

「ぎゃはは、ちげーーねえ」

「ふひゃはははは」


「あなた達のような人が、日本人を苦しめるのかと思うと泣けてきますね」


「ひゃははは、日本人は既に経験済みじゃねえか」

「そうだ。そうだ」


マモリ様はそれを聞くととても悲しそうな表情になりました。

とても美しいお顔が、悲しみにくもると私の心までギュッとしめつけられるようです。


「わかりました。これより、アッガーノ王国軍は僕の敵です。実は僕もアッガーノ王国人なのですよ。でも、慈悲をかける必要もなさそうですね」


「ま、まさか。あんた……」


侵略軍の兵士が何かに気が付いたようです。

いったい、なにに気がついたのでしょうか。


「もういいでしょう。リリイさん! 御願いします」


「はい!!」


リリイさんは返事をすると、手を高く上げました。

手の上に黒い四角い箱が出て来ました。

それが少しずつ大きくなります。

箱がマモリ様とリリイさんを包み込みました。

姿が全く見えなくなります。


その箱は、一気に大きくなりあたり一面を覆い尽くします。


「出でよ獄門!! 暗闇の中の者の中から地獄にふさわしき者を連れていけ!!」


マモリ様の姿は見えませんが、声だけははっきり聞こえました。

暗闇に覆われた中から、地獄の叫びのような、耳をふさぎたくなるような声が聞こえます。

しばらく叫び声が続きます。


やがて、静かになりました。

静かになると、暗闇が消えます。

大勢いた侵略軍の兵士の姿がほとんど無くなりました。

残った人達の足の骨折が治ったようです。

キョロキョロあたりをみまわして、首をかしげながら逃げて行きます。


「うふふ、この魔法は、光を覆い尽くすだけの魔法です。あまり使い道がないのですよ」


リリイさんが戻って来て、私に話しかけてくれました。


「なにを言っているのですか。その魔法を使って夜の暗闇で矢を放たれたら僕にもよけられませんよ。リリイさんの最強魔法の一つです」


リリイさんが、マモリ様の一言で瞬間的に目に涙がたまって、ウルウルしています。

きゃーーっ!!

マモリ様は天然の女殺しです。

女の子なのに女殺しです。

やべーーっ!! これはライバルが増える一方です。


「マモリ様、お帰りなさい」


きゃーーっ!!

キュートルブルーとイエロの2人が、言いながらマモリ様の両腕につかまりました。

まさか既にこの二人も。

あのー、マモリ様は女の子ですよ。


「ミミイさん、コングの姿を戻して下さい。そして、僕とユウキとエイリも御願いします」


「わかりましたですのぉ」


全員の変身がとけて、コングさんはマチョな大男に、マモリ様とユウキさんとエイリさんは幸魂学園の制服になりました。

その後、私は巨大な倉庫に案内されると、炊き出しのご飯を食べているお母さんと再会しました。


ここで、救出された人達は休憩をして、それぞれ避難するようです。

政府が隠蔽をしているおかげで、東京行きの交通機関は止まっていますが、まだ幸魂市からの交通機関は正常に動いています。

驚いたことにスーパーもコンビニもやっているとのことです。

東京では考えられません。


「智子ーー!!」


「お母さーーん!!」


「はい!! お腹空いたでしょ!」


感動のハグかと思ったら、目の前におにぎりを出してくれました。

ずっと、私を心配してくれていたみたいです。


「おいしーーい!!」


「うふふ。ご飯はいいわね。えーーと、なんだっけ。そうそう、ガンネスファミリーが無料で炊き出しをして下さっているそうよ。うふふ、よかったー。ともこーーっ!」


私が二口目を食べる前にお母さんが抱きついて来ました。

目から涙がこぼれています。

なんだか、二口目のおにぎりは、一口目より塩辛く感じました。

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