佐倉と想が誘拐されたと知ったのはすぐだった。
隠してはいるが、佐倉にあげたピアスにGPSがついているのは俺しか知らない。
「まさか、これが役に立つときが来るなんて」
俺はスマホをみてすぐに連夜に連絡を取ったが、珍しく電話に出ない。
そういえば、今日はあの人と会う日だったことに気付き急いで連夜がいる場所に車を走らせた。
(佐倉、想……間に合って)
◇◇◇◇
連夜と合流して静かな車内では息が詰まるような無言の永遠とも感じるような長い時間だった。
互いにイライラしているのが嫌でもわかる。
調べた誘拐犯たちのアジトに着くと急いで何度もチャイムを鳴らす。
だが、返事がない。
(佐倉、佐倉!)
ようやく玄関に出てきた半裸の男を吹っ飛ばし、佐倉の元に駆け寄るとそこには裸の佐倉が男に懇願しているのが見えた。
その目とその姿は欲情に濡れていて、自分の中にどす黒い感情が渦を巻く。
瞬間的に隣にいる男を蹴り飛ばすと、思わず佐倉を抱きしめた。
(殺す殺す殺す殺す)
今すぐにでもこの男達を八つ裂きに嬲り殺したいと思ったが、とにかく一秒でもこんなかわいい姿を他の誰かに見せる訳にはいかないので、とりあえずすぐに家に連れて帰る。
薬を盛られた佐倉はあまりにも煽情的で、可愛い姿に結局我慢できずベッドの上で自身の気持ちを伝え、触れると佐倉はそのまま意識を飛ばした。
(覚悟してね? もう逃がす気なんてないから)
こうして、可愛い佐倉を眺めていると知らず知らずのうちに俺は眠ってしまったみたいだった。
誰かが隣に居て寝ることがあるなんて自分でも驚いたし、記憶を辿っても思い出せなかった。
朝起きたら、きっとさっきまで可愛がっていた佐倉が腕の中にいると信じていたのに……その腕の中に愛しいヒヨコは居なかった。
俺は不機嫌になっていたけど、ダイニングで想と色々思い出して真っ赤になっていく姿が可愛いから、今回許してあげようかな~なんて思っている。
あの二人は恥ずかしいのか、朝食を黙々と食べ終えたら、そそくさとダイニングから出て行っちゃった。
「ふふ、行っちゃたね~」
「そうだな」
「ホント可愛いんだから……困っちゃうよ。あ、連夜? 捕まえた奴らは?」
「あ、あれは一応生け捕ってるよ」
「よかったー! ありがとう!」
(さぁ~このストレスは発散しないと! だって佐倉のあんなに可愛い姿を見たんだよ? 生かす理由が無いのは当然として、簡単に逝けるなんて思わないで欲しい)
「多部」
「今回は多部ちゃんに譲るよ」
「ほ、ほ、ほどほどに……」
夏目さんも連夜も彰太も何か捕まえた奴らに同情しているような雰囲気だけど?
まあ、いっか!
「やった~! ありがとう連夜!」
自分だって痛めつけたいはずなのに、今回は譲ってくれることに素直に感謝した。
あの後、連夜が想に内緒で持たせているという(盗聴している?じゃないかな)ボイスレコーダーを聞かせてもらったけど……
佐倉が想の事を守る為に必死であいつらを誘惑してたみたい。
てか、あんなのされたらイチコロじゃん! ホント自分の可愛さを自覚して欲しいよ。
はあ、、、誘惑してくる佐倉かぁ。
俺も知らないのに?
俺以外にあんなエッチな佐倉を知ってる人なんて、この世にいらないよね?
だからちゃんとアイツらの記憶も……存在も消してくるよ。
「ふふふっ! じゃあ行ってくるね~」
「……想と佐倉には俺が今日は付いてるから、ごゆっくり」
「多部、ほどほどにな」
「こわっ……」
「お誉めいただき、ありがとう」
こうして三人に見送られながら、俺はウキウキして車を走らせた。
◇◇◇◇
「お、お疲れ様です」
「ありがとう、昨日から逃げないように見張ってくれて」
「いえ、当然です!」
「で、中の二人はどんな感じ?」
「最初こそ暴れてましたが今は大人しくしてます」
「そっか、色々教育してくれたんだね~ありがとう」
「もったいない言葉です」
部下が俺から褒められたことに心底嬉しそうにしているので、後で何かのご褒美をあげようと思った。
「じゃあ、行ってくるね~」
「は、はい……」
ここは山奥にある九条の地図に無い屋敷。
この屋敷の地下室には完全防音の部屋があり、知ってるのは数人の者だけ。
ここでは法も秩序も倫理も関係ない。
俺はクスリと笑いながら、男達が繋がれている地下室の扉を開けた。
――――
「こんにちは」
だいぶ部下にも痛め付けられたようで、昨日会った時から人相が変わったみたい。
「ゆ、許して下さい!」
「二度と手出ししません! 何でもします!」
「お願いします……死にたくない」
「家族もいるんです! 助けて下さい」
「あはははははは! 大丈夫!」
「えっ」
「助けてくれるんですかっ?」
俺が大丈夫と言ったから、ホッとしたのか男達の目に光が宿る。
「うん、大丈夫だよ? そんな事自体考えなくてもいいように今からなるからさ~」
「……」
「どういう意味……」
「? こういう意味だよ?」
そう言うと俺は一人の男の腹を思いっきり蹴り上げた。
「ぐぁぁぁぁ!っ……ひっ……」
「あー汚い鳴き声だな~」
「ごめんなさいごめんなさい許して下さい!」
「? 許す? 許すわけないじゃん? 可愛い佐倉の姿を知ってるのは俺だけで充分なの。君たちの存在は要らない」
「っ」
「だから、記憶も存在も抹消してあげる」
「ひぃっ、許してっ!」
ガタガタ震える男達にニッコリ微笑みながら近付いた。
(あーあ、早く佐倉に好きって言われたいな)
佐倉の事ばかり考えながら、動かなくなった屍を見下ろすと後の片付けは部下達に任せて汚れた服や自身を清める。
汚い身体じゃ佐倉を抱きしめられないからね?
「はぁ、それにしても昨夜の佐倉は可愛い過ぎたな~」
誰もいない広い湯船に浸かり昨日の姿を思い出すだけで下半身が熱を持つ。
「早く抱きしめたい」
天真爛漫な笑顔を思い出しながら、俺は浴室を後にした。