「ん……まだ寝る……ん~朝? え、あさぁ?」
寝ぼけた佐倉がちらりと横を見れば多部が同じベッドで眠っていることに気付いた。
「ひ、ひ、ひゃあっ! な、なんで多部ちゃんがここに! てかここもしかして多部ちゃんの寝室? あ、だって昨日……」
顔から火が出るんじゃないかというくらい佐倉の熱がどんどん頬に集まるのがわかる。
「だあー! 無理無理!」
(と、と、と、とにかく自室に戻ろう! 目を覚ましたら急に横から居なくなってるし、きっとびっくりするだろうけど……多部ちゃん、ごめん俺には素面で受け止めるキャパは無い! とりあえず一旦、いったん、落ちつこう)
呼吸を整えるが結局思い出されるのは昨日の甘い告白や、多部に触られた身体のことばかりで……小さく叫んだ佐倉は多部がまだ寝ているのを見て、静かにその場を離れた。
◇◇◇◇
「あれ? ここって」
想は見覚えあるベッドで目を覚ます。
何故ここにいるのか分からない想だったが、記憶を辿ると佐倉の前で男達に何かを嗅がされて気を失ったことを思い出した。
「さ、佐倉くんは?」
隣で寝ている連夜を必死に起こして問いただすが、当の連夜は想の頭をクシャりと撫でると「無事」と言い放つだけでまた寝始めようとする。
「連夜さん! あーもう、離してやー佐倉くんにすぐにでも会いに行きたいのに……」
連夜は寝ぼけながらも想をががっちりホールドしていて抜け出せないようにしている。
そんな連夜の腕の中から逃げ出そうと何度も試みたが、さらにキツく巻かれた腕に想は早々にギブアップをしていた。
仕方ないと諦めながら、想は連夜の寝顔を見つめるとそっと小さく呟いた。
「……はあ……でも、連夜さんは俺達を助けに来てくれたんやろ? ありがとう」
「…………どういたしまして」
「ふぁ?! 連夜さん? 起きとったん? はずっ」
独り言を聞かれた想は恥ずかしそうにしながら連夜に文句を言うが、連夜はそんな想を見てチュッと口づけを落とした。
しばらくそのままキスを受入れていた想だったが、何やら連夜の手が怪しい方向に向かっていたので思わず声を上げた。
「ちょっ、まって」
「想」
セクシーな声を耳元で囁かれ、寝起きの連夜の色気に想の心臓はギュッと掴まれたようだった。
しかし、どこかその顔は少し困惑しているようにも思われた。
「想? もっと?」
「ん、もう……いらんっ」
「ふふふ素直じゃないんだから。でも、無事でよかった」
「やっ……どさくさに紛れてどこさわって、んねん」
「まだまだ時間あるし、イチャイチャするか」
「やっ……あ…っ、かん」
こうして朝から美味しく食べられた想は朝ご飯の時間まで連夜の寝室から出る事は無かった。
――――――
「あ、さ、さくらくん!! ぶ、無事やったんやね? ホンマによかった」
「想!」
「何もなくてよかったよぉ~痛いとことか無い? 大丈夫?」
「い、痛いとこ……な、な、ないよ!! 大丈夫!」
互いに無事を確かめ合い抱き合っている想と佐倉の後方から声がする。
「想も佐倉も離れよっか?」
「チッ」
「ん? 多部ちゃん? 連夜さんも。 あ、ごめんごめん! 佐倉君にいきなり抱き着いたらびっくりさせるよな?」
あきれた表情で何故か何か言いたげな彰太が想と佐倉を見ている。
「……(ちげーし、見ろよあの多部ちゃんと連夜の嫉妬の顔を! こわっ!)」
そんなことを彰太が考えているのを後ろから見ていた夏目は笑いながら提案をする。
「彰太もあの二人に抱きついてくれば?」
「マジ無理に決まってるじゃん! 命がいくつ合っても足りない」
「ふふふふ」
夏目と彰太は、連夜と多部の嫉妬に充てられている想と佐倉を見て静かに笑っていた。
あんなにあからさまなのに全く気が付いていない二人は、室温が下がったこの部屋で無事を確認しながら、なんだかんだ言っては未だに抱き合っていた。
「ホンマに無事でよかったけど、あいつらに何もされてへん?」
「……な、な、なんもされてへん!! 想こそ、体調は大丈夫なの? 朝遅かったし」
「だ! だ、だ、だいじょうぶ」
「そっか」
二人共ボロが出そうになるのを必死で誤魔化しながら茹でダコみたいに赤くなってると、夏目が朝食を運び始めたので、皆それぞれ席についていた。
そして、この何とも言えない恥ずかしさをごまかすために、想も佐倉も黙々とご飯を食べたのは言うまでもなかった。