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第9話 処刑

カラスたちは依頼人の岸部と別れるとすぐに家路についた。

アパートへの帰り道、隣を歩くカラスにリュカエルが訊ねる。


『カラスよ、刑務所にいる犯人たちをどうやって始末するのじゃ?』

「それは簡単さ。俺が刑務所に入って全員殺せばいいだけだ」

『うむ? 刑務所というのは罪を犯した者だけが入れる特別な場所のことじゃろう。お主も入れるのか?』

「俺はこれでもずっと裏社会で生きてきたんだ。刑務所に入るツテくらいあるさ」

『ほほう』

リュカエルは感心したように相槌を打った。



◆ ◆ ◆



夕日が地平線に沈みかけ、カラスとリュカエルの頬が朱色に染まる頃、二人はアパートへとたどり着く。

とカラスの姿をみかけたイリアが「やっほー、おかえり烏丸さんっ」と声をかけ近寄っていった。


それに気づいたカラスは立ち止まり、リュカエルはその背後からひょっこりと顔を覗かせた。

その光景を見たイリアは目を丸くする。そして訊ねる。


「えーっと、烏丸さん。その美人は誰?」


カラスは肩越しに振り返り、リュカエルを見つつ答えた。


「あー……うん、親戚だよ。烏丸リュカエルっていって、たまたま街で会ったんだ。しばらくこっちにいるらしいんだけどね、積もる話もあるし俺のところに泊まってもらうことにしたんだよ」

「へー、そう」

イリアは怪訝な顔でリュカエルをじっとみつめる。

その様子は恋人の浮気を疑う彼女のそれに近い。


『なんじゃ。お主こそ誰なのじゃ?』

「えっ、お主っ?」

「そうそう、この子帰国子女だから言葉遣いが変だけど気にしないで。じゃあ」

「あっそうなんだ、ふーん……」


イリアの視線を受け、なぜか居心地が悪く感じたカラスは、早々に会話を切り上げ、リュカエルとともに部屋へと向かった。

その背中をイリアは何か言いたそうにしながらも、ただひたすら凝視していた。



◆ ◆ ◆



翌朝、カラスは朝食を済ませるとすぐに部屋を出ていった。

なんでもこれから向かうところがあるのだという。

リュカエルはそれを見送ると、布団に潜り込み再び寝入る。



――リュカエルが次に目覚めたのは昼時だった。

冷蔵庫から食パンを取り出すと一斤丸々トースターで焼こうとする。

だが、無理だとわかり、仕方なく二枚だけをトースターにセットした。


その後、焼けたパンと牛乳を持って部屋の隅に置かれたテレビの前に座り、リモコンを操作して電源を入れる。

すると画面には岸部の娘殺害のニュースが流れ始めた。


『おお、昨日わらわたちが会った男ではないか』


リュカエルはトーストを頬張りながらテレビにくぎ付けになる。

と画面に映るアナウンサーが、岸部の会社から3億円を奪った犯人たち三人が今しがた刑務所内の事故で焼け死んだと口にした。

それを耳にしてリュカエルは思わず目を大きくさせた。


一方、画面の中では別のキャスターが事件のあらましを説明している。

それによれば犯人たちは岸部の娘である佳代子を誘拐後、岸部に身代金として3億円を要求。

難なくそれを手にした犯人たちは、あらかじめ計画していた通り、口封じとして佳代子を殺害したのだという。

その話を受け、コメンテーターの一人は「こんなこと言っちゃ叩かれるかもしれませんけど、ぼくはそいつらに天からバチが当たったんだと思いますよ。犯人たちはそれだけのことをしでかしたんですからね」と吐いて捨てた。


『ふむ、なるほどのう』


とそこへ、

「ただいま」

どこからかカラスが帰ってきた。

手にはコンビニ袋をぶら下げている。


『カラスよ、これ見てみい。お主のターゲットたちが刑務所で死んだようじゃぞ』

「そうか」

『なんじゃ、それだけか。反応が薄いのう……ん? もしやお主、朝から出かけとったのはこれのためか?』

テレビを指差しリュカエル。


『まさかこれをやったのはお主なのか? カラスよ』

「まあな」

『やはりかっ。そんな楽しそうなことをわらわ抜きでやるとは……なぜわらわを誘わんかったのじゃっ』

リュカエルは子どものように頬を膨らませて不満をあらわにする。

その姿は人々が思い描く天使像とはかなりかけ離れたものだった。


「お前がいると面倒そうだったんだよ。それよりほら、コンビニでスイーツ買ってきたから、これで機嫌直してくれ」

『むぅ……』


テーブルに並べられていく美味しそうな食べ物に目を奪われ、リュカエルは口から出かかっていた言葉を飲み込んだ。

そして『しょうがないのう、今回だけじゃぞ』とテーブルの上のシュークリームを手に取り、大口を開けそれにかじりついた。

その様子を見て、天使も意外と扱いやすいのかもな、そう思いカラスは無意識のうちに口角を上げていた。

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