カラスとリュカエルが出会ってから一週間が経つものの、いまだ神の座をかけた代理戦争に参加している人間との邂逅はまだだった。
その間にも、カラスは相変わらず仕事とプライベートで人を殺し続けていた。
そんな中、カラスは組織とは関係なくプライベートでとある依頼を持ちかけられる。
依頼主は喫茶店を営む30代の男で、彼は妻が何者かに殺されたと告げた。
警察にも届けたが、事件性がないと判断され捜査は打ち切られたという。
カラスは男の悲しみに暮れた表情を見て、この仕事を引き受けようと決めた。
男は涙ながらに感謝の言葉を口にした。
そして最後に、妻のかたきを取ってほしいとカラスの手を両手で握り、付け加えた。
それを聞いたカラスは「はい」とだけ返し、深く首肯した。
◆ ◆ ◆
それから数日後、とある山奥にある一軒家をリュカエルとともに訪れたカラスは、玄関先でインターホンを押した。
「あーい!」
と家の中から威勢のいい男の声が返ってくる。
勢いよくドアを開け放ち、
「……あん? おたく、どちらさん?」
カラスを見て訝し気な表情を一切隠そうともせず口にする男。
男の名は石川昇。年は38歳。
今回の依頼主の妻を殺した男だった。
カラスは日陰の協力で犯人を捜し当てていたのだった。
「わたしは烏丸といいます、探偵です。突然お邪魔して申し訳ありません。失礼ですが、石川昇さんですね?」
丁寧な口調で返すカラス。
すると石川は眉をひそめ、不機嫌そうに言った。
「探偵? 探偵がオレになんの用だよ」
「実は先日、ある女性が殺されましてね。その女性の旦那さんから犯人をみつけてほしいと依頼されたんです」
カラスの言葉を聞いた石川は胸の鼓動が早くなる。
「だからなんだよ、オレとなんの関係があるってんだ、ああ? こっちは忙しいんだ、もう帰ってくれ」
ドアを閉めようとする石川だったが、それを手で止めるカラス。
「おい、なんのつもりだっ。手ぇ放せっ」
「まだ話の途中でして、その旦那さんに依頼されたのは犯人をみつけるだけではなく、殺してほしいともお願いされたんですよ」
「い、いいから手ぇ放せよっ! 警察呼ぶぞこらっ!」
「呼んでも構いませんが困るのはあなたの方ではないですか?」
その発言を受け石川は――
バ、バレてる!?
こ、こいつ、オレがあの女を殺したこと、知ってやがるぞっ……!
そう確信した。
こいつを野放しにするのはヤバい……。
もし警察に垂れ込まれでもしたら……。
……こ、殺すしかないっ!
考えを巡らせ、そう結論付けた石川だったが、カラスの背後にいたリュカエルに気付き――
下手に動くと後ろの女に逃げられるかも知れん……ここは慎重にやらねぇと。
「よ、よくわからねぇ、もっと詳しく聞かせてくれよ。まあ中に入ってくれや」
自分の家に入れることにした。
「いいんですか? ではお言葉に甘えて失礼します」
『わらわも邪魔するぞい』
こうしてカラスとリュカエルは、殺人犯である石川の家に上がり込んだ。
◆ ◆ ◆
リビングに置かれたソファーに腰掛ける二人と一人。
リュカエルはテーブルを挟んで石川の対面に座り、カラスはその隣に腰かけた。
自分のテリトリーである家の中に誘い込めたことで、石川は次第に落ち着きを取り戻していく。
前に座るリュカエルをチラリと見やり、こいつ、よく見りゃかなりの上玉だな。
殺人衝動が体の奥底から沸き起こってくるのを感じる石川。
――石川昇。
男は連続殺人犯だった。
幼い頃から人体に興味があり、小学生の頃には近所の野良猫や野良犬を解剖し遊んでいた過去がある。
そんな石川が初めて人を殺したのは17歳の時。
その時の快感が忘れられず、石川は毎年同じ日に一人ずつ、殺人を行うことに決めていた。
そしてそれから21年もの間、石川は誰にもバレることなく現在まで人を殺め続けているのだった。