「ねえ、ちょっといいかしら?」
そう切り出したのはエミリーさんだった。
いつもはカルロスさんから「これ頼む」と話が来る。なんだか不思議な気分だった。
「この謎、解ける? 朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。これなんだ?」
「答えは人間ですよね。スフィンクスの出す謎で有名ですから」と、アーノルドくん。
「そう、その通りよ。有名すぎて答えは誰でも知っているわ。つまり、スフィンクスをダンジョンに配置しても、冒険者に対して効果がないわけ」
なるほど、せっかく配置しても意味がなくなってしまうわけか。冒険者に「またか」と鼻で笑われては、スフィンクスも立場がない。誇り高いモンスターだけに、同じやりとりを繰り返すと黙り込んで、ただの石像になってしまうかもしれない。
「で、今回のお願いは『別の謎を考える』ことよ」
カルロスさんは、うーんと唸ると「よし、一つ思いついた」と、自信満々だ。
「走らず、歩かず、それでも一日動いている。これなんだ? 答えは――時間だ」
この一瞬で思いつくなんて、さすがとしか言いようがない。ただ、謎解きをする時間が欲しかった。考える時が一番楽しいと思うから。
「いい感じ。その調子で、もう一つお願い。今のみたいに哲学っぽさを維持して欲しいわ」
エミリーさんにしては注文が多い。
「アーノルドくん、何か思いつくかい?」
あえて自分の案を言わなかった。考えることも重要なはずだ。
「難しいですね……。特に哲学っぽさの維持が」
アーノルドくんは、答えが宙に書いてあるかのように上を向く。
「こんなのは、どうでしょうか。朝に現れ、夜に消える。これなんだ?」
アーノルドくんの瞳はキラキラと輝いている。自信があるに違いない。だけど――
「答えは太陽ね」
エミリーさんが言うと「えっと、影なんですけど……」とアーノルドくんは困惑する。
「太陽と影は一心同体。確かに影も答えね。でも、答えが二つあるのは、ちょっと……」
エミリーさんは歯切れが悪い。否定してしまうと、彼が傷つくからだろう。なかなか難しいところだ。
「シモンは何か案ある?」
「増えることがあっても、減ることはない。持っていても重くない。これなんだ?」
結構な自信作だ。
「うーん、体重じゃないわね。重くなるもの」
「俺もお手上げだ」
「分からないですね。答えは何ですか?」
どうやら三人には解けなかったらしい。
「答えは年齢です」
エミリーさんは手をポンと叩く。
「それ採用! この二つを新たな謎にしましょう」
どうやら、エミリーさんの悩みは解決したらしい。めでたしめでたしと言いたいが、そうはいかない。いずれ、誰かが謎を解くだろう。そして、冒険者の間で情報共有される。きっと、いつかまた同じ相談が来るだろう。誰かが「またあの謎か」と嘲笑するその日まで、僕たちは先回りして考え続けなくてはならない。冒険者と僕らのいたちごっこは、どうやら永遠に続くようだ。