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戦え! 佛雁(ぶつかり)おじさん
戦え! 佛雁(ぶつかり)おじさん
ぼんげ
現代ファンタジースーパーヒーロー
2025年04月11日
公開日
4.8万字
連載中
多くの人と欲望が行き交う繁華街、池袋。 この地には人知れず”呪いの女王 ヨウコ”による「三日に一度、左足の小指をタンスの角にぶつける呪い」がかけられ、何気ない顔で道行く人々もひっそりと小指の痛みに苛(さいな)まれていた。 そんなことは露(つゆ)とも知らず、今日も朝の通勤ラッシュで賑わう池袋駅のホームにて。スマホに夢中で前も見ずに歩く無謀な女子高生のことを、渾身のショルダータックルで以てわからせている男が一人。 男の名は佛雁(ぶつかり)穣二(じょうじ)。42歳。独身。 時価総額30兆円を誇る超巨大企業”黒杉コーポレーション”傘下で、主に男性用パンプスを手がけるシューズメーカー”ブラックシダー”池袋支店長。 昼は部下への教育的指導(パワハラ)、夜はキャバクラでオキニにガチ恋、そして朝は池袋駅での慈善活動(悪質タックル)と、充実した日々を送る彼のキャリアは至って順風満帆そのもの・・・・・・の、はずであった。 いつも通り、朝の慈善活動を済ませた佛雁の前に現われたのは、駅構内で何故か白衣を着ている自称研究者の謎の少女・白鷺エレナ。 ヨウコの呪いを解く方法について研究しているという彼女。その研究成果を実践に移すためには、佛雁の力が必要なのだとか。 主人公(悪質タックラー)×ヒロイン(マッドサイエンティスト)×男装執事(暴力的)のトリオが送る、ドタバタぶつかりックコメディ。 ※この作品は駅でのぶつかり行為・盗撮・その他諸々の犯罪等を推奨するものではありません

標的0:歩きスマホの女子高生

 通勤通学のラッシュで大混雑する、朝8時の池袋駅3番ホームにて。


「きゃあっ……!」


 都内の高校の制服を着た女子生徒が、小さな悲鳴とともに尻もちをつく。


 ある者は無関心に素通りし、ある者は進路を阻まれたことに対する不快感を露わに舌打ちをする。またある者は、目線だけを向けて心配している風だけを装い、結局そのまま通り過ぎる。通行人たちの反応は実にさまざまだが、誰一人として手の一つも差し伸べずに素通りしていく点だけは共通している。


 実に冷たく薄情なことだ。まったく気味が良い。俺は背中越しに現代社会の縮図をひしひしと感じ、そして心の中であざけってやる。


 こんな混雑時に歩きスマホなんかしくさってやがるからだ、このクソガキめ。これに懲りたら、もう二度と歩きスマホなんてするんじゃないぞ。


 周囲からの冷ややかな視線が俺に向けられるが、そんなことは知ったことではない。なにか文句があるなら直接言ってみやがれ。


 俺は視線を振り払うため、わざと早歩きでホームの階段を降りていく。ラッシュの人混みが俺の通り道を開ける様は、神になったようで気分がいい。


 階段を降り、改札口へ向かう通路を歩いていく。このあたりまで来ると俺の華麗なる犯行を目撃した者もなく、無関心な他人の群れがいるばかりだ。いや、犯行というと人聞きが悪い。これはむしろ、迷惑な歩きスマホのクソガキを戒めるための正義執行だ。


 しかし、もうこんな時間か。できる管理職の朝は早いのに、少し遅くなってしまった。会社に着いたら、いつも通り使えない部下共に気合を入れてやらなければならないのだ。まったく最近の若者は。営業ノルマも達成できないくせに、毎日毎日いっちょ前に定時上がりしやがって。俺があいつらぐらいのときは、毎日終電で帰るのが当たり前だったというのに。


 まったく、どいつもこいつも腹立たしい。次から次に湧き上がる苛立ちのせいか、せっかく社会のためにをしても、全く気なんか晴れやしない。


 憂さ晴らしにわざと周囲に聞こえるよう舌打ちをしてやると、小心者共がこちらを振り返ってきた。ふん、この間抜け共め。せいぜいそうやって一生、人の顔色ばかり窺って縮こまっていればいい。


 つかの間の愉悦にひたりながら、肩で風を切って改札へと歩いていく。


 すると突然、俺の左肩が何者かの手により掴まれてしまい、バランスを崩しよろけてしまった。


「なんだ、テメェ!?」


 不意の狼藉に苛立ち怒鳴りながら、肩に置かれた小さな手を思い切り振り払う。そしてそのまま振り返ると、そこに立っていたのは・・・・・・


「やあ、佛雁ぶつかりくん。突然だけど、キミの力を貸してくれないか?」


 明らかにサイズの大きいブカブカの白衣に袖を通した、先ほど突き飛ばしてやった女子高生くらいの年齢にしか見えない小柄な少女であった。


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