「いやー。ものの見事に気絶してたねー」
キャスター付きの椅子を滑らせて俺の頭の方へと移動しながら、そうケラケラと笑いながら話すのは・・・・・・
「あ、お前は!?」
「エレナと呼んでくれといったじゃないか。女性の名前を忘れるとは失礼な奴だね」
池袋駅で会った少女、エレナだった。
そうだ。俺はコイツに誘われるがまま駅の多目的トイレで・・・・・・。
「テメェ、騙しやがったな!? これはいったい何の真似だ!?」
「いやー。今時下半身に脳があるタイプの男子大学生でもかからないだろう雑なハニトラで、あんなものの見事に釣れるとは思わなくてねー。面白くてつい悪ノリしてしまったよ。あーおかしい」
悪びれもせずにゲラゲラと腹を抱えて大爆笑しているエレナ。「人のことを指差すな」って小学校で習わなかったのか?
「それに随分と楽しそうな夢を見ていたようじゃないか。いやー、傑作だったよ。その施術台の枕を”カオリ”と呼んで、キメ顔でキスしようとする様は。私としては面白いからもっと観察していたかったんだけどねー」
「申し訳ありません、お嬢様。コイツのキス顔があまりにも生理的に無理だったので、思わず高圧電流を流してしまいました」
相変わらず枕元でケタケタ笑っているエレナの他に、左の足元からもう一つの声が聞こえてくる。声の方向へと顔を向けてみると、駅のトイレで俺のことを思い切り蹴り飛ばしてきた燕尾服の少年が立っていた。その左手には何やら装置のリモコンらしきものが握られている。
「お前はトイレの!? よくも人のことを・・・・・・アジャパァ!!!」
俺は、声をかける間もなく蹴り飛ばされたことへの怒りをぶつけようとしたが、皆まで言い終える前に、四肢の枷を通じて全身に電流が奔った。
「ボクに気安く話しかけるな。このバーコードハゲが」
「誰が・・・・・・バーコード・・・・・・ハゲだ・・・・・・」
この装置の電流、なかなかえげつない威力をしている。とても人に流してもいい規格のものとは思えない。俺は意識が逝きかけるのを堪え、やっとのことで少年を睨みつける。
すると俺の反抗的な態度が気に入らなかったのか、少年が再びリモコンのスイッチへと親指をかけようとしたとき。
「ユリア、ストップ。ここで気絶させてしまうと、本番で啼く様が見られなくなるだろう?」
エレナが少年のことを制止してくれて、とりあえず命拾いすることができた。なんかセリフの最後に気になる部分があったが。
「改めて自己紹介でもしておこうか。ひけ・・・・・・いや、佛雁君」
いったい何を言いかけたんだ、コイツは? 何となくだが、あまり深く考えないほうがいいと本能が言っている。
「私は
ユリアは俺のことを鋭い眼光で睨みつけながらも、主人に紹介された手前かわずか1度程度だけ頭を下げる。つまりはほぼ無反応だ。
それにしても
「で、俺はその
「勝手に人の研究所を気持ち悪い名前にするんじゃないよ・・・・・・。それに、何をするかはもう駅で話しただろう? まさか、忘れてしまったのかい? いけずだなぁ」
エレナは意地悪く口元をにやけさせながら、施術台上の俺を見下ろして笑う。
え? 駅で話したってことは・・・・・・まさか・・・・・・!
「思いだしてくれたかい? そう、
俺はその悪戯っぽくもどこか妖艶な微笑みを前にして、思わずゴクリと固唾を呑んだ。