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お注射執事ユリア

「人には言えないことって・・・・・・まさか!?」


 そうか。そういうことか。俺の中で散らばっていた全てのピースがキレイにはまっていく。


 コイツは真性のサディストで、拘束プレイが好きということか。俺は別にマゾヒストではないのだが、そういうことであれば付き合ってやるのもやぶさかではない。どんなへきも広い心で受け入れてこそ、真のモテ男だというものだ。


「この期に及んでまだ気色悪い妄想をしているのか・・・・・・。怒りを通り越して、いっそ哀れに思えてきたな・・・・・・」


 心底呆れ果てたような視線を向けてくるユリア。


「まあ、夢を見るのだけは自由だからね。好きにさせてあげよう。じゃあユリア、アレ持ってきて」


「はい。お嬢様」


 エレナからの指示を受け、ユリアは引き戸を開けて室外へと姿を消す。


 それから一分後。戻ってきたユリアが手にしていたものは、一見ごく普通の注射器であった。……そのあまりの大きさを除いて。


 ユリアが両腕で抱えてやっと納まるかどうかくらいのサイズのそれは、渋谷ハロウィンのナースコスプレ以外ではまず見ることがないような代物だ。しかも、シリンジの中ではおどろおどろしい赤紫色の液体がくつくつと煮えるように泡立っている。


 え、俺今からアレ刺されるってこと・・・・・・? 嘘……だろ……?


「安心してくれ、痛くはしないからさ。ほら、はやくを出したまえ」


 え、尻!? あの巨大な針が・・・・・・俺の純潔を・・・・・・?


「ああ、大丈夫。これ筋肉注射だから。君が想像しているようなことにはならないよ」


「そっか。それなら安心……って、普通に刺されても死ぬわ!?」


 身体ごと貫通しそうな針の大きさをしていることはおろか、中の液体も絶対人体に入れてはいけない代物だ。残念ながら、純潔さえ護られればとかいう次元の話ではない。


 当然、必死に暴れて抵抗を試みたが、四肢の頑丈な鉄枷がそれを許さなかった。


「この期に及んでゴチャゴチャうるさい奴だね。いいから尻を出せと言っているんだよ」


「うわあぁぁぁ!!! やめろおぉぉぉ!!!」


 しびれを切らしたエレナは、俺を乗せた施術台を遠隔操作で尺取り虫のごとくギャッチさせる。結果、俺は強制的に尻を突き出す姿勢を取らされた。


 尻側に視線を向けると、使い捨てのビニール手袋を左右それぞれに10枚くらいずつ重ねて着用しながら、心底嫌そうに仏頂面をしているユリア。「はぁー」とわざとらしく大きな溜息をつくと、意を決したように俺のズボンのベルトへと手をかけてきた。


「きゃあぁぁぁーーー!!! 何するのよ、このすけべ! えっち!」


「黙れ、このバーコードハゲ! ボクだってお前の汚い尻なんか見たくないわ!」


「じゃあ見なきゃいいでしょ!? このエロ執事め!」


「誰がエロ執事だ! 殺すぞ! あと、気持ち悪いからそのオネェ口調やめろ!」


 抵抗虚しく、俺の下衣たちはユリアによって乱暴に引きずり降ろされ、臀部やその他諸々が「コンニチハ!」する。


 騒ぎすぎたせいだろうか。湯気が出そうなほどに顔を真っ赤にしたユリアがついに注射器を構える。その様は注射というよりか、槍とかを構えるときのそれだが。


「きゃあー! やめてー! その太くて長いモノでアタシをどうするつもりなの!?」


 すると、俺とユリアのコントを高みの見物していたエレナから一言。


「……キミ、実はこの状況愉しんでるだろ?」


「い、いや、そんなことは……! けっして、執事からの羞恥プレイに思わずときめいているなんて……」


「へぇ、よくわかったね。ユリアがだって」


「ふ。あまり俺をなめるなよ。上手く隠したつもりかもしれないが、あの柔らかそうなケツは間違いなくだ」


 そこまで言い終えてふとユリアの方へ視線を戻すと、羞恥か憤怒か、顔をさらに真っ赤にして打ち震えていた。


「死っっっねえぇぇぇ!!!」


 俺からの視線に気づくと、ユリアは注射器を一度後ろへ引いて反動をつけ、俺の尻めがけて思い切り突き出してくる。ただでさえ注射と呼ぶには大きすぎるその針が、注射と呼ぶには強すぎる勢いで俺の尻へと迫ってきた。


 死を悟ったせいか、近づいてくる先端がふとスローモーションかのように映る。しかし、四肢を枷に拘束されている身で避ける術もなく、座して、いや尻を突き出して死を待つしかない。運命を悟り、静かに目を閉じたそのとき。


「ギャアァァァノ!!!」


 肉を容易く貫く痛撃とともに、骨の髄まで溶かされるような熱さの液体が流れこんでくる。灼熱は瞬く間に俺の全身を浸食していき、その苦痛のあまり俺はたまらず意識を失ったのであった。


 ***


「お疲れ、ユリア。どうやら適合は成功のようだね」


 尻肉を貫通した傷口が瞬く間に塞がっていく様を観察しながら、実験の成功を喜ぶエレナ。


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。むしろ、失敗してそのまま死んでくれればよかったのに・・・・・・」


 上気した顔をハンカチで拭いながら、ユリアは内心で舌打ちをした。

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