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爆発するしかねぇ

 絢爛なシャンデリアが輝き、非日常を演出するラウンジフロア。


 ここは池袋のキャバレークラブ「Voyanger」。この店のシックな黒革張りのソファに座ってくつろいでいる今この刻だけは、無能な部下や歩きスマホのクソ野郎たちから受けたストレスを忘れられる。


「穣二さん。お酒、入れますね」


 そんな俺の右隣では、カオリが寄り添うようにして座っている。布面積の小さな赤いドレスからは、その肩から豊満な胸元にかけてが見せつけるかのようにさらされていた。


「ありがとう、カオリ。でも、今は酒よりも・・・・・・お前のことがぐわあぁぁぁぁ!!!」


 ***


「はいはい。はいいから、さっさと起きたまえよ」


 鉄枷からの無慈悲な高圧電流により、無理矢理現実へと引き戻される。俺は確か・・・・・・あのシュラスコの串並みにぶっとい注射針で尻を貫かれて・・・・・・。


 気を失う前のことを思い返し、無意識に尻をさすると、ふと感じた違和感。あれだけのものをぶっ刺されたはずなのに、俺の尻には傷一つついていない。と、いうことは・・・・・・?


「なんだ、アレは夢か。そりゃそうだよな。あんな殺意マシマシな注射があるわけ・・・・・・」


「ああ、尻に空けたのことかい? の確認ついでに塞いでおいたよ。もしかして、残しておいた方がよかったかい?」


「ア、サヨウデスカ。フサイデイタダキアリガトウゴザイマス・・・・・・」


 夢ではなかったか・・・・・・。それにって・・・・・・やっぱり貫通していたのか・・・・・・。


「お前がバカなことを言うから、うっかり貫いてしまったじゃないか。まったく・・・・・・」


 俺の尻を貫いた犯人からは「お前のせいで」とでも言わんばかりの視線が向けられる。え、俺が悪いのか? 納得いかねぇ・・・・・・。


「で、あのおどろおどろしい液体はもしかしなくても・・・・・・俺の体内に・・・・・・?」


「もちろんだとも。何か身体に異変は感じるかい?」


「いや、特に何も」


 そういえば、あんな誰がどう見ても劇物確定の液体を体内に注ぎ込まれた割に、身体には今のところ特におかしいところは何も無い。


「ふむ。やはりは成功のようだね。例の液体なら、今頃キミの血液として全身を流れているはずだよ」


「え・・・・・・?」


 今、俺の身体には、あの見るからにヤバそうな赤紫色の液体が流れてる・・・・・・ってコトォ!?


「ああ。血液としてキミの身体の各器官へと干渉し、私の指示一つで好きに作り変えることができる優れものさ。キミは晴れて、私の改造人間おもちゃになったわけだよ」


「・・・・・・は?」


 今さらっととんでもないこと言わなかったか? コイツ。


「おいおい。せっかく尻肉に超再生機能をつけてあげたというのに。尻の恩人に向かってなんだね? その反抗的な目は」


「そもそもの危険に晒した犯人がそれを言うか?」


「ゴチャゴチャとうるさい奴だね。・・・・・・試しに一度くらい自爆してみるかい?」


 ・・・・・・どうやらこれ以上の抵抗は無意味のようだ。さようなら、俺の基本的人権・・・・・・。ああ。42年の人生を聖人君子として生きてきた俺が、いったいどうしてこんな目に・・・・・・。


「さあ、人体実験で遊ぶのはこの辺にして、そろそろへと向かおうか。ユリア、佛雁君の枷を解いてやってくれ」


「はい。お嬢様」


 エレナの指示を受け、枷の鍵らしきものを持ったユリアが俺の右手首側に近づいてくる。


 しめた。枷さえ外れれば・・・・・・


「ああ、佛雁君。枷が外れた隙に逃げようだなんて考えない方がいいよ。・・・・・・まあ、どうしても自爆体験がしたいって言うなら止めないがね」


 ・・・・・・しかし、残念ながら俺の思惑はエレナに見透かされていた。


「どうせなら外で爆ぜてくれた方が、片付けが楽だしね」などと付け加えるエレナの言葉を聞き、俺はつくづくヤバい奴に目をつけられてしまったことを実感したのであった。

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