多く訪れる若者たちを筆頭に、朝とはまた違った類いの混雑をしている、昼下がりの池袋駅。
「先に潜入しているユリアからの情報によると、山本線の8号車前方に乗っている女性が怪しいそうだ」
駅ナカのカフェのテーブル席では、タブレット端末を操作しながら話すエレナと、シュガーシロップマシマシクリームマッターホルンのいちごラテをしばく佛雁の二人がミーティングを行なっていた。エレナのタブレットには、ユリアから送られてきたターゲット候補の姿が映し出されている。
「服装は上がグレーのサブカル系オフショルセーターに黒のネクタイ付き。下が黒のプリーツミニスカート。髪型は黒のハーフツインで、髪質はストレートタイプか。まあ、メイクの系統も含めてコッテコテの地雷系女子というやつだね」
エレナは送られてきた情報を元に、外見的特徴のメモを取っていく。その文字列の横に添えられたイラストは、デフォルメされながらも上手く特徴を捉えた大変分かりやすいものであった。
対して佛雁はというと・・・・・・。
「うーん。62点。今にもパンツが見えそうなミニスカートと、セクシーな肩出しは素晴らしいが、厚化粧が気に入らない。それにちょっとデブだな」
いちごラテの山盛りクリームを迎え舌でなめ回しながら、勝手にターゲット候補の外見採点をしていた。
「頼んでもいない採点どうもありがとさん。・・・・・・キミ、よく刺されずに今まで生きてこれたね」
佛雁へ侮蔑と軽蔑の視線を向けるエレナ。
「心外だな。何も赤点つけてるわけでもなし、これくらいでギャーギャー騒ぐなよ。まったく、女ってやつは・・・・・・」
それに対し、不服そうにグチグチとぼやく佛雁。
「まあクソの役にも立たない、キミの独断と偏見による採点なんて別にどうでもいいから、本題に戻ろう」
だが、エレナは佛雁のぼやきを完全に無視して話を進める。
「このターゲット候補だが、ここまで上下完璧な地雷系ファッションで固めておきながら、靴だけが
つらつらと分析を語るエレナ。しかし、佛雁には素朴な疑問が浮かび上がった。
「でもよ。この女がターゲットってのは分かったが、コイツそもそも池袋で降りるのか?」
「そこは心配無用だ。彼女のポーチを見たまえ。おびただしい数のアニメ『テニスの教祖様』キャラクター缶バッジがついているだろう? これは、今日の17時から池袋で行なわれるリアルイベント目当てだと見て間違いないね」
「同じ顔ばっか並んでてキモいな」
「繰り返すが、キミよく今まで刺されなかったね。・・・・・・まあいい。これからキミにしてもらうことを説明するよ。まず5番ホームの8号車乗り場付近まで先回りして、ターゲットの到着を待つ。そして、ユリアからの到着の知らせを合図に、ターゲットを探してタックルをしかけ、転倒させるんだ」
「任せておけ。女子供を突き飛ばすのは慣れたものよ」
いちごラテの残りを一気飲みして、佛雁は意気揚々と席から立ち上がる。
「良心の呵責というものが毛ほども無いのは、私としては話が早くて非常に助かるが・・・・・・まあ人の話は最後まで聴きたまえ。ただ突き飛ばすだけでは単なる悪質タックラーに過ぎないよ。コイツを持って行きたまえ」
エレナははやる佛雁を呼び止めると、白衣のポケットから黄色いスマートフォン端末を取り出し、佛雁へと手渡した。
「なんだ、これ? スマートフォン?」
訝しんだ佛雁は端末をすみずみまで確認するが、どう見てもただの3眼カメラ付きスマートフォンだ。
「コイツはスマホ型映写機、その名も『
「なる・・・・・・ほど・・・・・・?」
説明されてもピンと来ず、佛雁の頭上にはハテナマークが浮かんでいる。
「まあ、習うより慣れろというやつだ。幸いこの時間なら劇的な混み方をするわけじゃない。正面突破でなんとかなるはずだよ」
「とりあえず、アレだな? あの女を突き飛ばして、これで写真を撮ればいいんだな?」
「そういうことさ。期待しているよ、佛雁君」
にやけた顔のエレナに見送られながら、カフェをあとにして5番ホームへと向かって行く佛雁。
その口元には、いちごラテのクリームで作った白髭が残っていた。