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第32話  光は、つながっていく

「先生、うちの子がね、『また、あのくまくんのところ行きたい』って」


近所の母親がそう言って笑った。

光の図書室が開設されて半年。小さな口コミが少しずつ広がっていた。


読み聞かせのある日は、駐車スペースがすぐに埋まり、近隣の子どもたちだけでなく、隣の市からも親子が訪れるようになっていた。





ある日、光の図書室に一通のメールが届いた。


> 件名:【講演依頼】

差出人:埼玉県 教育支援センター

内容:障がいを持つ子どもたちへの絵本支援について、ご講演をお願いできないでしょうか?




紗英は驚いた。講演なんて考えたこともなかった。


「……私で、いいんでしょうか」


不安をこぼす紗英に、航平が言った。


「君にしか話せないことが、たくさんある。伝えよう。くまくんの物語と、君自身の物語を」





会場は100人規模のホール。


手が震える。呼吸が浅くなる。


だけど、ステージの上で紗英は絵本を手に取り、静かに話し始めた。


> 「私はかつて、“普通”から転がり落ちたと思っていました。

お嬢様育ち、名門の大学、でも妊娠、失職、死産、借金。

でも……私が一番つらかったのは、子どもたちと、自分自身の存在を、否定し続けたことです」




聴衆の中に、涙をぬぐう女性の姿が見えた。


> 「でも、くまくんに教えられたんです。

“歩けなくなっても、光を感じていいんだ”って。

だから私は、この『光の図書室』を通じて、子どもたちに言いたい。

“あなたは、あなたでいい”って──」




拍手が鳴り止まなかった。




講演の後、希望者の列ができた。


ある若い男性が、声を震わせながら言った。

「自分、事故で下半身不随になったんです。だけど今日、少しだけ、生きたいって思えました」


紗英は微笑みながら、その手をそっと握った。




やがて、講演は各地から招かれるようになり、テレビのドキュメンタリーにも取り上げられた。

全国の図書館や教育現場から「くまくんの絵本」の注文が入り、「光の図書室」には毎週のように手紙が届く。


──中には、こんな子どもからのものもあった。


> 「ぼくもくまくんみたいに あるけないけど

せんせいのえほん よむと ほっとします

いつか そっちにいって くまくんに あいたいです」




紗英はその手紙を読みながら、目に涙を浮かべ、そっとつぶやいた。


「こちらこそ、ありがとう。あなたがいてくれるから、私は書ける」



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