ある冬の日の午後、「光の図書室」のカウンターに、一人の若者がやってきた。名前は
「もし、ボランティアでも何でもいいなら、ここで学ばせてもらえませんか」
まっすぐな瞳を見て、紗英は即答した。
「もちろん、こちらこそありがとう」
瑞樹は熱心に働いた。読み聞かせの準備、絵本の選定、子どもたちとの対話、そして何より──紗英の話に、耳を傾け続けた。
「先生みたいになりたいです」
「私も、まだ道半ば。けれど…あなたのような人に出会えて、本当に嬉しい」
やがて1年が経った頃、瑞樹が言った。
「先生、実は僕、地元にも“光の図書室”のような場所を作りたいんです。
でも、勝手に“分室”なんて名乗っていいのかなって、悩んでて──」
紗英は、静かに笑った。
「“光”は、私のものじゃないわ。それは、誰かが誰かを想う時に自然と灯るもの。
だから、その場所が誰かの希望になるなら、堂々と“分室”って名乗っていいのよ」
数ヶ月後、瑞樹の地元で「光の図書室 分室」が開かれた。
開設初日は、瑞樹が自ら『くまくんのとおいみち』を読み聞かせした。
絵本の後、こう続けた。
「この場所は、“自分のままでいていい”と思える場所です。
ぼくがそれを教わったのは、ある絵本作家の女性からでした──」
客席の後方で、紗英が静かに目頭を押さえていた。
その肩に、航平がそっと手を添える。
「君が灯した光が、ちゃんと届いてる」
紗英は、小さく頷いた。
その後、光の図書室は全国に5か所の分室を持つようになり、子どもたち、障がいを持つ若者たち、親たちが安心して集える場として根を広げていった。
絵本は翻訳され、海外の図書館にも置かれるようになり、紗英の元には感謝のメールが毎週届いた。
──それでも彼女は、いつも変わらない想いでいた。
「たった一人でもいい。
その子の明日が、少し明るくなるように」