秋の風が、図書室の掲示板をそっと揺らした。そこには、「子どもたちと未来をつなぐ場──“悠愛園”プロジェクト始動」の大きなポスターが貼られていた。
紗英と航平は、図書室で地域住民を対象にした説明会を開いていた。まだ施設は形になっていなかったが、夢に向けた一歩を、確かなものにしたいと思っていた。
「……地域の皆さんのご理解とご協力がなければ、悠愛園は成り立ちません。どうか、この街の子どもたちの未来のために、力を貸してください」
紗英の言葉に、会場が静まり返った。そのあと、ぽつりと一人の年配女性が手を挙げた。
「私は以前、保育士をしていました。もう引退したけれど、少しでも力になれればと思って……。子どもたちの声がまた聞けるなんて、うれしいです」
そのひと声がきっかけになったのか、ぽつぽつと周囲から声が上がり始めた。
「わたし、調理ボランティアなら手伝えるよ」
「畑を貸してもいい。自然の中で育つ喜びも、子どもたちに教えてやってくれ」
「木工が得意だから、園のベンチや棚くらいなら作れる」
紗英はその場で涙を堪えきれなかった。ずっと一人で背負ってきたような気がしていたけれど、こんなにも多くの手が、自分たちの夢を支えようとしてくれていたのだ。
航平がそっと紗英の背中に手を当てる。
「大丈夫。みんな、仲間になってくれるよ。ひとりじゃないって、思い出して」
その夜、ふたりは図書室の片隅で、手作りのコーヒーを分け合いながら誓い合った。
「夢じゃないね、もう」
「うん。始まってるんだ、現実が」
そして、悠愛園は地域の温かな支えとともに、ゆっくりと芽を出し始めていた。