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殺意に飢える(その終)

 上下左右、四方八方────どこからでも。聞こえる、聴こえてくる。笑い声が、こちらのことを嘲る声が。楽しくて愉しくて、もうどうしようもない程に、仕方がない程に。そう言わんばかりの、大笑いが。


 聞こえる、聴こえてくる。いつまでもいつまでも、ずっと。まるで鼓膜にベタッと貼り付き、密着されているように。頭の外で響いて、頭の中でも響いて響いて、そして延々と響く。永遠と響き続ける。


 調子も、音程も、抑揚も。一切変わらないその笑い声は、着実に、確実に。こちらの正気を摩耗させ、掘削していき。


 あっという間に、追い込まれ、追い詰められ──────────











「ねえ、大丈夫?」











 ──────────不意に。突然、本当に唐突に。やたら甘ったるく蕩けたその声が、ぞるり、と。僕の鼓膜を舐めるかのように、ねっとり撫で揺らした。


「ひっ……ッ?!」


 喉奥から無理矢理に引き絞られ、情けなく掠れたその呻き声が。自分の声であるということに、数瞬遅れて僕は気づく。まるで頭から極低温にまで冷やされた水をぶっかけられたような驚愕と衝撃に襲われる最中、またしても。


「ねぇえ?ねぇぇえってばぁ?大丈夫かなって、ボクは訊いてるんだけど……?」


 あの声が僕のすぐ耳元で囁いてくる。本能で直感し、理解していた。それが上っ面だけの言葉であると。本心では全く、ちっとも、これっぽっちも僕のことなど心配していない。気にかけていないということを。


 だから僕は、それに従い。即座に、いつの間にかすぐ傍に立っていた灰色の女性を、その顔をろくに見ることなく思い切り突き飛ばした。


「ぼ、僕から離れろっ!僕に近寄るな!近寄るなぁああああッ!!」


 女性を突き飛ばし、すぐさま僕はその場から跳び退く。必死だった。無我夢中のことだった。この得体の知れなさ過ぎる灰色の女性から、何が何でも距離を取らなければならないと。僕の頭の中の警鐘が全力で鳴らされていたのだ。


 気がつけば息が非常に荒くなっていた。整えようとするが、上手くいかない。できない。まるで忘れるはずもない、呼吸の仕方をド忘れしてしまったように。


「いたたっ……えぇ、酷いなあひっどいなぁあいきなり突き飛ばすなんて。あんまりだよ……ボクはただ、キミのことを心配しただけなのにぃ」


「見え透いた演技は止めろ!そんなもので、僕は騙されやしない……!」


「演技って……なんか知らない内に随分と嫌われちゃったねえ、ボク」


 僕に突き飛ばされたことを仰々しく、実に大袈裟な様子で灰色の女性は嘆き悲しむが、それでも僕は遠慮なく、容赦なしに拒絶の言葉を浴びせる。


 信用できなかった。ただひたすらに、僕はこの女性のことを全く、その何もかもが信じられないでいたのだ。


 ……いや、違う。信じられないのではない。僕は単にこの灰色の女性が、およそ僕の理解が及ぶ範疇から大きく逸脱しているこの存在が────。悍ましくて、恐ろしくて、そして怖かったのだ。


 嫌悪と不快。恐怖と忌避。それら様々な負の感情が僕の中で滅茶苦茶に無茶苦茶に入り混じって、入り乱れて。それがさらに灰色の女性に対する不信感を募らせ、僕の精神を恐慌状態へと陥れる。そんな最中、僕は矢継ぎ早に言葉を紡いだ。


「貴女は一体何なんだ!?何が目的で、何で僕にこんなことをする!?どうして僕を追い込んで、追い詰める!?貴女は……何なんですかッ!?」


 恐慌する僕の問い詰めに対し、灰色の女性は依然その顔に笑みを浮かばせながら。焦らすかのように数秒の間を置いて、その口を開かせた。


「あっはぁごめんねえ。いや本当にごめんねえ?別にキミを怖がらせようだとか、そんなつもりボクにはないよぉ?ないんだよお?さっきのはね、キミが。あまりにも、あんまりにも愉快で楽しくて面白い、実にボク好みの反応を見せてくれていることへの、ボクなりの感謝の表れだったんだよ」


「僕はそんなことを訊いているんじゃあない!訳のわからないことを捲し立てて、僕を惑わそうとするなッ!!」


 自分が冷静ではないことは、僕とてはっきりと確かに自覚していた。だがしかし、僕が冷静でいられなくなるのも仕方のないことではなかろうか。


 こちらは真面目に接しているが、相手は堪らず声を荒げた僕に対して、しかし女性は笑みを崩さず、歪ませず。頭に血が昇っている僕の怒りなどまるで眼中にないように、あくまでも平然と落ち着いた様子で彼女はこう続けた。


「でもまあ、仕方ないよね。仕方のないことだよね。ボクがいくら本当のことを語ろうと、こうして淡々と事実を述べようと。キミはそれを認めない受け入れない。……仕方ないよ。だって、キミはそのことを


 ……女性が一体何を言っているのか、一体、何に対してそう言及しているのか。僕はわからなかった。僕には理解不能のことだった。


 ──忘れて、いる……?僕が、一体何を忘れているっていうんだ……ッ?


 恐らく、僕は揶揄われているのだろう。この正体不明で、その見当もつかない灰色の女性に、僕は良いように揶揄われ、弄ばれ、馬鹿にされているのだろう。そう考えると、そう思うと僕の中で堪え難い、灼熱の業火が如き憤怒が燃え盛り、再度声を荒げる────直前、ふと気づいた。


 ──あれ?あ……れ……?


 それはだった。至極些細な、己に対するだった。その二つは瞬く間に混乱と困惑へと変わり、一瞬にして僕の頭の中を埋め尽くす。


 そんな頭の中で、僕が思ったことはこうだった。






 ──何で僕は、こんなにもこの女性に対して怒りを






 おかしい。おかしい、おかしいおかしいおかしい。とても奇妙で、凄まじい違和感。僕は僕がわからなくなっていた。いつの間にか、自分という存在のことが理解できなくなってしまっていた。


 だって、わからないのだから。どうしてこんなにも、今目の前に立つこの灰色の女性に対して、抑え切れない程の激しい怒りを感じているのか。その理由が────


「ぉおお……おぁあああっ?」


 突然、今にでも頭が爆ぜ砕け散りそうな程に酷い頭痛が僕を襲う。それはどうしたって我慢のできない、とてもではないが堪えられない頭痛で、そうして情けなくみっともない呻き声を、僕は出さずにはいられなかった。


 そんな僕に、だが灰色の女性は慈愛と憐憫が絶妙に入り混ぜられたような感情の声音を以て、まるで癇癪を起こした幼子をあやすかのように語りかけてくる。


「ほら、そういうことだよ。キミは忘れてるんだ。忘れてしまうんだ。だからどうしてボクに怒りを覚えているのかわからないし、、それ自体不思議にも疑問にも思うこともなければ、そもそもその事実にすら気づきやしない。……だって、キミは全部を全部、忘れちゃうんだからね」


 わからない。理解できない。この灰色の女性の言葉が、まるで異界の言語であるような感覚。僕にはそれが音として頭の中に響いてくるだけで、女性が一体何を言わんとしているのかは全く理解できないでいた。


 だが、そんな僕の様子など目もくれず。淡々と、悲哀の眼差しをこちらに向けながら、灰色の女性は続ける。


「ああ、なんて残酷な運命。なんと過酷な仕打ち。といってもまあボクが色々と手を加えたからなんだけどね。つまるところ端的に言っちゃえばボクが原因なんだけど、ネ」


「ぐ、ぁ…………っ?」


 頭が今すぐにでも爆ぜ割れそうな頭痛も、ある程度弱まったことで。どうにか僕も余裕を取り戻し、灰色の女性の言葉に対してようやく疑問を抱けるようになった。


 ──そうなるように……?色々、手を加えた……だって?


 第一、一体この女性が言う紛い物とは、何なのだろうか。女性が言うには、それは僕にとっては大事で、大切なものだったことには違いないらしいが……やはり、そんなもの


「……教えて、ください」


「ん?」


 草臥れて、呻くことすら億劫にも思える程に疲弊していながらも。微かに、僅かに残っていた気力を無理矢理に振り絞って、僕は訊ねた。


「貴女はさっきから何を言っているんですか……貴女は、さっきから僕に何が言いたいんですか……どうして僕は貴女に対してこんなにも堪え難い怒りを、どうしようもない怒りを覚えているんですか…………一体、僕は何を忘れているっていうんですか?」


 まるで、ではなく。僕の今の声は、もはや死人そのものと言っても過言ではなかっただろう。


 僕と灰色の女性との間で、十数秒の沈黙が流れた。きっと、聞き取れなかったのだろうと、僕がそう思うと同時に。


「いや、いやいやいやあ。本当に、本当に素晴らしい。素晴らしい素晴らしい素晴らしい。……だからこそ、何処までも。愚かで哀れで、そして儚く美しい。ボクはそんなキミが好きだ大好きだ。それ故に、ボクはキミが嫌いだ大嫌いだ。恨めしくて憎らしくて恐ろしくて悍ましくて……とてもじゃないけど、堪えられそうにない。あは、ははは」


 と、もはや僕の理解が及ばない感情で埋め尽くされた、顔と瞳で。まるで壊れた機械のように、灰色の女性はそう言った。対する僕は、当たり前に呆然とするしか他ないでいた。


 そんな僕に依然として未知の感情を露出させたまま、灰色の女性は続ける。


「えっと確かボクはキミに何が言いたいかだっけ?どうしてキミがボクに対して理由のない怒りを覚えてるかだっけ?ああ、いつも通り訊いてきたけど、その様子だと無事忘れてるよね。まあ別に今回だけ覚えてても、それはそれで特に問題ないけど。えっとえっとなんて言うんだったかなこういうの……あ、思い出した。確か人間は『論より証拠』って言ってたなあ。ほら、キミの足元を見てごらんよ」


 白状すれば、僕は灰色の女性が言っていることを何一つとして理解することはできなかった。何を言っているのかはわかる。だがその意味が。理解できない。僕はただ彼女の言葉を、音としてか受け入れることができないでいた。


 だからきっと、僕が自分の足元を見たのも、肉体の反射だったのだろう。事実、その時僕は何も考えていなかった。正真正銘、それは無意識下での行動だった。


 そして何も考えていない僕の視界に映り込んだのは────倒れている一人の少女だった。


「…………」


 瞬間、気がつけば僕は固まっていた。その少女は、燃え盛る炎をそのまま流し入れたような、激しく美しい紅蓮の髪を絨毯のように広げていた。その顔もまるで一流の人形作家ドールメイカーが手ずから、至高にして最高に仕上げんという固い意思の下に作り上げてみせた、まさに傑作と評すべき人形の如く整っており。可憐にして美麗、その中間を彷徨う貌の持ち主であった。


 そしてありえないことに────何故か僕には見覚えがあった。この女の子に対して、僕は妙な既知感、既視感を胸中に抱いていた。だがそれはありえない。ありえないのだ。


 だって、僕は間違いなくこんな女の子は。……だと、いうのに。


 ──どうしたって、こんなにも胸が騒つくんだ……ッ!?


 そんな僕に、灰色の女性が静かに言葉をかけてくる。


「知らない訳がない。見たことない訳がない。ねえ、そうでしょ?」


 女性にそう言われて、僕はその倒れている女の子をさらに眺める。言われるがままに眺め────目を、見開いた。


「……そう、だ。そうだった……」


 それは素朴な疑問だった。どうしてこの女の子はこんな場所で、それも僕の足元で倒れているのか。その疑問に対する答えは、その少女自体に用意されていた。


 赤かった。赤よりも赤い、真っ赤な。その少女の胸が────血に染まっていた。


 服も胸元も、その染め尽くし具合からして。恐らくかなり長い間、大量の血を少女は流したのだろう。少女の鮮烈極まる赤色の惨状を目の当たりにした僕は衝撃を受けながら────




『どうして、俺を殺したんだ?……




 その一言と共に、脳髄の奥底から溢れ出す記憶。その全てが、血色に染まっていた。


「僕はなんて、ことを……今まで…………ッ」


 今ならば、わかる。理解できる。



 その言葉の意味が。そうだ。そうだった。その通りだった。それはややこしい比喩でも何でもなく、僕は本当に────────。灰色の女性の言う通り、これまでに。数回、数十回────繰り返し繰り返し、何度も何度も。この


 ──繰り返し、何度も僕は……!


 堪らず、その場で膝を折り、僕は崩れ落ちるように座り込む。そして周囲を見やり、今までに犯した己の過ちをまざまざと、これでもかと見せつけられた。


 もはやここはあの森の中ではない。影より暗く、闇より昏い黒に全てが塗り潰された悪夢の世界。そしてその世界で僕は────────赤髪の少女たちに


 数人、数十人、数百人。全員が全員、僕のすぐ傍で倒れている少女と全く同じように、その胸を血で染めて倒れている。全員が全員、


「その様子だと、またいつも通り思い出してくれたようだねえ」


 と、灰色の女性はいつも通りの言葉を、いつも通りに僕にかけてくる。そしてそれを、僕はいつも通り最低最悪の気分で受け入れる。


「じゃあわかってるよね?もうそろそろ……だってこぉと」


 ────それもまた、いつも通りの言葉。毎度、毎回。何ら変わりないいつも通りの言葉。だがしかし、その言葉に対してだけは。


 僕は形容のし難い、凄まじく悍ましいまでの恐怖を覚えると同時に、まるで濃く深い夜闇に怯える子供のように肩を跳ねさせて。それから、掠れた声を喉奥からどうにか絞り出した。


「……止めて、ください」


 僕としては精一杯の行動だった。掠れて、引き攣ったその声でそう言うのが精一杯で、もうとにかく限界だったのだ。


 増していく。この恐怖だけは、覚える度に、感じる度に、味わう度に。限度も際限もなく。そして一切の遠慮も容赦も、加減もなく。増して、増えて。増して増えて増して増えて────増していく。増えていく。


 どうしてだろう。何故なのだろう。毎度、毎回。積んでは増して、増えては重ねて。


 ……本当のところはわかっていた。こうして考えて、思考を巡らす風を装いながらも、わかっていた。きっとそれが、それこそが灰色の女性の


 その証拠に、灰色の女性は決まってこう言う。


「ん?何?何か言った?」


 そう、わざとらしくとぼけた様子で言うのだ。そしてそれが、決まって僕を


 ──ああ、駄目だ。やっぱり駄目だった。これじゃ、駄目だったんだ。


 そして僕もまた、半ば自暴自棄になってこう言うのだ。


「止めてくださいッ!こんな、もうこんなこと止めてください!止めてくださいよォッ!!」


 この女に言葉など通じる訳がない。そのことを思い出した僕は、自分のありのままをぶち撒ける。


「もう嫌なんですよ!堪えられないんですよッ!僕が一体何をしたんです!?どうしてこんな目に遭わされなければならないんですか!?どうしてです!?どうして、どうして、どうしてどうしてどうしてッ!?」


 側からすれば、今の僕はこの上なく無様で、惨めで。どうしようもない程に情けなく、救いようもない程にみっともない男に見えていることだろう。だがそれでも構わない。僕は一向に構いやしない。


 この後に待ち受ける、のことを考えてしまえば。そんなの、あまりにも些細なものだ。


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……お願いします。どうかお願いします。だから、どうか……どうかぁ……っ!」


 今思えば、この時僕は泣いていたのかもしれない。泣きながら、縋って、祈っていたのかもしれない。そうすることが正解であると、僕はわかっていた。


 この灰色の女性に通じるのはだ。言葉の体を借りた、信仰だけだ。それしかない。そのことを、ここでの記憶を全て思い出した僕にはわかっていた。


 ……だからこそ、これもわかっていた。


「…………」


 静寂が流れる。重苦しい沈黙の後、僕の頭上から降りかかったのは────────






「うーん、だ・ぁ・めっ♡」






 ────────予想と全く同じの、拒否の言葉だった。


「キミも懲りないよねえ全く。どうせこうなるってわかってるのに」


 言うが早いか、女はパチンと指を鳴らし。瞬間、僕の周囲に倒れている少女たちの身体が。着ている衣服もまとめて真っ赤に染まったかと思えば、


 さながら、それは血のようで。それが元は少女であったとは、誰もが到底信じられなかったことだろう。だが、僕は知っている。


 血と見紛う赤い液体が。まるで津波の如くこちらに差し迫るその液体が。元々は燃ゆる紅蓮の髪と煌めく紅玉の瞳の持ち主であった、少女であったと。


 そうして毎度、毎回のこと。呆然自失となっている僕の眼前にまで赤く真っ赤な液体が、少女であったはずのその液体が迫り────あっという間に僕を飲み込んだ。


 鼻腔と口腔。余すことなく、鉄錆の味が広がって、埋め尽くされて──────────











「…………あ」


 気がつけば、僕は立っていた。そして瞬時に悟り、理解していた。とうとう遂に、になったのだと。


「あ、じゃあないよ。あ、じゃ。もう呆けてる場合じゃあないんだぜ、キミ?」


 立ち尽くす僕のすぐ傍で、この上なく馴れ馴れしい声が。この上なく馴れ馴れしい態度を以て、僕に話しかけてくる。普通ならば反射的に声がする方へ顔が向いていたところだったが、僕は知っている。もう、自分の身体に自由など与えられていないことを。


 そんな僕の様子に一切構わずに、声は続ける。


「さあ、夢はいつか覚めるもの。夢からは絶対に目覚めるもの。だから毎度、毎回のように。いつも通りに」


 その時だった。自分が立っていた時とまた同じように、気がつけば。僕の目の前に────────赤髪の少女が一人立っていた。


「いつも通り、いつも通りにね」


 いつの間にか目の前に立っていたその少女は、全裸だった。衣服も、下着すらもない。一糸纏わぬ、純然たる全裸であった。


「突き立てちゃってよ……その手に握った、ナ・イ・フ」


 言われるがままに、僕の身体は動く。動いて、その少女のすぐ目の前にまで歩み寄って。


 そしてまたいつの間にか握り締めていたナイフを、僕は。気がつけば、頭上高く振り上げていた





















 殺せ、と。声が響く。殺せ、と。声が響く。殺せ、と。声が響く。


 響く、響く、響く。響響きょうきょうと、響響と。


 其命そのいのちを断てと。其命を絶てと。ただひたすらと。ただ延々と。ただ、永遠と。


 頭に浮かぶは殺意の言葉。頭に浮かぶは血染めの言の葉。


 嗚呼、それのなんと赤い、赤い赤いことか。なんと、真っ赤なことか。


 殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。


 相も変わらず、声が響く。響いて響いて、そして響いていく。しんと。深々と。


 心に浮かぶは殺意の言葉。心に浮かぶは血染めの言の葉。


 殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。


 性懲りもなく、声は響く。響いて響いて、そして響いていく。静と。深々と。


 故に己は────────この殺意に飢える。

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