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灰色の少女

 あの無数の影の手に引かれ、連れられた闇の最中は。当然といえばそうなのだろうけど、暗澹としていて。さながら、底の見えぬ深淵に突き落とされたようだった。


 沈む。まるで落ちるように沈む。底が見えない深淵の終着点を目指して、ただ沈んでいく。


 ──…………力、入んねえ。


 気がつけば、身体中から湧き上がり溢れ出し、充ちて満ちて仕方がなかったあの力は。その全てが今や、消え失せていて。空っぽで、ごっそりと抜け落ちてしまっていて。


 だから、手足を振るうどころか指一本でさえ、微かにも動かせない────けれど、どうでもいい。そんなこと、もはやどうだっていい。


 だって、指一本動かせようが。この手足を振るおうが。




『消えてしまえばいい』




 そうしたところで、結局は無意味なのだから。


 ──……何も見えねえ。何も聞こえねえ。


 飲み込まれるようにして沈み続ける最中、他人事が如く。声にすることなく、心の中で呆然とそう呟く。


 この暗澹たる昏き闇の中。自分以外の存在モノだって、僅かにも微かにも感じ取ることができない。


 それ故に何かが見えることも、何かが聞こえることもない。あり得ない、仕方がない、と。己をそう納得させる為に、納得させたいが為に。


 呟いて。呟いて────────即座に


 わかっていた。それは言い訳に過ぎないと。所詮は一つの、単なるつまらない言い訳でしかないということは。嫌になる程うんざりと、わかり切っていた。


 いくら尤もらしい、それらしい理屈を。どれだけ並べ立てたところで。捲し立てたところで、ちっとも誤魔化せない。自らを最後まで、騙し通せない。


 何も見えないのは。何も聞こえないのは。結局のところは、そう────。ただそれだけの、単純明快シンプル理由こたえ


 なんと当たり前な理由だろう。なんと、至極つまらない理由なのだろう。どうやら自分は、そうまでしても背きたかったらしい。逸らしたかったらしい。


 自分の目の前から遠去けて、そして逃げ出したかったらしい。実に魔の抜けたことに、今。ようやっと、気がついた。気がつけて、しまった。


 一つ、小さく静かに。嘆息を吐いて、それからこれ以上にない程の諦観をこれでもかと詰め込んで。引き続き他人事のように、心の中でそう呟く。


 ──ああ、そりゃそうだ。そうだよな……だって、俺はもう。






 ──────────











 そうして沈んでいく。ただ独り、その赤髪の少女は。一糸纏わぬ裸体を包み隠さず晒しながら、闇の最中をずっと沈んでいく。


 終わりのない終わりを、孤独に目指す少女が想うことはただの一つ。そのただの一つを胸に抱き、そして乞い願う。


 どうか救われますようにと。せめて、その存在モノには救済が施されるように、と。さながら天に召します主へ祈りを捧げる、乙女が如く。


 そうすると同時に────少女は。強く望んだ。強く、強く、ただひたすらに、強く。


 少女は己が脳裏にて映し出す。映し出されるそれらは、過ち。罪。決して贖えぬ、大罪。


 故に少女は望んだ。この罪を背負う己への裁きを。そして罰を。何故ならば、自分は裁かれ罰せられなければならない存在モノなのだから。


 数秒か。数分か。それとも数時間だったのか。そんな、酷く朧げで曖昧な時間の流れを。その身と心で如実に、存分に味わう赤髪の少女は。やがて眠るかのように、その瞳を閉ざす。


 次第に朦朧とする意識の最中で、薄らと赤髪の少女は予感する。この終わりのない終わりの闇を。こうして沈み続けながら、自分は。


 ゆっくりと朽ちて、果てて、終わるのだろうと。終わりのない終わりにて、自分だけがその終わりを迎えるのだろうと。


 そう予感し、そして次にそれは確信へと至る。


 本来ならばそれは赤髪の少女が望むことではない。自分は裁かれて、罰せられなければならないのだ。……が、しかし。すぐさま少女は、ああと自ら納得する。


 要は、。この終わりのない終わりの中で、ただ独り、ただ孤独に。最後の最期まで、誰からも。


 認識をされることもなく。裁かれも罰せられることもなく。朽ち果てて、消え失せる。


 それは少女が望んだ形ではなかったけれど、それが相応なのだろう。きっとそれが相応しいのだろう。


 だから、赤髪の少女は何もしなかった。抗うことも、拒むこともせず。その結末を、静かに受け入れた。











「なれないよ」


 不意に、その声は少女の耳朶を打ち、鼓膜を震わす。


 瞬間、思わずというように。赤髪の少女────ラグナは閉ざしたばかりの瞳を再度開かせる。






 が、すぐ目の前にあった。






 自分と瓜二つの、全く同じ顔。否、同じなのは顔だけではない。


 一体どんな理由があってかは知らないが、その少女もこちらと同様に裸の格好で。故にわかる、その少女の身体には酷く、と。


 互いの顔が瓜二つなら、また互いの身体も瓜二つ。まるで鏡に映る自分が、そこから飛び出してきたようで。


 けれど、それでも違うと。自分と少女は同一の存在ではない、確かな別人であることを断言できる。何故ならば、その少女の髪と瞳は。ラグナのような紅蓮に煌めく赤色ではない、透き通るような灰色をしていたのだから。


 とはいえ、目で見てわかる違いは本当にそのくらいもので。その他の違いはないと言っても過言ではなくて。自分と同じ顔、同じ身体を持つ少女に対し、ラグナは薄気味悪い恐怖が入り混じった驚愕を抱いてしまう。


 堪らず固まり呻き声一つすら漏らせないでいるラグナに、ラグナの分身が如き灰色の少女が告げる。


「キミはまだ楽にはなれない。……ううん、違う」


 そう告げるや否や、灰色の少女は。未だこの状況に理解が追いつかず面食らっているままのラグナに、何を思ったか自分の顔を迫らせる。


 そうして瞬く間に二人の顔の距離は縮む。互いの鼻先が触れそうになるまで、互いの吐息を肌で感じ取れるまでに詰まって────だが、それでも灰色の少女は止まらなかった。最後まで止まることなく、そして。






 チュ──僅かな躊躇も微かな遠慮もすることなく。自らの唇を、ラグナの唇にそっと重ねた。




 ──………………ッ?!?!!!?


 果たして、これ程までに動揺し、混乱したことがあっただろうか。いや、ないだろう。


 今この瞬間の、この動揺と混乱は間違いなく。これまでの人生の中でも極度にして最大限のものだろうと、ラグナは心の底から思う。


 予想外も予想外、想定のしようがないこの事態を前に。ラグナは咄嗟に灰色の少女を突き飛ばそうとした。が、しかし。


 やはり腕に力が全く入らず、指一本ですら動かせそうにない。故に無論、腕を振り上げることなどできるはずもなかった。


 その間も依然として灰色の少女はラグナと唇を重ね合わせたまま────


 ぬるり、と。不意に、ラグナの唇を何かが這った。


「んうぅっ」


 唇を這われた感触と、唇が濡れて湿る感覚に。堪らず目を白黒させると同時に、反射的に悲鳴を上げてしまうラグナであったが。


 しかし、灰色の少女が唇を塞いでいる為に叫ぶことはできず。それはくぐもった呻き声にしかならない。


 そしてまた、ラグナの唇を何かが這う────否、這うのではなく、


 その何かは柔らかで、生温かく、湿り気を帯びているのだが。瞬間、ラグナは弾かれたように気づいた。


 これは────舌だ。その何かの正体とは、この灰色の少女の舌だったのだ。


 灰色の少女の舌がラグナの唇を舐る。ねっとりと、そしてじっくりと。まるで口の中で転がす飴玉をゆっくり丁寧に溶かして、満足するまで存分に味わうかのように。


 灰色の少女の舌がラグナの唇を擽る。僅かにざらついているその舌が、ラグナの唇を磨くように擦り上げ。そのなんとも言えない、こそばゆい擽ったさに。ラグナは思わず身震いしそうになるが、そうするだけの力すら身体に入らない。


 突然の、全く予想だにしなかった灰色の少女からの、想定外の口づけキス。それはラグナの平常心を大いに揺さぶり、ラグナの余裕を容易く奪い取った。


 その結果余裕を失ったラグナは焦りに焦り、切迫してしまい。故にだからこそ、ラグナ自身気がつくことができなかった。


 灰色の少女に唇を塞がれてから一分弱。切羽詰まったようにラグナが心の中でそう呟く。


 ──息、できな、苦、し……っ。


 唇を塞がれてから今に至るまで、ラグナは呼吸できずにいたのである。


 ……何も、空気を取り込み肺へ送り込む為の手段として、口で息をするだけということはない。口で吸えなくとも、鼻で吸えるのだから。


 そしてそんなことはラグナとてわかっている。……わかっているが、他でもないこの状況────自分の顔だけでなく身体つきですら瓜二つな見ず知らずの少女に、いきなり口づけをされているこの状況の所為で。ラグナは今、そんなことにすら気がつけない程の動揺と混乱に襲われ、甚大な焦燥に駆られているのだから。故にそれもまあ、致し方ないだろう。


 それはさておき。一秒一秒が過ぎる毎に、ラグナの意識は徐々に薄れ始め、やがてその脳内も白み出し。窒息の危機に瀕したラグナの生存本能が警鐘を鳴らし始めた、その瞬間のこと。


 ──し、ぬっ……ぅ!


 遂に限界寸前に至ったラグナは、今の今まで頑なに閉ざしていた口を。今もなお、こうしている間にも灰色の少女に執拗に、しつこくねちっこく舐められている唇を。


 とうとう、開かせた。


 そしてそれが────


「っん、むぅうっ」


 切望し、求め焦がれていた空気────と、共に。ラグナの口腔へ透かさず、尋常ではない素早さで以ていよいよ入り込む、灰色の少女の舌。


 先程までの、こちらを労り慈しむような。酷く繊細な割れ物を扱うかのような、そんな遠慮じみた慎重さすら感じられる優しさなどはまるで皆無な。


 形容するならば、それは食事。それも飢えに飢えて、究極的な空腹に苛まれ続ける極限状態に陥っても、なお。


 それでも抑えに抑え、堪えに堪え、我慢に我慢を重ね合わせて。


 すぐ目の前に置かれたこの至上至極の料理を。これ以上になく美味に。これ以外にない方法で。思う存分、食べ尽くす為に。


 今か、今か、と。その瞬間タイミングを、狂おしいまでに待ち焦がれながらに待ち望み。


 そうして、遂に、とうとう────それが訪れたのだろう。その末が、こういうことだったのだろう。


 為す術もなく、なすがままに。されるがまま、ラグナは灰色の少女によって。好きに勝手にやりたい放題にされてしまう。


「んぐぅっ、ぅぅ」


 ラグナの口腔へ滑り込んだ灰色の少女の舌が暴れ回る。舐って、擽って。ラグナの為の考慮など全くせず、お構いなしに自分の威勢ペースで。


 ぐちゅぬちゅと粘度のある濃い水音を景気良く互いの間で響かせながら。灰色の少女は遊んで、ラグナのことを弄ぶ。


 やがてラグナの口腔を嬲り回しながら堪能していた灰色の少女の舌が、もう充分だとでも言うように。突然、止まって大人しくなった────と思えたのも束の間のこと。


 灰色の少女の舌が伸びる。伸びて、伸びて、次に目指す。せめて巻き込まれまいと、口腔の奥へできるだけ引っ込められていたラグナの舌に向かって、灰色の少女の舌はゆっくりと押し迫り。


 そして呆気なく、容易くラグナの舌を捕えた。


「ん、んんぅ……!」


 まず、灰色の少女の舌先はラグナの舌を軽く突く。トントン、と数回ほど。


 慣れないその感覚と刺激に、ラグナは不覚にも反応を見せてしまう。肩を小さく跳ねさせ、くぐもった呻き声を漏らしてしまう。


 しかし、そんなラグナの反応を気にする様子も見せることなく、構おうともせず。けれど夢中になっているという訳でもなく。ただ淡々と、事務的に。作業するかのように。


 まるで抉って削るみたいに。灰色の少女は舌先を尖らせ、今度はラグナの舌の上をなぞらせ、幾度かの往復を繰り返す。


 そんな風に自らの舌を弄られるのは、これが初めてなラグナにとっては。とてもではないがじっとして堪えられるなどではなく。舌から伝わるその度し難い感覚を受け、身体が小刻みに震えてしまうのを我慢できないでいる。


 それでもどうにかして逃れようとするラグナであるが。そも、ラグナの口腔はお世辞にもそう広くはなく。逃げ場らしい逃げ場などないようなもの。それに加えて捕えた獲物をみすみす逃す程、灰色の少女は手緩く優しい訳でもない。


 ラグナのことなど全くもって考えず構わずに、灰色の少女は自らの舌を用いて。依然として度を越したその悪戯を強行し横行させる。


 しつこく、執拗に。ねちっこく、念入りに。その尖らせた舌先で、ラグナの舌を嬲り甚振り続けた。


「んんぅっ」


 先程よりも大きく、そして生々しく卑猥な水音と共に。苦しげな呻き声を漏らすラグナ。しかし側から聞いたそれは何処か悩ましい、艶がかった嬌声のようにも思えて。そしてそれが灰色の少女の嗜虐心を余計に煽り、増長させる。無論ラグナはそんなこと、露知らずである。


 そうして数分。その間、休む暇など一切与えられずに舌を玩具に弄ばれ続けていたラグナであったが。再び、その危機が訪れる。


 ──息、また……っ!


 気がつけば、先程肺に取り込んだ空気はほぼ空となっていて。となると必然、また窒息の可能性が浮上────


 ラグナの意識が薄れ始め、頭の中が白く染まり出した、その瞬間。密着していた灰色の少女の唇が、ラグナの唇から離れた。


「っはぁ……!」


 しかし、離れたと言ってもほんの僅かばかりで。互いの唇に生じたその隙間は狭い。が、それでもその一瞬、ラグナが息を吸うのには充分に事足りた。


 そして次の瞬間、透かさず灰色の少女は再度ラグナの唇に食らいつくようにして、己の唇を重ね塞いだ。


「んぐっ!?」


 間髪入れずに再開される蹂躙。呼吸し、とりあえずは窒息の危機から免れ安堵したラグナを、灰色の少女は遠慮容赦なく弄り苛む。


 ──こい、つ……!


 さしものラグナもそうされては、もう気づく他ない。。今さっき、ラグナの唇から離れた灰色の少女の行動は、敢えてのことだったのである。


 その理由は明白。ラグナを窒息させない為に。ラグナが窒息し、意識を失うか最悪死んでしまうことを防ぐ為に。


 だが、そう気づいたところでラグナにできることなど何もなく。結局、依然として灰色の少女の手の上で転がされるように翻弄されるしかない。


 その事実と現実を眼前に堪らず憤りを覚える────間もなく。瞬間、ラグナは目を見開かせた。


「んぁぐっ」


 唐突に、ここにきて灰色の少女は責め方の趣向を変えた。今度は舌先を滑らせ、往復させるのではなく。ラグナの舌の根元に潜り込ませて。そして、巻きつくように絡みついた。


 絡みついた途端、灰色の少女の勢いが苛烈に増す。ラグナの舌を引っ張り、舌全体を上下に、器用に扱き。互いの舌が擦れ合うその度に、粘度のある淫らな水音がわざとらしい程盛大に溢れ漏れ出す。


 喰い散らかしながらに貪り尽くす、ただ激しくひたすらに荒々しい愛撫。だがもはやそれは、一歩間違えればただの暴力と相違ない。


「ふぇぁ、ひゃめっ……んぅぁん、ん……っ!!」


 そんな仕打ちを今の今まで受け続け、それでも耐えていたラグナであったが。とうとう、ここで遂に弱音を吐いてしまう。瞳に薄らと涙を浮かばせ、静止の呼びかけを試みものの。やはりというべきか、それは何の意味も成さない呻き声にしかなりえない。


 とはいえ、仮にそれが確かな意味を成し届いたところで。灰色の少女が素直に止まることはなかっただろうが。


 唾液が掻き混ぜられる水音と、それに混じって艶かしいラグナの喘ぎが響き続けること、数分────終わりは突然に訪れた。


 ここまでやってようやく満足したのか、それともここまでしなければ気が済まなかったのか。そのどちらにせよ、休憩らしい休憩を一切挟むことなく打っ通しに。ラグナを責めに責め立て責め続けていた灰色の少女は、ラグナの唇からようやく、ようやっと離れた。


 二人の間、唇と唇の間で銀糸が輝きながら伸びる。その光景は淫靡で卑猥で。しかし、それでいて美しく綺麗なものであった。


「ぷはっ!はっ、げほっ、ごほっ……すぅぅ、はあああ……ッ!」


 遂に与えられた、まともに呼吸する機会。激しく咳き込みながらも、本能のまま、身体が求めるままにラグナは息を吸い込む。


 そんなラグナの姿を見つめながらに。灰色の少女は何処か愉しそうな、嬉しそうな声音で言う。


「させない。楽になんて、ボクがさせないよ」


「はぁっ、はっ……こんの、ふっざけんなッ!!お前何なんだよ!?こんなこと、しやがって……ああッ!?」


 灰色の少女の言葉に対して、ラグナは逆上で返す。口端を伝う唾液を乱雑に手の甲で拭い、依然としてこちらを見つめる灰色の少女を。ラグナは敵意を剥き出しにして敵視する。


 が、それで灰色の少女が動じることなどなく。他人を何処か小馬鹿にするようなその態度もまるで変わらない。


 それでも負けじと睨め続けるラグナに対して、灰色の少女は────口角を歪に吊り上げさせた。


 ──んな……。


 瞬間、ラグナは絶句せざるを得なかった。烈火の如く逆巻いた憤怒の激情が。有無を言わせず、いとも容易く。それこそ吹いて掻き消すように削がれてしまった。


 それ程までに禍々しく、凶悪で悪辣で。真正の邪悪を孕んだ、人外の笑みだった。


 嫌悪、忌避────そして恐怖。灰色の少女の笑みはラグナの怒りを押し退け、まるでその代わりと言わんばかりにそんな感情をラグナに抱かせる。


 呆然とするように硬直し固まるラグナに、灰色の少女は笑んだままに言葉を続ける。


「何?ボクが何だって?ふふ、ボクが何なのかって……ねえ。キミがそれを訊くの?他の誰でもないキミが、よりにもよってこのボクに?へえ……ふぅーん。そっか。そっかそぉっか……あは、あはは!あっはははは!」


 灰色の少女は笑う────否、嗤う。躊躇なく、遠慮なく、容赦なく。ラグナを、灰色の少女は嘲るように嗤う。


「ははっ、あははっ、あははは……はぁーあ」


 一頻り、灰色の少女は嗤い続けて。不意に草臥れたように肩を落としため息を吐くと。それから改めてラグナの顔を見つめ直す。


 その時灰色の少女は既にもう笑みを浮かべておらず。そして、まるで試すかのように。


「じゃあ逆に訊くけど。?」


 そう、ラグナに問うた。

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