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第15話 二つの意志を引き継ぐ覚悟

 泰造の死はサヤカたちに衝撃を与え、誰もがその喪失に心を痛めていた。信春に続き、泰造も自らの信念を貫き、命を散らして逝ってしまったのだ。


「まさか信春さんに続いて、泰造も亡くなるなんて……こんな展開、もう嫌だ……」


 ヒカリは両手で口を押さえ、溢れる涙を抑えきれなかった。ヒーローと讃えられた二人が次々と倒れる姿は、彼女の心を切り裂くほどだった。

 その姿を見た碧と舞香は、すぐにヒカリのそばに駆け寄った。彼女をこのまま放っておくわけにはいかない。二人とも、ヒカリを支えるために何ができるかを必死に考えていた。


「二人は運が悪かったとしか言えないけど、私たちに対してメッセージを伝えてくれましたからね……」

「彼らの死を無駄にしない為にも、頑張りましょう! この逃走ロワイアルを終わらせるためにも!」


 碧の言葉は力強く、舞香の声には熱がこもっていた。ヒカリは涙を拭い、震える唇を噛み締めながらも笑顔で頷いた。一般人の二人にここまで励まされたのだ。立ち止まる理由などない。彼女の瞳に再び闘志が宿る。

 その様子を、サヤカは静かに見つめていた。碧と舞香の成長に、彼女は心から感嘆していた。ゲーム開始当初は悲しみに暮れていた二人だが、今では冷静に、力強く立ち向かっている。過酷な環境が人を変えるとはいえ、ここまで頼もしくなるとは。サヤカの口元に、納得の笑みが浮かぶ。


(碧と舞香、すでに覚悟を決めてやがる。私もただ戦うだけじゃなく、バルタールの野望をぶっ潰す覚悟を見せないとな。あいつの好き勝手は絶対に許さねえ!)


 サヤカは心の中で二人を称えつつ、バルタールへの怒りを滾らせていた。このまま彼を野放しにすれば、さらなる犠牲者が出るのは目に見えている。それを阻止するには、自分たちが動くしかない。


「ともかくマーダークラウンを倒す為、先に進むぞ! これ以上見ていられないからな!」

「ええ。マーダークラウンはこの辺りに一体いるみたいだけど、何処にいるのかしら……」


 サヤカの宣言に、ヒカリたちは力強く頷く。しかし、マーダークラウンの正確な位置は依然として不明だ。隠れて奇襲を仕掛けてくる可能性もある。油断は絶対に許されない。

 その時、突然、遠くから重々しい機械の足音が響き渡った。金属が地面を叩く不気味なリズム。音は急速に近づいてくる。サヤカたちの背筋に緊張が走る。


「ついに来たみたいね」

「ああ。マーダークラウンが……やってきたみたいだな」


 サヤカたちが鋭い視線を前方に固定した瞬間、暗闇の中からマーダークラウンが姿を現した。そいつは信春を葬った張本人。大鎌を振りかざし、冷酷な殺意を放ちながら戦闘態勢に入っている。その姿はまるで死神そのものだった。


「大鎌使いか……誰が相手でも構わないし、やるからには分かっているな?」

「ええ。私は大丈夫だけど、碧は爆弾、舞香はどう戦えるかね。今の状態ではサポートぐらいしかできないし……」


 サヤカの問いに、ヒカリは冷静に状況を分析する。碧と舞香はサポート役としては優秀だが、実戦では返り討ちにされる危険が高い。となれば、サヤカとヒカリが主戦力となるしかない。

 だが、その予想を覆すように、碧と舞香が前に進み出た。


「大丈夫です。私は皆さんと合流する前、爆弾だけでなく、マシンガンなどの銃器が使えます!」

「私は死神の大鎌です! こう見えても力がありますので!」


 碧は手に握ったマシンガンを構え、舞香は死神の大鎌を召喚し、力強く振り上げる。二人の武器は一撃で人間を屠るほどの破壊力を持つ。一般人とは思えないその覚悟に、サヤカの目が見開く。


「凄い武器だな。どうやって手に入れたんだ?」

「ゲームが始まる前、いつの間にか武器が装着されていたわ。誰の仕業なのか気になるけど……」

「何れにしても強力な武器である事は確かだよ」


 碧と舞香は笑顔で答えるが、その目はすでに戦場を見据えている。武器の出所は不明だが、今はそれが頼りになることは間違いない。

 その瞬間、マーダークラウンが鉤爪をギラリと光らせ、雷のような速さでサヤカたちに襲い掛かってきた。空気を切り裂く金属音。殺意の塊が迫る。  


「来たか! 散開しろ!」  


 サヤカの叫びとともに、チームは一斉に動き出す。ヒカリは素早く横に飛び、碧と舞香は互いに視線を交わし、完璧な連携で戦闘態勢に入る。  


「ここは私に任せて! デストロイキャノン!」  


 碧がマシンガンを構え、引き金を引く。轟音とともに無数の弾丸がマーダークラウンに浴せられた。火花が飛び散り、機械の装甲に無数の穴が穿たれる。煙が上がり、内部回路が悲鳴を上げる。マーダークラウンの動きが一瞬鈍った。  


「まだだ! 油断するな!」  


 サヤカが叫ぶが、マーダークラウンは異常な耐久力でなおも動き続ける。だが、その隙を舞香が見逃さなかった。  


「とどめは私に任せてください! デスサイズスラッシュ!」  


 舞香が死神の大鎌を振り上げる。彼女の全身から迸る闘志が、大鎌に宿る。次の瞬間、鋭い斬撃がマーダークラウンの胴体を真っ二つに切り裂いた。爆音とともに機械の巨体が崩れ落ち、爆発の炎が周囲を照らす。残ったのは、地面に転がる一本のネジだけだった。  


「見事マーダークラウンを撃破! 碧と舞香の連携攻撃が炸裂し、何もさせずに破壊成功! これで残るはあと一体となったぞ!」  


 ユキコの実況が戦場に響き、観客席から雷のような歓声が沸き上がる。視聴者コメント欄は「ニューヒーロー爆誕!」「碧と舞香、最強すぎる!」と熱狂的な称賛で埋め尽くされていた。  


「やるじゃない! 初めてなのに余裕で倒すなんて!」  


 ヒカリは碧と舞香の鮮やかな戦いぶりに、満面の笑みを浮かべる。初めて武器を手に戦ったとは思えない完璧な勝利。普通なら初戦は辛勝が関の山だが、彼女たちの圧倒的な力はサヤカのような熟練者すら驚かせるものだった。  


「ええ。まさか余裕で勝てるなんて想定外でしたが、まだ油断はできません。もう一体が別エリアにいます」  


 碧は苦笑しながらも、すぐに鋭い視線を廃虚エリアへ向ける。そこにはマーダークラウンとハンティングマンが潜んでいる。二つの脅威を倒せば、逃走ロワイアルは終わる。だが、運営が黙って見ているはずがない。全面戦争は避けられないだろう。  


「そうだな……けど、エリカもいるとなれば話は別だ。奴は小学生を巻き込んでマーダークラウンを倒したからな……」  


 サヤカの言葉に、ヒカリたちの表情が硬くなる。

 エリカ――上流階級の少女でありながら、このゲームを異常なまでに楽しんでいる。小学生を巻き込んでマーダークラウンを倒した彼女の行動は、明らかに常軌を逸している。  


「確かにそうね。けど、私たちは彼女とは違う。二人の意志を継いで戦うと決意したんだから!」

「あんな奴とは大違いだという事を、この大会で証明しましょう!」

「ええ! 今は廃虚エリアに向かいましょう! これ以上犠牲者を出さない為にも!」


 ヒカリの決意に、碧と舞香も力強く頷く。四人は一丸となり、廃虚エリアへと足を踏み出した。風が唸り、荒廃した大地が彼女たちを待ち受ける。  


(あの三人がここまで頼もしくなるなんてな……これからも頼りにさせてもらうぜ)  


 サヤカは三人の背中を見つめ、心の中で呟く。彼女たちの絆と覚悟があれば、どんな困難も乗り越えられる。この四人なら、逃走ロワイアルを終わらせ、バルタールの野望を打ち砕ける――そう信じて、サヤカは力強く歩みを進めた。

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