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第16話 セカンドミッション終了

 瓦礫と錆びた鉄骨が広がる荒涼とした廃虚エリア。風が唸りを上げ、埃が舞う中、サヤカ、ヒカリ、碧、舞香の四人は、残る一体のマーダークラウンを倒すため、慎重に進んでいた。

 しかし、このエリアにはマーダークラウンだけでなく、執拗に獲物を追うハンティングマンも潜んでいる。一瞬の油断が命取りとなり、挟み撃ちにでもなれば、状況は一気に絶望へと突き進むだろう。


「廃虚エリアに着いたけど、マーダークラウンとハンティングマンはどこにいるんだ?」

「分からないわ。潜んでるかもしれないし、神出鬼没の可能性もある。どっちにしろ、油断は禁物よ」


 サヤカが鋭い視線で周囲を睨みながら呟き、ヒカリは眉を寄せながら真剣な口調で答えた。その言葉に、碧と舞香は思わず息を呑み、背中に冷や汗が伝う。

 マーダークラウンは、ダーククラウン同様、奇襲を得意とする危険な敵だ。暗闇から突然襲い掛かり、一瞬の反応の遅れが死を意味する。廃虚の静寂が、かえって不気味な緊張感を煽っていた。


「神出鬼没か……こうなると、サーチアイで探すしかないな」

「えっ? そんなスキル持ってたの?」


 サヤカが腕を組みながら決断を下すが、舞香が目を丸くしながら驚きの声を上げると、碧とヒカリもキョトンとした表情でサヤカを見つめる。

 サーチアイ――異世界の物語で耳にしたようなスキルだが、サヤカがそんな能力を持っているとは初耳だ。しかも、彼女がそれを本当に使いこなせるのか、誰もが内心で疑問を抱いていた。


「……ったく、私を甘く見るなよ。サーチアイは猫の獣人が使える特殊スキルだ。私だけじゃねえ……あの憎いアイツも使えたからな……」  


 サヤカは盛大なため息をつき、むっとした表情で続ける。その瞬間、サヤカの背中から黒いオーラが溢れ出し、まるで闇が実体化したかのように周囲を圧迫する。彼女の瞳には、誰かを思い出したような怒りと憎しみが宿っていた。  


「ひっ…!」


 ヒカリたちはその異様な気配に恐怖を感じ、思わず一歩後退する。今のサヤカに近づけば、冗談抜きで命を落としかねない。そんな本能的な危機感が、彼女たちを硬直させた。


「…ともかく、このスキルを使えばマーダークラウンを見つけられるってことね。さっさと始めましょう!」

「そうだな。早速確認するぜ!」


 ヒカリは苦笑いを浮かべ、場の空気を切り替える。それを聞いたサヤカも気を取り直し、鋭い眼光で頷いてサーチアイを発動する。

 するとサヤカの瞳が金色に輝き、まるで夜を切り裂く猫の目のように鋭く光る。彼女は廃虚の闇を透かし、敵の気配を探り始めた。瓦礫の影、崩れた壁の隙間――視線が素早く動き、わずかな異常も見逃さない。  

 その直後、サヤカの視線が右方向でピタリと止まる。  


「何か見えた?」

「西側にハンティングマンがいる。すぐ移動するぞ!」


 ヒカリが身を乗り出して緊張した声で尋ねると、サヤカは鋭く迷いがない答えを出していた。


 四人は即座に動き出し、瓦礫を飛び越え、風を切って西側から離れる。ハンティングマンに見つかれば、執拗な追跡は避けられない。だが、反撃して破壊すれば、逃走ロワイアルは即座に強制終了――それは彼女たちの目的に反する。  


「ハンティングマンに見つかったら、洒落にならなかったわね…。」

「はぁ、ホントな。本当はハンティングマンぶっ壊した方が楽だと思うぜ。逃げ回るの面倒だし、スカッとするしさ!」


 碧が息を整えながら呟くが、サヤカがニヤリと笑い、拳を握る。その方が効率的であり、全て倒せば結果オーライと考えているのだ。


「「「それはやっちゃ駄目!」」」


 ヒカリ、碧、舞香の三人が一斉に叫び、サヤカにツッコミを入れる。彼女の破天荒な提案を放置すれば、間違いなく全面戦争に突入するだろう。  

 その時――遠くから、金属が擦れる不気味な足音が響き始めた。速い。あまりにも速い。そして、その音は確実に彼女たちに近づいている。  


「…ついに来たか。」


 サヤカがニヤリと笑い、闘志を燃やす。 その刹那――

廃虚の闇を切り裂き、マーダークラウンが姿を現した。

 両腕に装着された巨大な鉤爪が、月光を浴びて禍々しく輝く。その猟奇的な赤い眼光は、獲物を屠る意志に満ちている。だが、よく見ると、その装甲には無数の傷跡が刻まれ、ところどころから火花が散っていた。  


「泰造さんとの戦いでダメージを受けてる……なら、私たちの連携で――」

「勝てる可能性があるってことね!」


 舞香と碧が鋭い視線を交わし、頷き合う。ヒカリとサヤカもそれに続き、四人の間に静かな闘志が漲る。倒すなら今しかない。  


「行くぞ! 戦闘開始だ!」

「「「おう!」」」


 サヤカの号令が廃虚に響き渡り、三人が一斉に応じる。そのまま四人は風のように駆け出した。  

 対するマーダークラウンも、鉤爪を振り上げ、けたたましい金属音を響かせながら突進してくる。廃虚の地面が震え、瓦礫が跳ね上がるほどの勢いだ。  


「くらえ! ガトリングショット!」


 碧が重厚なガトリング砲を構え、トリガーを引き絞る。無数の弾丸がマーダークラウンを襲い、その装甲を蜂の巣に変える。金属片が飛び散り、煙が吹き出し、敵の動きが一瞬鈍る。  


「連続射撃、炸裂! ここからサヤカが突っ込む!」


 遠くで実況するユキコの声が、戦場に響き渡る。

 するとサヤカは風を切り、猛スピードでマーダークラウンに肉迫。敵の懐に滑り込むと、拳に全力を込める。 


「キャットアッパー!」


 跳躍と同時に放たれたアッパーカットが、マーダークラウンの顎を直撃。金属が軋む音とともに、巨大な機体が宙に浮かび上がる。  


「今だ!」


 ヒカリが叫び、流れるような動きで跳躍。空中で身体を回転させ、鋭い蹴りを繰り出す。  


「空中回転蹴り!」


 ヒカリの蹴りがマーダークラウンの側頭部を捉え、機体は地面に叩きつけられる。 衝撃で瓦礫が飛び散り、機体からは火花と煙が噴き出す。すでに自爆寸前の状態だ。  

 そして、舞香が静かで確実に大鎌を構える。彼女の瞳には、一切の迷いがない。


「これで終わり。断罪の突き!」


 大鎌が振り下ろされ、その鋭い刃先がマーダークラウンの核を貫く。機体は動きを止め、内部から不気味な軋み音が響く。  


「離れろ!」


 サヤカの叫びとともに、四人は一斉に跳び退く。 その直後にマーダークラウンが爆散し、炎と煙が廃虚を包む。爆発の中心から、ただ一本のネジが転がり落ち、静寂が訪れた。  

 マーダークラウン、全滅。第二ミッションは、ここに完結した。


「第二ミッション終了! サヤカたちの圧倒的連携で、マーダークラウン全機撃破! 残る逃走者は11人だが、戦いはまだ続く!」


 ユキコの実況に、観客席から地響きのような歓声が沸き上がる。視聴者のコメント欄も「すげえ!」「この四人、最強すぎ!」と熱狂で埋め尽くされていた。  

 サヤカたちは戦闘態勢を解き、互いに視線を交わすと、円陣を組む。逃走ロワイアルはまだ終わらない。一瞬の気の緩みが、命取りになるのだ。  


「マーダークラウンを倒した。だが、アイツは次のミッションを仕掛けてくる。ハンティングマンを次々投入するつもりだろうが、絶対に奴の思い通りにはさせねえ。忘れるな!」

「「「おう!」」」


 サヤカの言葉は、鋭い刃のように仲間たちの心に突き刺さる。ヒカリ、碧、舞香が力強く応え、四人は再び動き出す。ハンティングマンに見つからぬよう、廃虚の闇を駆け抜けながら、彼女たちは心の中で誓っていた。この戦いを、必ず終わらせる事を。


 ※


 薄暗い部屋で、バルタールは額に冷や汗を浮かべ、唇を歪めていた。自身が開発したマーダークラウンが壊滅し、怒りが沸点に達しようとしている。  


「奴らを甘く見ていた……こうなれば、新たなハンティングマンを投入するしかない。目障りな連中を潰すためなら、すべてを賭けてもいい。すべてはグレゴリウス様のために……」


 バルタールは冷たく笑い、キーボードに指を走らせる。次のミッションの内容を打ち込みながら、彼は勝利を確信していた。だが、この決断が彼の最大の誤算を生むことを、この時の彼はまだ知らなかった――。

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