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最終話 それぞれの新たな道

 無人島にそびえる神殿は、逃走ロワイアルの犠牲者たちを慰めるための静かな聖域だった。かつて壮絶な戦いが繰り広げられたこの島は、今、穏やかな波音と風のささやきに包まれている。

 神殿は逃走ロワイアル本部ビルの隣に建立され、ユキコの提案によってこの悲劇を後世に刻む場所として生まれ変わった。人々はここを訪れ、静かに手を合わせ、犠牲者たちに黙祷を捧げる。二度とこのような悲劇が繰り返されず、逃走ロワイアルが再び蘇ることのないよう、誰もが心から願っていた。


 ※


 グレゴリウスの処刑から一夜明けた朝、サヤカ、ヒカリ、碧、舞香、千恵、エリカの六人は、無人島の神殿に集まり、厳粛な空気の中で黙祷を捧げていた。彼女たちは、元凶であるグレゴリウスがこの世を去ったことを報告するとともに、この悲劇を胸に刻むためにこの場所を訪れたのだ。神殿の周囲では、風がそよぐたびに木々の葉が揺れ、まるで亡魂たちが静かに見守っているかのようだった。


「元凶であるグレゴリウスは死んだ。今後は地獄で裁かれ、二度と生き返る事はないだろう。だから……ゆっくり休んでくれ……」


 サヤカが静かに祈りを捧げながら呟くと、その声は神殿の石壁に反響し、どこか遠くへ溶けていった。

 六人は黙祷を終え、ゆっくりと振り返る。神殿の重厚な扉を後にし、無人島の海岸に続く船着き場へと歩みを進めた。朝陽が海面にきらめき、彼女たちの背中を優しく照らしていた。


「あの戦いから一ヶ月か……時が経つのは早いな……」

「うん……この場所こそ、逃走ロワイアルの最後の戦いだからね……」


 サヤカの声には、過去の激闘と現在の静けさへの感慨が込められていた。それにヒカリが小さく頷き、遠く水平線を見つめながら応える。

 グレゴリウスによって悪用された逃走ロワイアル。このデスゲームは地球だけでなく、異世界ハルヴァスでも行われ、幾多の命を奪った。その記憶は人々の心に深く刻まれ、恐怖と喪失の傷跡として残っている。誰もがこの悪夢を二度と繰り返したくないと願い、未来への希望を胸に抱いていた。


「あのゲームの後、エリカは罪を償う為に自ら警察に出頭しようとしていたわね。その件はハルヴァスからの罪状が出た事で、丸く収まったけど……」

「ええ。グレゴリウスの逮捕の貢献で、罪は減らされましたからね。半月の間はハルヴァスでの奉仕活動をする事になり、数日前に活動を終えましたわ」


 碧が過去を振り返りながら、穏やかな口調で語る。それにエリカが静かに続けていて、にこやかな微笑みを見せていた。

 エリカは多くの人に危害を加えた罪を償うため、自ら警察に赴く決意をしていた。しかし、ハルヴァスの衛兵たちが罪状を提案し、全員の同意を得て解決に至った。判決は半月の奉仕活動のみ。グレゴリウスの逮捕に貢献したことで、本来なら課されるはずだった懲役刑が軽減されたのだ。あの時、彼女が仲間と共に立ち上がらなければ、未来は大きく変わっていただろう。


「あの時はエリカがいなかったら、今の私たちはいなかったからね。本当にありがとう」

「どういたしまして。それで、皆さんはあれからどうしてましたの?」


 舞香が心からの笑顔で言うと、エリカも柔らかな笑みを返す。すると彼女はある事が気になり、その視線が仲間たち一人一人を優しく捉える。逃走ロワイアルの終焉後、彼女たちがどんな道を歩んでいるのか、彼女は知りたかった。


「私はバイト生活をしていたけど、逃走ロワイアルの活躍が実を結び、タレントとして活動することになったの。ヒカリさんと同じ事務所だし、今を精一杯頑張らないと!」


 碧の声は弾むように明るい。保育士を辞めてからバイト生活となっていたが、彼女はタレントとして華々しく活躍中だ。最強保育士お姉さんとして、子供たちから人気を誇っているのだ。更にはヒカリと同じ事務所に所属し、二人で人気コンビを組む計画も進行中。彼女たちの未来は、まるで輝く星のように無限の可能性に満ちている。


「私も芸能界入りしたけど、高校生アイドルとして活動する事になったわ。撮影も歌も大変だけど、今が一番楽しいからね」


 舞香の言葉には、若さと情熱が溢れている。彼女の歌声が認められ、アイドルグループの一員としてセンターを目指して奮闘中だ。ステージの上で輝く彼女の姿は、まるで逃走ロワイアルの戦いを乗り越えた証のようだった。


「私は引きこもりから脱出した後、バイトしながら小説家の道を歩んでいるの。この大会に出た後に何をするか考えたけど、パソコン好きを活かそうと決意したからね」


 千恵の声は静かだが、確かな決意が宿っている。かつて引きこもっていた彼女は、逃走ロワイアルを通じて自分を変えた。今、WEB小説を書きながら、夢への一歩を踏み出している。彼女の物語は、まだ始まったばかりだ。


「私は引続きタレント活動と異世界冒険をしているけどね。エリカは今後どうするの?」


 ヒカリは変わらぬ二刀流の生活を楽しみながら、エリカに視線を向ける。彼女の瞳には、仲間への信頼と未来への好奇心が宿っていた。サヤカたちもまた、エリカの答えを待つように静かに見つめる。


「私は異世界冒険の日々を過ごしますわ。アルグスの意志を継いで冒険者として活動しますが、両親の会社も継ごうと考えていますの。異世界に会社を建てるのも、悪くないと思います」


 エリカの声は力強く、未来への決意に満ちていた。学業、冒険、経営――困難な道かもしれないが、彼女ならその全てを乗り越えられるだろう。仲間たちは彼女の言葉に、静かな信頼の笑みを浮かべた。


「隆は会社の不祥事を見つけて、それによって係長に昇進。隼人さんは引き続き傭兵として活躍。ミンリーもギャルモデルとして活躍する事になったからね」


 サヤカが、この場にいない仲間たちの近況を語る。彼らもまた、逃走ロワイアルでの戦いを糧に、それぞれの道で新たなスタートを切っていた。これからの物語はどうなるかだが、彼らなら問題なく突き進むだろう。


「じゃあ、サヤカは?」


 ヒカリの問いに、サヤカは一瞬、海の彼方を見つめる。その目は既に覚悟を決めていて、まっすぐに前を向いているのだ。


「私は異世界冒険を続けるが、プロレスラーになろうと決意しているからな」

「「「プロレスラー!?」」」  


 碧、舞香、千恵、エリカの四人が驚きの声を上げ、思わず地面に尻餅をつく。サヤカの突拍子もない宣言に、誰もが目を丸くした。だが、ヒカリだけは静かに微笑み、すでに知っていたかのように落ち着いている。


「アイリンがプロレスラーになると聞いて、私も始めようと決意した。それに奴との決着がついてない以上、同じ舞台で戦わないといけないからな」


 サヤカの瞳には、燃えるような闘志が宿っていた。ライバルであるアイリンとの戦いが着いてない以上、彼女と同じ舞台に立つ事を選択している。しつこいかも知れないが、何れにしても決着は着けておこうと覚悟を決めているのだ。


「私は事前に聞いたけどね。サヤカならやりそうだと思っているし」


 ヒカリが苦笑いしながら応える。彼女には、サヤカの決意がまるで当然のように映っていた。


「まあ、あなたがそう思うなら構わないけどね……」

「プロレスラーになるのなら、私も応援するから!」


 碧が少し呆れながらも、笑顔で言い返す。舞香は目を輝かせながら、力強く応援を宣言。


「私も初めてみるのもありかも知れませんわね……」

「いや、会社を継ぐんでしょ?」  


 エリカが興味津々に呟くと、千恵がすかさずツッコむ。

 そんな四人のやり取りに、笑い声が海岸に響く。彼女たちはサヤカの夢を心から応援し、その未来を信じていた。どんな道を選ぼうとも、彼女たちの絆は揺るがない。


「必ず実現してみせるさ。そろそろここから帰ろうぜ!」  


 サヤカが力強く宣言し、仲間たちと共に船着き場へと歩みを進める。サヤカたちの足元には、過去の傷跡と未来への希望が交錯する。どんな道を歩もうとも、彼女たちは互いを支え合い、輝く未来を切り開いていくのだ。

 水平線の彼方には、新たな物語が待っている。彼女たちの笑顔を、暖かな陽光が優しく照らしていた。


〜完〜

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