「では次に、あなたの新しいパーティーメンバーを二人、紹介します。もうそろそろ、戻ってくるころですので」
「あっ……はい……。えっと、戻ってくる……?」
「今の時間、生徒は各地で実習……実戦学習をしていますから」
なるほど。それで校内に人の気配がなかったのか。するとレンさんが、ずいと身を乗り出してきた。
「二人とも女の子ですよ。良かったですね!」
「それは、まぁ、もともとここ、女子校ですよね?」
「それはそうですが」
「それより、実戦ってもう、ですか……?」
僕含め、第二次魔王城の惨劇でパーティーメンバーが総入れ替えになった冒険者見習いは少なくない。まだチームワークも満足に取れていない状態で実戦なんて、危険すぎないだろうか。
「ご心配なく。当面の間は、第二次魔王城の結界から発生した新たな魔物、通称『
「あ、
「はい、あの弱すぎる魔物のことです」
何なら僕一人でも、たまに狩りに行く。それに素材を回収して売るだけでまあまあな額が手に入る。僕はまだ冒険者の資格を持っていないので闇市を通す分儲けは少ないが、それを差し引いても、冒険者見習いにとっては絶好の獲物だった。
「あの新種の研究材料なら、まぁ大丈夫ですね」
どちらかといえば倒すべき敵ではなく、新たな研究材料としての素材価値が高く、一部の魔法使いにも人気が出ている。それと、倒した時はゴーレム等のように目の光が消えるだけなので、他の魔物の時のような命を奪った感覚がなく、物を壊しただけという感覚になれるのも人気の理由の一つだった。まさに人類にとって、都合の良すぎる存在と言える。
「それから、生徒の皆さんにはこちらをお渡ししています。サイカさんも、どうぞ」
レンさんは服のポケットをごそごそと探ると、取り出した何かを僕に握らせた。その服、ポケットなんかに布を使ってる場合じゃないと思うんだけど。
「これは……?」
手を開いてみると、それは小さなバッジのようなものだった。
「それがこの学院の、生徒手帳になります」
レンさんは僕の手元を覗き込んでそう答えた。確かにその表面には、ファムファタール女学院の校章が刻印されている。そして裏返すと、僕の本名、住所、似顔絵などの情報が次々と浮かび上がってきた。
「え、怖……」
「そうですか? 生徒手帳にそんな反応をされたのは初めてです」
レンさんは少し笑いながらそう言った。いや、この学校は個人情報の取り扱いが緩すぎる気がするけど……。
「戦闘中、命の危険を感じた時にこれを地面に投げつければ、魔法陣が起動してこの校舎内に強制転移します。四人までなら、一緒に転移することも可能です」
「なるほど……」
つまりは緊急脱出用のマジックアイテムか。まぁでも、
「実際に見てもらうほうがわかりやすいと思います。もうそろそろ、あなたのパーティーメンバーがこれを使って、戻ってくるころですので」
「え…………、え?」
僕は話の流れが理解できずに、思わず聞き返した。これを使って、戻ってくる……?
「あ、いや、そうか。別に
「いえ、このバッジは本気で逃げる時にのみ使ってください。間違って魔物も一緒に転移してしまわないように制限をかけていますので、倒した魔物の素材を持ったまま転移することができません。せっかく手に入れた素材を置いて帰るのは、もったいないですから」
レンさんは真顔でそう答えた。確かに、彼女が言っていることは理に適っている。でも、それってつまり……。
「僕の新しいパーティーメンバーって、僕一人でも倒せるような史上最弱の魔物、
その瞬間、僕の背後で魔法陣が起動する気配がした。
「あなたなら、大丈夫ですよ」
レンさんは、僕の不安を和らげるように微笑んだ。しかしその笑顔には、どこか有無を言わさぬ迫力がある。僕はその圧から目をそらしながら、魔法陣のほうへと振り返った。
「セーフ……大丈夫? アヤ」
「うん。サンキュー、ルリ……」
廊下のど真ん中に力無く横たわっていたのは、二人の敗残兵だった。