泥舟が槍を袋から出した。
東海林が顔を緊張で引きつらせた。
俺は肩の力を抜いて電柱の方へ歩いた。
レイパー達は立ち上がり無言でこちらをにらんできた。
荒事が始まる前のヒリヒリする緊張感がお屋敷街の路地に立ち上がっていく。
「おいマザコン、お前の可愛いお姫さまをぐちゃぐちゃにしてやんよ、嬉しいか」
東海林がギッと体に力をいれるのが【気配察知】で解った。
さらに一歩踏み込む。
もうすぐお互いの武器の間合いが接触する。
東海林の魔法の間合いには入っている。
「あの家にも火を付ける、俺たちは金持ちが嫌いなんだ、全部殺す全部殺す」
「俺たちは悪魔に選ばれたDチューバーなんだ、何をしても良いんだ」
「誰も俺たちを止められねえんだっ」
レイパー達は剣を抜いた。
「だからおまえらはここで死んどけっ、タカシ~~!!」
よし、向こうから斬ってきた。
これで正当防衛は成立するだろう。
「いくぞっ!」
俺が背をまるめてそう言うと、東海林が詠唱を始めた。
「あっ、
「先にあいつをっ」
「俺がっ」
連携が甘いなあ。
地に這うように姿勢を低くした泥舟が地面すれすれに槍を走らせて盗賊の足下で穂先を跳ね上げた。
「ぎゃっ!! こ、こいつ低レベルなのにっ、どうしてっ」
盗賊はブーツを槍で切り裂かれてたたらを踏んだ。
リアルの武道はやっぱり強いな。
「ち”く”しょうっ!!」
リーダーとおぼしき戦士が俺に斬りかかってきた。
『
東海林の詠唱が終わり、手元から火球が矢の早さで盗賊目がけて飛んだ。
「や、やめっ」
ドカーン!
轟音と共に火炎弾は盗賊の胸元で爆発し奴を吹っ飛ばした。
近隣のお屋敷の窓に次々にあかりが灯った。
「ま、まずは魔法使いっ、次弾を撃たれる前にっ!」
リーダーが焦って指示をだすが泥舟が前をふさいで通さない。
「こ、こいつ、レベルが低いのに、な、なんでこんなに強ええ?」
泥舟は答えずに美しい動きで槍を三段に突いた。
敵は必死にカイトシールドで受ける。
東海林は詠唱を再開した。
敵リーダーの顔に焦りの色が浮かぶ。
「どけよっ、マザコン野郎っ!!」
思ったより鋭い斬撃が降って来た。
【剣術】持ちかな?
俺は片手につけたバックラーで斬撃を弾く。
「てめえっ【盾術】っ!!」
「バックラー限定だがな」
うん、一人だと苦戦したかもしれないが、三人なら楽勝……。
そう思った時だ。
『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪』
峰屋みのりの明るい声が路上に響いた。
レイパー達の動きが目に見えて遅くなる。
振り返ると峰屋みのりが二階の窓から顔をだしてサムズアップしていた。
ナイス、そんな遠くからでも呪歌は届くのか。
しかも敵だけだ、これは凄いな。
「ぐ ぞ う き た ね え ぞ」
「うるせえ」
俺は踏み込んでリーダーの肩に剣を突き刺した。
動きがゆっくりなので防具の無い部分を狙い放題だな。
「ぎ ゃ あ あ あ あ」
リーダーは剣を落として倒れ込んだ。
倒れる速度までゆっくりになるのか。
これは体のコントロールではなくて、時間をいじっているのか?
レア
「ご う ざ ん す る 、 ゆ う し て」
「解った」
泥舟は冷たい声で言うと槍の柄で最後の一人の頭を殴り吹っ飛ばした。
よし、かーちゃんを呼ばずに対処できたな。
呪歌が止まった。
振り返ると峰屋みのりが満面の笑みで手を振っていた。
ああ、パジャマ姿も可愛いな。
「やったねーっ!」
「ありがとう、峰屋、おやすみ」
「うんっ!」
峰屋みのりはそう言うと、はっと自分の姿に気が付いたようで赤面して窓のカーテンをシャッと閉めた。
「峰屋さんのパジャマ姿、尊いっ」
「東海林くん気持ち悪いよ」
「うううう」
「【スロウバラード】は凄いな」
「楽勝だった」
「東海林の魔法も凄かったな、頼りになる」
「いやあ、初歩の
「
サイレンを鳴らしながらパトカーが来た。
峰屋のお父さんも出て来て警官に事情を説明した。
「ちがう、ちがう、こいつらが急に俺たちに襲いかかってきてっ」
「そ、そうだ、悪いのはマザコン野郎だ、俺たちじゃねえ」
「俺たちは善良な一般市民なんだ、信じてくれっ」
レイパー達が口々に言い訳を重ねた。
「君たちはこんなお屋敷街に何しにきたの、おかしいでしょ」
警官の追求にレイパーたちは目を泳がせた。
「え、その、迷子、迷子になって」
「そ、そう、今日の宿をさがしてたら」
「こいつらが襲いかかって来ましたっ」
俺は自分のDスマホを取り出した。
『おいマザコン、お前の可愛いお姫さまをぐちゃぐちゃにしてやんよ、嬉しいか』
うん、憎々しげに恫喝するレイパーがよく映ってる。
『あの家にも火を付ける、俺たちは金持ちが嫌いなんだ、全部殺す全部殺す』
『俺たちは悪魔に選ばれたDチューバーなんだ、何をしても良いんだ』
『誰も俺たちを止められねえんだっ』
相手が馬鹿で助かった。
「データをコピーさせても良いかね、タカシくん」
「かまいませんよ」
俺はDスマホを操作して、警官のDスマホに動画データを転送した。
「ご協力感謝します」
警官さんは俺に敬礼してくれた。
峰屋のお父さんお母さんも路上にでてきていた。
峰屋みのりもバード姿に着替え直して出て来た。
「タカシくんっ! ありがとう、やったねーっ!」
「ああ、呪歌ありがとう、助かった」
「本当にありがとう、助かったよ、タカシくん」
「みなさん、中でお茶でもいかが、本当にお世話になって、なんとお礼したらいいいのか」
「いえ、そろそろ帰ります」
「もう遅いので」
「失礼します」
「そお? また三人で来て下さいね。あ、今度迷宮の二階のレストランにみんなで行きましょうよ、ご馳走するわよ」
「ああ、それは良い、私も動画で見て行ってみたかったんだ」
「ほんとうっ!! やったーっ!!」
峰屋みのりがぴょんぴょんと跳ねて喜んだ。
おばさん、あそこのレストランはなんだかもの凄く高いよ。