みんなが食べおわったので食後のコーヒーを飲んだ。
ほろ苦い。
良い香りでしゃっきりするな。
「さて、行こうか」
「美味しかった」
「みんなで食べると楽しいね」
「ああ、楽しいな」
みんなで食べると食事が華やかで楽しいな。
ずいぶん久しぶりだな。
会計は割り勘で泥舟がやってくれた。
配信冒険者割引は10%だった。
結構お得だな。
俺は財布のマジックテープをバリバリと外して、お金を出して席を立った。
峰屋みのりが近寄って俺の袖を取った。
「今日はありがとうねタカシくん」
「きにするな」
「これからも一緒にパーティでいいのね」
峰屋みのりはいつの間にか恒常的にパーティに居着いてしまったな。
こういう所は上手いな。
「ああ、
「わっ、ありがとうっ!! 嬉しいよっ」
峰屋みのりはワーイと両手を上げた。
動きが洗練されてあざといな。
泥舟がレジから戻って来た。
「ありがとう泥舟」
「タカシ、バリバリ開くお財布はやめなよ」
「あ、私もそう思った」
「えー、なんでだ」
「バリバリが許されるのは中学生までだ、新宮」
「そうなのか」
知らなかった。
財布も買い換えないといけないのか。
皆で大師線に乗り込んで我が街まで帰る。
ああ、今日はみんなと狩りができて楽しかったな。
峰屋みのりと東海林の色々な顔が見えた。
二人とも第一印象と違って、意外に良い奴だな。
あまり偏見の目で人を見てはいけないという事だ。
駅に着いた、夕方だから少し混んでるな。
ん?
なんか【気配感知】に引っかかった。
視線を固定しないで後ろの方を見た。
荒れた雰囲気の冒険配信者がいるな。
三人……。
あっ、りっちょんの時に声を掛けてきたレイパーどもだ。
ふむ……。
警官を呼ぶか?
いや、まだ何をした訳ではないから駄目か。
「峰屋、もう暗いから送っていく」
「え、あ、ひゃあっ、嬉しいよタカシくんっ」
「最近物騒だからな」
「あ、そうねえ、Dチューバー犯罪とか多いわね」
Dチューバーはレベルが上がるとオークも倒せるようになる。
そして少し稼げるようになると、ふと気が付く。
こんなに大変な思いをして魔物を狩らなくても、外界にはもっと弱くて、もっと儲かる獲物が沢山いるじゃないかって。
そしてダンジョンで鍛えたパラメータとスキルを使って、一般市民を相手に犯罪を始めるDチューバーが絶えない。
警察もDチューバーを養成して対処できるようにしてはいるがいたちごっこだ。
峰屋みのりを先頭にして市街地を歩く。
ここらへんにはお屋敷が多いな。
だんだん人通りが少なくなってくる。
峰屋みのりのリュート狙いか?
ブラックカード?
身柄をさらって身代金か?
史上二番目の
先の配信で峰屋みのりが金持ちの娘だとばれてしまった。
やばいな。
「つけられてる? タカシ」
「ああ」
「三人だな、どうする?」
「峰屋をまず家に帰す、その後三人で倒そう」
「いけるか?」
「五階オークぐらいの脅威度だ。
「そんなに読めるのか、タカシ」
「色々と見てきたからな」
【鑑定眼】はレアスキルなので生えては来ない。
これは普通の勘だ。
峰屋みのりの家は豪邸だった。
「すごいね、これは」
「ガードマンとか居るんじゃないか?」
「沢山いそうだ」
というか、だったら車で移動しろよ御令嬢は。
運が良いからそういう所が麻痺してるんだろうなあ。
「タカシくん、ありがとうっ!! 今、お父さんとお母さん呼んで来るからっ」
「え、いいよ」
というか中に入って安全になれよ。
「待ってて待ってて」
峰屋みのりはデデデとお屋敷の中に入っていった。
「あれだよねえ、悪気は無いんだよね、あの押しつけがましい行動」
「峰屋さんはなあ、天然にあざとい真似をして、男心をかき乱すんだ」
「外側が綺麗なんで騙されたが、中身は結構ポンコツだな」
「純粋と言い給えよっ!! 童女のように純粋なのだ」
ちらちらと後ろを見てみる。
まだ三人組はいるな。
電柱の影で談笑している風に装っている。
大きなドアが開いて、善良そうな男性とやさしそうな女性が現れた。
ごごごと電動で大きな門が開いた。
「いやあ、タカシくんタカシくんよく来たよく来た、さっきまで生配信を見ていたよっ、みのりを
「
峰屋みのりのご両親は満面の笑顔で俺に抱きついて来た。
「勝手に買い付けて申し訳ありません」
「何を言うのかねー、タカシくんのお陰でみのりは
「タカシさんの『オカンが来た』も見せて貰ったわ、もー、本当すばらしくて、家族みんなでファンになってしまったのよ」
うん、これは、峰屋みのりの家族だな。
すんごい好意でぐいぐい来る。
「食事は済んだかね、ああ、泥舟くんと東海林君も、今日はありがとうねっ」
「まあ、泥舟くんたら、生で見るとますます足軽ねっ、素敵よっ」
「あ、ありがとうございます」
「ど、ども」
「もう、お母さんも、お父さんも落ち着いてよ、もう駅前でご飯を食べてきたのよ」
「そうかー、残念だなあ」
「今度三人で家にいらして、色々聞かせてくださいね」
「これからもみのりを頼むよ、タカシくんなら安心だ」
「本当にまあ、何と言う良縁なのかしらねっ」
「もう、二人とも、帰って帰って」
「だってみのり」
「まあ、タカシくんを独り占めしたいのね、お母さん解るわ」
峰屋みのりは両親を門の向こうに押し込んだ。
「ご、ごめんねタカシくん、私、うちに男の子を連れてきたのが初めてで、お父さんもおかあさんもテンパっちゃって」
「良い、お父さんとお母さんだね」
「うふふ、そうでしょ。じゃあ、また明日、学校でね」
「ああ、気を付けてな」
峰屋みのりは家に帰っていった。
俺はお父さんを手招いた。
「何かね? タカシくん、密談かね」
「電柱の向こうにDチューバーが三人居ます、みのりさんを狙って尾行してきたみたいです、この家にガードマンはいますか」
お父さんはキリッと表情を引き締めた。
「セコムから三人警備員がいるが、抜かれると思うかね?」
「わかりません、五階から十階を根城にしているレイパーなので、たぶんレベルは十五から二十ですが、一人が盗賊です。塀を飛び越されるおそれがあります」
「解った、警察に連絡する。やはり
「史上二番目の
「タカシ君」
お父さんは目をうるうるさせた。
「君は格好いいなあ、どうだい、家の子にならないかね」
「あはは、考えておきますよ」
「もう、格好いいなあ」
お父さんは門から離れて行った。
「どうする」
「話しかけて脅威度を測る、多分戦闘になる、東海林は大丈夫か?」
「三対三か、ここから魔法で狙撃できるなら簡単だが」
外界で先手で魔法をぶっ放すのはまずい。
無法地帯の迷宮の中では無いのだ。
「僕は低レベルだ、油断するだろうから、盗賊の足を突いて動きを止める、東海林君はそいつを仕留めて」
泥舟がキリッとした顔でそう言った。
腹が据わった泥舟は頼りになる。
「最悪、かーちゃんを呼ぶ、いいな」
「わかった」
「やろう」