授業が終わって放課後になった。
今日は土曜日だから半ドンだ。
「タカシくんっ、一緒に帰ろう」
峰屋みのりがデデデと寄ってきた。
「車じゃないのか?」
「鏡子おねえちゃんが迎えに来てくれるって」
「僕もご一緒しようではないか」
東海林も寄ってきた。
「東海林も今日は潜るのか?」
「ああ、霧積に剣を買ってやって潜るよ。新宮も新しい剣を買いたまえよ」
「んー、考えてはいるんだけどな」
「売店に片手剣は売ってないの?」
「剣装備は外の方が高く売れるからな、売店にはまず出ない」
「そっかー、リュートが売ってたのはバードが死に
「そういうことですね」
戦士装備は剣が人気だ。
魔法が掛かったレア装備はそれこそ億を超える値段で取引されている。
現代の冶金技術で作られた凄い武器も外の冒険装備店で売られている。
ステンレスで錆びない剣とか、タングステンで作られた頑丈な武器が流通しているんだ。
俺の剣は迷宮で拾った初心者装備と言われる片手剣だ。
切れ味が悪くなったら研ぎ、折れたら別の物を拾う。
たいへん経済的だったが、まあ、お金はあるから買ってもいいかもな。
基本的に、俺は二千円を超えるお金を使うのに躊躇する。
払うときドキドキしてしまうのだな。
まあ、それでも良いと思う、何十万もの装備をばしばし買っていたらすぐ金が無くなってしまうだろう。
今はお金が入ってきているが、そのうちみんな飽きてしまって、また前のような同接数になるかも知れないのだ。
節約は美徳だ。
「おーい、タカシ」
泥舟が廊下をやってきた。
「泥舟、帰るか」
「ああ、帰ろう、今日は鏡子さんのねぐらの撤去でしょ」
「木の上に住んでいたのよね」
「二三カ所あるらしい」
「木から木へ飛び移って移動してましたからね」
鏡子ねえちゃんの獣モードの時でも軽く
まあ、考えてもしょうがない。
行ってみて駄目だったら木登りをすれば良いんだし。
下駄箱で靴を履き替えて外に出ると校門で待っている鏡子ねえちゃんの長身の姿が見えた。
「げはは、あんた狂子だろ、おっぱい見せてくれよっ」
「こんな近くで生狂子が見れるなんてなあっ」
うわ、Dチューバーの生徒に絡まれているー。
「しっ」
鏡子ねえさんの肩が動いたと思ったら、Dチューバー生徒が吹っ飛んで校庭をごろごろと転がった。
「うえ?」
もう一人にも見えないぐらいの速度のアッパーカット。
Dチューバー生徒は垂直に打ち上がった。
どすんと音を立てて地面に落ちたそいつに鏡子ねえさんは馬乗りになって殴った、殴った、さらに殴る。
「鏡子ねえさんっ、や、やりすぎっ」
「きゃー、死んじゃう死んじゃう」
鏡子ねえさんはきょとんとして俺たちの顔を見あげた。
「殺したらだめか?」
「ここ、迷宮の中じゃないんで」
「そうか、めんどうくさいな」
「ひ、ひいいいっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」
不良Dチューバーは気絶した仲間を引きずって逃げていった。
「まだ外側の世界に私は慣れてないな」
「あ、あんまり乱暴はだめなんだよ、鏡子おねえちゃん」
「わかった、仲間を守る時だけにする」
それが無難かな。
俺たちは家に向かって歩き始めた。
「鏡子ねえさん、峰屋さんちはどう?」
「いいな、お風呂も広いし、ベットはふかふかだし、おばさんおじさんはやさしいし」
「お父さん、お母さんも鏡子おねえちゃんを気に入ってたよ、こんどボディガードの講習を受けてもらって、正式に雇いたいって」
「みのりとみのりのおじさんとおばさんを守るならただでもいいのだが」
「だめよ、ちゃんとお金を受け取らないと」
「そういう物なのか」
お屋敷街に続く分かれ道で峰屋みのりと鏡子ねえさんと別れて、俺たちは家路を急いだ。
「それじゃ、後で迷宮でな」
「ああ、東海林、あとでな」
東海林と別れ、ほどなくして泥舟の家についた。
「じゃあ、あとでタカシの部屋に行くよ」
「ああ、またあとでな」
昼食はみんなで集まってからマックにでも行くかな。
しかし、毎食外食とは心が痛むものだ。
オークハムサンドが恋しいな。
マンションに着くとナギサさんが受付にいた。
「ああ、タカシ君お帰りなさい」
「どうしました」
なんだか元気が無いな。
「お亡くなりになったDチューバーさんの親御さんが来てね、いろいろ話を聞いて悲しくなっちゃったわ。タカシくんも気を付けてね、死んじゃだめだから、無理は禁物よ」
「気を付けます」
ナギサさんはDチューバーに親切だが、あんまりDチューバーの配信とかは見る人では無いらしい。
俺が今売り出し中のタカシというのは気が付かれて無いみたいだ。
昔の店子の息子さんあつかいで、俺はなんだかそれが嬉しい。
エレベーターに乗って三階まで行くと、引っ越し業者の人が死んだDチューバーさんの荷物を運び出している所だった。
女性で、魔術師か。
どれくらいの深度で死んだんだろうな。
蘇生は間に合わなかったのか。
それとも、死骸を食われたのか。
Dチューバーは死と隣り合わせの商売だな。
「あなた、Dチューバーねっ」
品の良いおばさんが急に声をかけてきた。
「今すぐやめなさい、死んでしまったら親御さんはとても悲しむのよっ、Dチューバーなんか、やってたら、駄目よっ」
「やめなさい、おまえ。ごめんなさい、娘が死んで」
「いえ、ご心配ありがとうございます」
「まだ若いんだから、いくらでも他の仕事はあるのよ、駄目よ、親より先に死んではっ」
「やめなさい、彼は困っているよ」
「愛子が、愛子の仲間の男の子たちもっ、みんなみんなっ」
おばさんはおじさんに抱きついてわあっと泣いた。
ああ、愛されていたんだな、愛子さん。
ご冥福をお祈りします。