目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第53話 鏡子のねぐら一号店三号店

 厳岩師匠に手を振って俺たちは平原を後にした。

 あんまり講習の邪魔をしたらいけないしね。


 厳岩師匠は元気になった後、悪い親戚を懲らしめて財産を取り戻し、いまは近所のアパートで悠々自適な生活を送っている。

 初心者講習は無料だけど、お弟子さんも結構出来て指導料とかで楽しくやっているようだ。

 時々近所の老人ホームに行って老々冒険者をつのり、五階までで狩りをして楽しんでいるそうだよ。


 四階に下りる。

 狩りは主に泥舟と峰屋みのりに任せて進む。

 たまにチヨリ先輩が歌ったりするね。


 そして五階についた。


「「ひいいいっ!! センチネル~~!!」」


 出迎えたセンチネルセンチピードを見て女性二人が悲鳴を上げた。

 泥舟が頭部を槍で一突きして倒した。


「なんだ、一匹ぐらい、十六階にすげえ部屋があるぞ、センチネルって名前になった部屋だ」

「え、え、十六階にそんな怖い部屋があるの?」

「おう、仕掛けが奧にあって中を通らないと階段前の扉が開かねえ、そして部屋の中には整然と行進するセンチネルセンチピードどもの大群だ」

「「ぎゃーっ!!」」


 女性二人は真っ青になった。

 十階から二十階までで一番ヤバイと有名な部屋だね。

 定石としては魔法で焼き払うか、油を撒いて火を付けるだ。

 とにかく大量に居るので近接武器で戦うとかならず毒を受けて最悪の場合、死ぬ。

 そのかわり経験値は大量に入るのでここに日参するパーティもいる。

 魔法使いなら結構美味しい部屋なんだな。


「はわわわわっ」

「私、十六階以下には行きませんわっ」

「呪歌で動きを止めるか、眠らせれば通れるんじゃない」

「やだやだやだ、そんなグロい光景の前で歌えないっ」

「お、【お願いの歌】でワンチャン」


 せっかくの経験値がもったい無いぞ。

 ムカデ飴も沢山出そうだし。


 センチネルが粒子になって消え、魔石と楽譜スコアが出た。


「わ、楽譜スコアだわ」

「ムカデから出たスコアは嫌ですわ、なんの曲ですの?」

「【毒毒飛んでけの歌】だって」


 チヨリ先輩がマッハの早さで峰屋みのりから楽譜スコアを奪い取った。


「探していた楽譜スコアですわ、これは私がいただきますっ!!」

「ムカデから出たのよ、それ」

「それでもですっ、ああ、あとコモンは【オバケ嫌いの歌】だけで揃いますわ~~」

「タカシくん、そう言ってるけど、良いの?」

「うーん」


 というか、今日は狩りじゃないからなあ、戦利品とかどうすれば良いんだ?


「まあ、欲しかったら良いですよ、その代わり、チヨリ先輩のパーティで剣とか、槍とか、護拳とかの良いのがあったら代わりにください」

「バーター契約ね、よろしくってよっ!! わあ、なんて良い日なんでしょう~~♪」


 冒険者パーティ同士で不要なドロップ品を交換する事がよくある。

 これはバーター取引と言って、だいたい同じぐらいの値段の物を交換するかんじだね。

 迷宮の買い取りカウンターに売って、それをお金で買ってもらってもいいんだけど、いろいろ面倒臭いからね。


 チヨリ先輩はいそいそと鞄に楽譜スコアをしまった。


「ありがとうね、タカシくん、泥舟くん、すごく嬉しいわ」


 なんかいつもと違ってしおらしいチヨリ先輩は少し魅力的だった。


「この樹の上だ」


 おお、下から見て住処があるとは見えないね。

 鏡子ねえさんは手近な枝に手を掛けて枝と枝をジャンプして登って行く。

 ああ、あれは何か、スキルがあるね【平衡感覚】とか、【パルクール】とか。


 俺も鏡子ねえさんを真似して枝に上がってみる。


 ざっ、ざっ。


 うむ、意外に行けそう。


「タカシ、僕も行けるかなあ?」

「無理だ、峰屋はもっとむり。俺が下に荷物を落とすから仕分けをしてくれ」

「わかったー」

「『おおきくおおきくするどくつよく~~♪ あなたのちからはこんなものじゃないわ~~♪ がんばれがんばれちからをいれろ~~♪』」


 峰屋みのりが【威力増幅の歌】を歌い出した。

 おおっ、なんか感覚が研ぎ澄まされる。

 ピョンピョンと良い感じで枝を登って行けるな。


 しばらく登ると樹の上に部屋があった。


「ここが、私の一号店だ」

「店なのか」

「店じゃ無いけど、ちなみにあそこが三号店」


 指さす方の先に確かに部屋っぽい物がある。


「二号店は?」

「ここからは見えない」


 部屋の隅に木の葉に包まれた魔石が沢山あった。

 わりと細かい物が多いな。

 ゴブリンとか、オークの物だろう。

 鏡子ねえさんはオークハムのかじりかけを床から拾って森の中に投擲した。


「腐ってた」

「そうか」


 冷蔵庫とか無いしな。


 木の枝で編んだ籠に剣とか鉈とかが無造作に入っていた。

 意外に良い物が多いな。


「初心者用は捨てた。良い物だけ残した」


 錆びてるけど、わりと良いお金になりそうだ。


「タカシが欲しい物があったらやる」

「あんまりしっくりくる物はないな」

「二号店にマキリ? マタギ刀? みたいな奴の良いのあったぞ」

「それは楽しみだ」


 おれは鞄から強いポリ袋を二枚出して、魔石と武器と分けて入れていった。

 武器は籠のまま入れた方が良さそうだな。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?