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第52話 みんなでバーキン

 地獄門を通る所で『オーバーザレインボー』とすれ違った。


「東海林、今から?」

「ああ、新宮たちは、というか、なんで後醍醐先輩とチヨリ先輩が?」

「俺たちはこれからお昼、先輩達は鏡子ねえさん目当てだよ」

「そうか、晩ご飯は一緒しないか、樹里さんが相談があるってさ」


 『オーバーザレインボー』シーフの女の子がぺこりと頭を下げた。


「タカシさんと鏡子さんに相談があるんす」

「なんだ?」

「【気配察知】のスキルがほしいんすけど、持ってる人にヒントもらえないかって」


 あー、シーフだと【気配察知】欲しいよね。


「あれは、こう、ばーっとやって、がーっとなると生える」

「鏡子ねえさん、説明になってないよ。じゃあ、帰りまでに考えておくから、晩ご飯の時にね」

「はいっ、ありがとうございますっ」


 樹里さんというのか、ギャルっぽいけど礼儀正しいな。


「私は説明下手か……」

「うん、駄目だね」


 東海林と挨拶をして『オーバーザレインボー』の面々と別れた。

 霧積は憮然とした表情をしていた。


 さて、外に出て商業施設に入り、バーガーキングへと入る。

 色々あるなあ。

 迷ってしまうね。


 地獄門に近いのでお客さんはだいたい冒険配信者ばかりだね。


 セットを買ってトレイを持って席についた。

 なんだか、鏡子ねえさんの前の奴が凄いな。


 ハッシュ&チリビックマウスという巨大バーガーにかぶりついて鏡子ねえさんはご満悦である。

 セットで千六百円もするやつだ。

 信じられない大きさだな。


 俺はアボカドワッパーJrセットというのを頼んだ。

 峰屋みのりはフィッシュバーガー、泥舟はタルタルチキンバーガーセットだった。


「うまいうまい」

「へい、よかったです、鏡子姐さん」


 鏡子ねえさんと仲良くなるには餌付けが基本なのか。

 ニコニコバクバク食べているな。


 俺も食おう。

 うん、うん、パティが肉っぽくて美味しいなこれ。

 アメリカな味がする。


「わたしバーガーキング初めてー、意外に美味しいね」

「そうだね、なかなか美味しい」

「そうだろうそうだろう、バーガーはバーキンだ」


 アメリカっぽい店内でハンバーガーを食べながらコーラを飲む。

 なんか良いね。


「で、今日は鏡子姐さんのヤサの片付けか」

「そうそう、魔石とかドロップ品とかぶんどり品とか沢山あるっぽい」

楽譜スコアはありまして?」

「あったが捨てた」

「ひいいいいっ」


 楽譜スコアは、鏡子ねえさんには関係の無い物だからなあ。

 お金も捨ててたし。


「今日は換金して終わりか」

「あとは、神殿に行って鏡子ねえさんが職業ジョブチェンジできないか調べるよ」

「おおっ、さらに強くなるのかっ」

「たのしみだ」


 良い職業ジョブがでたらいいね。


 食事が終わったので再度地獄門を通って地下迷宮へと挑む。


 階段を下りて三階平原に出ると、カメラピクシーたちがふよふよ寄ってきた。

 今日も頼むよ、リボンちゃん。

 峰屋みのりにおかっぱちゃん、泥舟には三つ編みちゃん、鏡子ねえさんにはおだんごちゃんが付いた。

 後醍醐先輩には気が強そうなショートカットのカメラピクシーが、チヨリ先輩にはおっとりやさしそうなカメラピクシーが付いた。


「今日もおねがいね、おかっぱちゃん」


 峰屋みのりが声をかけると、まかせとけとばかりにおかっぱちゃんはうなずいた。


 こうしてみるとカメラピクシーはいろんなタイプがいるなあ。


 土曜日の午後の三階平原では沢山の人が遊んだり狩りをしたりしていた。


「おーい、タカシ~」

「お、やってますね師匠」


 子供にかこまれている厳岩師匠に声を掛けられた。

 一昨日の小学生二人もいるぞ。


「出世しおったなあ、タカシ、レアスキルとはでかしたわい」

「運のお陰ですよ」

「おおお、厳岩師匠じゃないっすか、タカシお前厳岩師匠のお弟子だったのか」


 後醍醐先輩が興奮気味にそう言った。


「弟子? まあ、最初の弟子じゃな」

「そうですね、鍛えてもらいました」

「剣術の先生なの?」

「厳岩師匠は土日に三階で子供向けの初心者教室をやっているんだ」

「わあ、すごいのね、あ、タカくん、シゲくん」


 峰屋みのりが一昨日の小学生を見つけて手を振った。

 ふたりは照れくさそうに小さく手を振りかえした。


『小学生、講習きたーっ』

『約束守ってえらいぞ』


 手首の上に浮かんだスクリーンにコメントが流れていった。

 同接数がぐいぐい上がっていく。

 今日はそんなに盛りあがる行事じゃあ無いんだけどな。

 ただの引っ越しだし。


「おや、君は山南雲舟師範の?」


 厳岩師匠が泥舟を見てそう言った。

 おお、武道界の知り合いなのかな。


「はい、孫の泥舟です、現役でやられていたのですね、厳岩先生」

「なんと、懐かしいなあ、現役というか、その、ワシは三年ほど前に認知症になってな、家族にここの四階に捨てられてしまっての」

「「「「えっ」」」」

「ゴブリン二匹に襲われてのう、食われてしまう所をタカシがやってきて助けてくれてな」

「何を言ってるんですか、俺もゴブリン二匹をさばけない頃で死にそうになったときに俺が落とした片手剣を師匠が掴んで、ズバーッと一刀両断してくれたんじゃないですか」

「おたがい運が良かったのう」


『タカシの秘められた過去キターッ!!』

『しかし、泣きゲーの主人公かお前は、きっと狐の子供も救ってるぞ』

『あーうー』

『真琴ルートはやめろ、俺に効く』


「認知症が治ったんですか?」

「おお、二匹斬ったら丁度レベルアップしてのう、少し治った。それからタカシと一緒に四階で狩りをして治っていった、というわけじゃわい」

「師匠には沢山の事を教わりましたよ」

「懐かしいのう、だから、タカシの師匠と言われると少し違うんじゃな。言ってみれば冒険者仲間じゃよ」


 そうではない、やっぱり師匠は師匠で、俺に剣の使い方、戦う時の歩法や戦略、沢山の事を教えてくれたんだ。


「タカシ、お前すげえなあっ」

「たいしたことないって」

「私の先輩がいた」


 鏡子ねえさんがしみじみと言った。

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