カンカンカーンと音がフロアボスフィールドを支配した。
夢の中に出てくる響きすぎる音の空間のようだ。
[執行者確認せり、神力微弱、魔道力大、執行階位初段]
なんだこれは、流れている音声は俺だけに聞こえているようだ。
迷宮の魔力とは別系統の術式のような気がする。
陰陽道なのか?
[問う、汝は神降ろしを望むか]
権田権八を倒せるならば、何でも欲しい。
[是と判断す、執行補助者走査、『歌女』確認、かの者の力を借りるか否か]
みのりにどこからか光が当たる。
彼女はどぎまぎしている。
なんだろう、時間がゆっくりなのか、俺とみのり以外の動きも声も無い。
「みのり、力を貸してくれ!」
「わ、わかったよ、タカシくん!」
[是と判断す、最小起動要素確定、『歌女』神力自動執行]
「あれ、あれ?」
みのりがリュートを弾き始めた。
和風っぽい曲だ。
「『ひふみよいむなやこともちろらねしきるゆゐつわぬ
そをたはくめかうおえにさりへて~♪』」
みのりは歌を歌い始めた。
歌詞が良くわからないが、なにか古い物のような気がする。
[『暁』に畏くもアマテラス大御神、『宵闇』に畏くもツクヨミ大御神、古のやくそくにのっとり降りたもうねがいまする]
上の方から恐ろしい威圧感のある存在が二つ、ゆっくり降りてきた。
『暁』には赤い珠。
『宵闇』には青い珠が乗り移った。
[大神おろし発現、権能発動す]
どうん! 一気に音と時間が戻って来た。
そして両手のマタギナガサに恐ろしい力が宿ったのを感じる。
「なんなんでしゅかっ!! 時間を止めてパワーアップをしても僕にはかないましぇんよっ!! まだヒットポイントは半分も減ってましぇんっ!! 人の手でたおしぇる存在では無いのでしゅっ!! 僕は新しい神なのでしゅから!!」
「お前なんか神じゃないぞ」
「僕が神でしゅっ!! くらいなしゃい、【
赤黒いブレスが俺に向けて殺到してくる。
「本当の神は、俺の両手に居る」
俺は『宵闇』を振った。
バキュウウウリムッ!!
【
「ツクヨミの権能[消滅]」
「ぎやあああっ!! 何をしたでしゅかっ!! 何をするでしゅかっ!」
俺は『宵闇』を振るって権田権八の巨体をどんどん[消滅]させていく。
悪いな、何をやってるのかは、俺にもちょっと解らない。
解るのは『宵闇』の切っ先が当たる辺りの物や空間を[消滅]させていくという事実だけだ。
「あがががっ!! 【回避】スキルが、【受け流し】スキルが、【斬撃耐性】スキルが、き、ききましぇんっ!!」
「なんか、系統が違うからスキルは無効みたいだぞ?」
「卑劣でしゅっ!! どんなチートでしゅかっ!!」
「さあ?」
俺の修行で出した物じゃないからな。
『なんだ、このでたらめはっ!!』
『これが退魔刀の本当の力なのか、雷電!!』
『ま、まだ一本目の権能しか使ってねえ、なんだ、これ?』
『伝説の聖剣みたいなぶっ壊れ性能だっ!!』
みのりは依然として和風の歌を歌い続けている。
あの歌が術式の大事な要素のような気がする。
対魔剣が二つ、それと『執行者』と『歌女』で最小の術式単位のようだな。
権田権八が焦りの色を浮かべて、こちらに触手を何本も打ち込んでくる。
俺は『宵闇』でそれを消滅させていき、さらに踏み込んでいく。
軟体であろうと、レア甲冑装備だろうと、すべてを軽々と[消滅]させる事ができる。
「すげえでやすね、タカシさん……」
「あれが退魔刀の本来の力でござろうか……」
どんどん権田権八の巨体を削っていく。
象のように大きかったその姿は、今は牛程度の大きさになった。
「やめてくだしゃいっ、た、助けてくだしゃいっ!!」
「ごめん、無理だわ」
俺は右手の『暁』を構えた。
とどめはこっちのような気がする。
おっとそう言えば。
「【オカン乱入】」
光の柱からかーちゃんが現れた。
「よっしゃあ、とどめやなあっ、って、あんた、ずいぶんちぢんだなあ。わ、タカシ、なんやその剣!」
「なんか術式が発動したよ」
「そうかあ、偉い武器やってんなあ、神剣やな」
権田権八が物欲しそうな目でかーちゃんを見た。
「いまでしゅっ!!」
奴は本体に新しい口を発生させて、かーちゃんに躍りかかった。
「タカシ、あわせてーな!」
「ああ、かーちゃん」
「いっくでーっ!!
俺もかーちゃんと肩を並べて『暁』を振るった。
ドガシューン!!
権田権八の胴体は『暁』に両断され、かーちゃんの輝くメイスで本体を撃たれて爆散した。
『やったか!』
『今度は本当に!』
いや、まだだ、俺はさらに踏み込んだ。
『暁』権能攻撃が起動する。
刀身が白く光り輝いた。
権能名[浄化]だ。
太陽のようにまばゆい光を放つ。
ねらうべき場所が解る。
権田権八の心臓だ。
奴の顔が恐怖に歪んだ。
『暁』を正確に奴の心臓目がけて突き入れる。
「やめてええええ」