救急車とパトカーでごった返す中、美春さんの運転する軽自動車は駐車場を抜けて帰路についた。
「なんだか急に退魔武器が注目されて困っちゃうわね。ちょっと前までちっとも売れなかったのに」
「そんなに売れなかったんですか」
「そうよ、『暁』と『宵闇』を泥棒した奴を追ってたんだけど、ヤクザに五万で売っていたのよ」
「それは安い」
「今では変な外人さんが何億ででも買うというのに」
「嫌になっちゃうわよねえ」
迷宮で効果がある刀という触れ込みだったのだろうけど、五万は安すぎだよなあ。
物の価値って不思議なものだ。
「まあ、巡り廻ってタカシくんの所まで届いたのだから、やっぱり『巡行』ってあるのかもしれないわね」
「マイケル氏の所に『巡行』して行きそうですが」
「ないない、神様もあんなに趣味の悪い奴の所には行きたくないわよ」
そうだと良いのだけれど。
「そういえば、退魔の槍はありますか、フツノミタマが宿っていなくても良いんですけど」
「あー、刀以外は特注になってしまうのよ。槍だと蜻蛉切りとか昔はフツノミタマが宿っていたらしいのだけれど、今は博物館ね」
「本多忠勝さん、執行者だったんですか」
「結構、歴史的に有名な人で執行者やってた人多いわよ」
それは強そうだな。
「あのコンパウンドボウ、凄いですよね、呪術的な技術は入って無いのですか」
「あれは、ほとんど科学だよ、フツノミタマは宿らないわね。新素材で反発力を上げて、スタビライザーで安定性をあげているの。あと、矢も色々作ってるのよ、爆発の矢だけじゃなくて、火炎の矢とか、冷凍矢とか。楽しいわよ」
おおー、さすがは京大生だ、面白い研究をしてるんだなあ。
「『
「泥舟くんは『
「『Dリンクス』は後衛が峰屋さんだけなんで、迷ってるんですよ。槍で十分に戦えるんですけど、鏡子さんとタカシが居るから」
「難しいわねえ、『魔術師』がベストな感じだけど、槍の腕がもったい無いわね」
「あと、枠が二つあるから、魔術師と僧侶か、盗賊か」
「鏡子さんは抜群に良い前衛だからね、あと、みのりちゃんも良い
そうなんだよな、俺は『暁』があるから前衛だけど、泥舟はなあ。
「まあ、だんだんとまとまってくるから、気にしない方が良いわよ、パーティってのは成長するからね」
最大員数が六人、今は四人だから、あと二人だなあ。
いろいろとバランスが難しいな。
美春さんの運転する軽自動車は乃木のお屋敷に到着した。
庭で
「ただいまー」
「おお、帰ったか」
「
「そうだね、いやあ、金時の籠手は凄いな、爪が生えた」
「は?」
良く見ると金時の籠手の指先が尖って凶悪な感じに変化していた。
それを使って鏡子ねえさんは藁人形をバラバラにしまくっている。
「まったく、燐月師は何を考えてこのような機能を入れておるのだ、
「気合いが上がると攻撃力が上がるギミックでは無いか? なんというか、鏡子くんにはまりすぎで怖いぐらいだが」
すごい鋭そうな爪で威力が高そうだなあ。
表権能の[
「お、お、おか、おかえりおかえりっ」
「『ああ~~あ~~、あたまをすっきりおんどをさげろ~~♪ れいせいにれいせいになれ~~♪ クールになれ~~♪』」
みのりが【冷静の歌】を歌うと、ねえさんの目の赤みが消えて普通に戻った。
「お、おおっ、お帰り」
「ただいま、ねえさん」
金時の籠手は通常の状態に戻った。
「格好いいねえ、金太郎の籠手」
「そうだろう、バーサークすると尖る、強い!」
「鏡子おねえちゃん凄いっ」
みのりに褒められて、ねえさんは照れくさそうに笑った。
「金閣寺はどうだった?」
「綺麗だったよ、あと、駐車場で半グレと、『ホワッツマイケル』のマイケル氏が襲ってきた」
「「「なんだと」」」
鏡子ねえさんと乃木先生、東郷先生が声を合わせた。
俺は美春さんの弓無双を伏せて簡単に説明した。
「世界一位のパーティが『暁』を狙ってきたのか」
「おー、世界一位、腕が鳴るぜーっ」
「歌女はどうするつもりなのか、みのりさんもさらうのか?」
あ、それは考えて無かったな。
大神降ろしの発動条件とか、外から見ていて解る物なのか?
うーん、迷宮内の事だから映像に事欠かないんだよな。
解析ずみか?
「陰陽師に歌女の人はどれくらい居るんですか?」
「今は五、六人じゃな、あまり人気が無くてのう」
桔梗さんがぽつりと言った。
「いや、タカシくん、歌女役は
ああ、そうだった、術式が始まると自動執行してくれるんだっけ。
フツノミタマが宿った武器が二つあれば、『大神降ろし』は可能なのか。
「これはやっかいな事になりそうじゃのう」
レベル差が四十もあると、パラメータの差は倍ぐらい違うからな。
俺が白虎くんにやった事をマイケル氏にやりかえされかねない。
悩ましい所だな。