『そうでっか、テト攻勢でお亡くなりにねえ』
『ああ、そうともさ、友軍を撤退させるためにしんがりで遅延戦闘して、まあ、死んだな。その後はキャシーに呼ばれるまではただ無だったぜ』
『それはお疲れさまでしたなあ。呼ばれて嬉しかったんちがいますか』
『ああ、
『うちは異世界に転生させられましてなあ、ずっとタカシの事を思いだしてはちゃんと生きておるか、元気にやっとるか心配で心配で、こうして呼んでもらって、嬉しいんですわ』
『ああ、残してきた家族は、まあ、本当に心配だったよな。で、キャシーが息子のボブの前に呼んでくれてなあ、あの時は泣いた、抱き合って泣いたぜ』
『ええんや無いですか、生死の狭間から呼び出されたんやし、泣きますわ』
なんだか、かーちゃんとキャシーのお爺ちゃんが長話を延々している。
そうか、ジョン爺さんは転生してないのか、テト攻勢って、ベトナム戦争の激戦だよな。
あの頃と地続きなのか。
ちなみに半グレの『青龍』たちは逃げていった。
M2機関銃はとんでもない威力で、族車が穴だらけになって燃え上がっている。
もの凄い大きい弾丸だからなあ。
魔銃化されても大きい魔力弾であった。
三分、これが使えるならなかなか凄い。
三十階のフロアボスのミノタウロスも倒せそうだな。
『お話は尽きないが、マダム、もうすぐ三分だ、いやいや、出会えて良かったよ』
『ほんまですなあ。またお会いしましょ』
『どこかで、縁があったら、また、ミセスよしえ』
『ほなまた、ミスタージョン』
二人はがっちりと握手を交わし、そして消えて行った。
かーちゃんは消える前にこちらにふり返り、小さく手を振った。
『うーん、会わせて良かったわ、また今度どこかで会わせてあげましょうよ、タカシ』
『気が合っていたみたいだね』
『お爺ちゃん、老衰で死んだんじゃないんだね』
『そうよ、ダディから聞いていたベトナムで死んだお爺ちゃんがムキムキで出て来たときは、『だ、誰?』と思ったわよ』
それは思うだろうな。
『さあ、次の場所に行きましょうよ』
『次は竜安寺に行くわよ、付いて来て』
砂のお庭のお寺だな。
「ベタな所だけど良いね」
「ベタが一番よ、私なんか、あとは大仏さまぐらいしか覚えてないわ」
「東大寺も行ってタカシを鹿に喰わせたいけど、時間がね」
「奈良方面はマイケルとかち合うと怖いから嫌だわ」
俺は鹿に喰われるのか。
そんなに凶暴なのか、奈良の鹿。
「鏡子ねえさんが装備を受け取りに来た時にでも奈良に行こう」
「そうだね、タカシ」
「鏡子おねえちゃんと一緒がいいね」
『そう言えば、ミス鏡子は居ないのね』
『今、装備を作ってもらうのに、陰陽鍛冶さんの所で採寸してるよ』
『あら、退魔装備引き換え券ね、何作るの何作るの、護拳?』
『護拳は凄いのが手に入ったから、グリーブを作ってくれるってさ』
『おお、足技系ね、防具も作れるのね』
『別の陰陽鍛冶さんが居て、今、防具の方は空いてるらしいよ』
『ほんと!! マイケルに教えてあげないとっ!』
東郷先生、マイケル氏を頼みますよ。
俺たちは美春さんの車に乗り込んだ。
キャシーはヘルメットをかぶってバイクに跨がる。
偶然知り合ったけど、キャシーは同年代だし、Dチューバーだし、話が合っていいな。
これで『ホワッツマイケル』でなければ良かったんだけどなあ。
車は三十分ほどで竜安寺の駐車場に入った。
拝観料を払って中に入る。
少し広い中庭に、いくつかの石が置かれ、水の波紋のような模様が白い砂で描かれている。
不思議な雰囲気の庭だなあ。
『この岩とか砂とかは何の意味があるのデイシュー』
『この庭は鑑賞したり見たりして理解するタイプの物じゃ無いんだキャシーさん、哲学を感じるそういう物だよ』
『おー、東洋の神秘ねっ!』
不思議な感じだし、なんだか解らないけど、うんでも良いね。
高空から雲海を眺めているような気分にもなってくる。
縁側でみんなで座って、お庭を見ていた。
うん、なんだか贅沢な空気で京都だなあって感じがする。
順路を通って見学をしていると、建物の裏手に古銭みたいな形のつくばいがあった。
『可愛い、これは何?』
『水戸黄門さまが寄贈したというつくばいだね。茶室に入る前に手をあらう水道みたいな場所だよ』
泥舟はなんでもよく知ってるなあと、思ったら、説明通りの事が看板に書いてあった。
カンニングしていたのか。
『表に漢字が書いてあるわ、なんて書いてあるの?』
『
『意味は意味は?』
『自分の幸運に感謝して生きなさい、みたいな』
『あら、後ろ向きな金言ね』
『仏教だからね』
足を知るか。
うん、マイケル氏に覚えて行って欲しい金言であるな。
ああ、そうか、アメリカのお嬢さんは不満そうだが、今現在の手に入っている物を幸運と満足して生きなさい、満足でなければ、世界一のレベルでも、Sランク配信冒険者でも悲しい、とか、そういう意味だな。
あんまりガツガツしちゃ駄目だよって感じかな。