「よしよし、忘れ物は無いな」
俺は収納袋に手を入れた。
脳内に入っている物のイメージが並ぶ。
問題は無い、貰った京都土産のお菓子お包みもあるな。
ねえさんの鞄、みのりの鞄、泥舟の鞄、俺の鞄。
あとは武器装備類。
みんなの装備はあるな。
一応、全員迷宮防具姿だ。
泥舟の足軽スタイルが目立つなあ。
みのりの
ねえさんに至っては金時の籠手をもう装備している。
「自販機にお金入れるときとか困らないの?」
「いや、装甲付いてるけど、十円玉の模様も解る、燐月師匠はすげえっ」
千年前の伝説の陰陽鍛冶さんは凄いな。
良い物貰ったね。
俺たちはホテルを出た。
朝ご飯はたらふく食べたので、これから新幹線で大阪に行って、難波迷宮に行く。
余所の都市の迷宮は初めてだな。
「あら、足軽、泥舟くんよ、素敵っ」
「Dリンクスよ、みのりんも居る」
「タカシも格好いいわね」
「鏡子さん、格好いい」
若い女性に噂されて照れくさいな。
鏡子ねえさんがニパっと嗤って手を振った。
京都駅から新幹線に乗った。
「これで京都も見納めかあ」
「また来るぞっ」
「今度は奈良に行って、大仏を見ましょうよ」
「鹿も倒そう!」
鏡子ねえさんの鹿への激しい敵対心は何なのだろうか。
京都から新大阪までは十五分ぐらい、すぐ着いてしまうね。
窓の外の景色が、田園からだんだんと都市になっていく。
「旅は楽しい、これからも休暇のたびに、日本各地、世界各地の迷宮に行こうぜ」
「川崎で潜ればいいじゃんよ」
「なに言ってるんだ、移動して、各地の美味しい物を食べるのが良いんじゃないか」
「札幌とか名古屋とか、確かに行きたいわねえっ」
「ナウル共和国にも地獄門が出来たんだけど、人口一万人の島だから、人口の半分ぐらいDチューバーで宝箱も採り放題だから観光客のDチューバーも多いって」
「そこに行こう!!」
それはお得だが、ダンジョンの中は変わらないらしいからなあ。
でも、アメリカの迷宮とか、治安が悪そうだな。
アウトローはどこにでも居るからね。
島嶼といえば、グアムには無いけど、ハワイには地獄門あるんだよね。
夏休みに観光がてら行っても良いかもしれないな。
周りがビルばかりになって、新大阪駅に新幹線が着いた。
「さあ、下りるぞっ」
「ええと、難波まではどうだったかしら」
「地下鉄で一本だね」
新大阪の新幹線ホームから下りて、地下鉄御堂筋線改札へと下りて行く。
みのりがてててと行って、切符をまとめて買ってくれた。
地下鉄に乗って難波を目指す。
「地下鉄なのに、地下じゃないぞ」
「新大阪あたりは地上を走るんだよ」
「なんという根性の無い」
根性の問題だろうか。
車内は空いていたので、四人で椅子に座る。
【気配察知】
怪しい感じの奴は居ないな。
Dチューバーっぽいグループは二三居た。
「大阪ってさ」
「うん」
「みんなかーちゃんみたいな訛りで喋るな」
「大阪だからね」
ちなみにかーちゃんの出身地は和歌山だな。
地下鉄は地下に入っていった。
「おお、地下鉄になった」
「知らない街の地下鉄っていいわよね」
Dチューバーらしい四人連れが俺たちをちらちら見ていた。
「おお、ほんまや、ほんまの『Dリンクス』やな、みのりんがかわええなあ」
「『ホワッツマイケル』と揉めてるいう噂やろ、こわいなあ」
「世界一に狙われてるんや、『Dリンクス』はごっつ大きくなるでぇ」
「高校生なのに偉いなあ」
さすがに難波に近いからDチューバーも多い感じだね。
しかし全国的な有名人になったんだなあ。
慣れなくて照れくさい。
「悪い事をして有名になったんじゃないから、堂々とするのだ」
「そうだね、ねえさん、ありがとう」
難波駅に着いたので地上へと出る。
難波地獄門はどっちだろう。
キョロキョロと見回すと、標識があった。
こっちか。
「イベント会場の駐車場に地獄門が生えたみたいだよ」
「わりと商業施設とか、イベント会場とか好きだよね、悪魔さんたち」
歩いて行くと川沿いに大きなイベント施設があった。
ここかあ。
大きな陸橋みたいになっていて、配信冒険者たちが行き交っている。
そして地獄門が見えるあたりで、陰陽師さんたちが待ち構えていた。
「白虎くん」
麒麟さんと、あと二人の陰陽師さんが居た。
四人。
「曾おばあさんの『浦波』を返してください」
「収奪戦?」
「もう、その域は超えました、強奪します」
俺は黙って収納袋から得物を出して、泥舟に、みのりに渡す。
鏡子ねえさんがガチーンと金時の籠手を打ち合わせた。
「四人なら勝てるの?」
「いえ……」
通りに面した車から傷だらけの女の人が現れた。
手盾をくれた陰陽師の人だ。
「タカシさんっ!! 逃げてくださいっ!! 鬼人の肉がっ!!」
白虎君と、麒麟さん、そして二人の陰陽師が何かの肉を口に入れた。
「パラメーターでかなわないなら、上げればいいんですっ!」
「白虎くん……、あの人に何をしたの」
「ふふ、鬼人の肉を食べて『Dリンクス』を襲うのが嫌と言ったのでお仕置きをしたまでですよ」
俺の胸に怒りが湧いた。
「白虎、お前、ふざけんなよ」
難波迷宮の前の陸橋で、陰陽師清明派との第二ラウンドが始まった。