みのりはひーんと泣きながら小部屋に入っていった。
俺たちは気を使ってちょっと離れた通路で辺りを警戒する。
「みのりねえちゃんはお嬢様だからな」
「そこらへんでシャーっとすればいいんだ」
それも俺たちが困るけどな。
「ぎゃーー!!」
「ど、どうしたっ!!」
小部屋からみのりの悲鳴が聞こえた。
小型モンスターでも出たか。
「チ、チアキちゃーん!! きてーっ!!」
「なんだよ、もう」
チアキが小部屋の中に入っていった。
大丈夫なのか。
チアキがゲラゲラ笑いながら、木箱の宝箱を持って出て来た。
「さすがみのりねえちゃん、持ってるね」
「ああ、宝箱がポップしたのか」
それで悲鳴をあげたのか。
『なんという【豪運】』
『おトイレでも皆の注目を集めるDアイドルの鑑だ』
『携帯トイレとか買って無かったのか』
『おろ、迷宮運営からのお知らせだ、なになに、偶数階の階段安全地帯にトイレを新設します、だってさ』
『サービス良いなあ』
『女性配信冒険者にも気軽に探検して欲しいからのう』
『明後日からか、良いサービスだなあ』
みんなのライトに照らされながら、チアキは宝箱の解錠を始めた。
「木箱だから、そんな大層な罠は無い、っと」
毒針の罠をチアキは簡単に殺して解錠した。
中にあったのは……。
「なんだこれ?」
長い針の根っこに輪が付いた鉄製の正体不明の物だった。
「武器?」
「何だろうね、ちょっと調べる」
泥舟がDスマホを取り出して検索を始めた。
みのりが仏頂面で小部屋から出て来た。
「みのりお手柄だ」
「お手柄じゃないわよ、びっくりしたよっ」
そりゃまあ、用を足している時に宝箱がポップしたらびっくりするよな。
「明後日から、偶数階の安全地帯にトイレが出来るって」
「ぐわー、もっと早く設置してくださいよっ!」
「みのりはひ弱すぎ」
「鏡子おねえちゃんが逞しすぎですっ」
泥舟のスマホをいじる指が止まった。
「解った」
「なんだよこれ」
「レア武器リストにもあったんだけど、わかんないって解った」
「まだ判明してないのか」
「レア武器にもあるのか、買い取り価格は……、百五十万、三百万コース、銀レアの下の方だ」
「一応武器なんだね」
チアキがわっかを指にはめたりしたが、意味のある感じではないなあ。
とりあえず、収納袋にいれておこう。
木箱から出たから、通常武器だな。
『なんだろうあれ?』
『たまに謎の装備あるよね、指輪みたいにして使うダガー?』
『さすがに指が折れるぞ』
謎の武器は後で考えよう。
顔が赤いみのりを隊列に入れてリドルドアへと向かう。
泥舟が『ほっきょくせい』と入れて、リドルドアは重々しく開いた。
少し通路を進むと、オークとオークリーダー、ハイオークの群れが出た。
ネームドの『片牙』を含む群れだ。
「やったぜ」
「『ぐるぐるぐるぐる♪ おまわりおまわりなさい~~♪ 空も地面もぐーるぐる♪ 足下ぐらぐら気を付けて~~♪』」
みのりの【ぐるぐるの歌】に合わせて鏡子ねえさんが飛びこんでいった。
狙うは『片牙』のみだ。
チアキが後退し、みのりの横に付く。
俺は泥舟を追い越してハイオークに切りつける。
ぐらぐらと平均感覚を失わせる歌の下で激闘が続く。
さすがはネームドだけはあって『片牙』は鏡子ねえさんに果敢に抵抗していたが、するりと懐に飛びこまれて首をボキリと折られた。
俺も『暁』の斬撃でハイオークを刺殺、泥舟もオークを一匹倒した。
ねえさんが流れるようにオークの頭を粉砕して、戦闘は終了した。
わりと楽勝であった。
「一回見た敵はなんとかなるな」
「【ぐるぐるの歌】はチートだからね、フロアボスも集団戦だから、この戦法が効きそうだね」
「ふふーん」
みのりは鼻高々である。
チアキは今回後ろを警戒していたので発砲していない。
それで問題がないのだ。
うちのパーティで一番脆いのがみのり、次いでチアキだから、後方で補助しているのが正解である。
魔力を吸い、お楽しみのドロップだったが……。
『片牙』からは、オークカーゴパンツが出た、フリース付きで暖かそうだな。
お尻の所に豚の尻尾がちょこんと生えていた。
「オークファッションがコンプリートした」
「セット装備すると何かあるのかな」
「特効……、オークだから女性型特効か?」
『ないない、とても暖かいがセット特典じゃ』
『防寒着なのね』
『雪原階や氷結階があるから重宝するぞよ』
そうだったのか、寒い階に行ったら着てみるか。
どんどん通路を歩いて、十六階への階段を下りる。
十六階の安全地帯で小休止。
ガーゴイルがバサバサ飛んで来て一瞬隊列を組みそうになったが、カーキ色のツナギを着ていた。
『さぎょういんです』
『こうげきごむよう』
ガーゴイルはツルハシで壁に穴を開け始めた。
「トイレを作ってるんですか」
『そです』
『こうげきごむよう』
「もっと早く作ってくれたらよかったのにー」
まあ、そう言うな。
『余さんが手を回してくれたのかな』
『そ、そんな事はないぞ、何をいっておるのじゃ』
『まあまあ、つつかないつつかない、余さんは謎の人だしね』
『そうそう』
『よ、余はその、通りがかりの会社重役じゃからのう』
『うわ、怪しいw』
何にせよ、トイレがあると女性配信冒険者は助かるね。
やっぱり、大魔王迷宮の運営はちょっとずれているけどサービスが良い。