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第171話 オークファッションコンプリート

 みのりはひーんと泣きながら小部屋に入っていった。

 俺たちは気を使ってちょっと離れた通路で辺りを警戒する。


「みのりねえちゃんはお嬢様だからな」

「そこらへんでシャーっとすればいいんだ」


 それも俺たちが困るけどな。


「ぎゃーー!!」

「ど、どうしたっ!!」


 小部屋からみのりの悲鳴が聞こえた。

 小型モンスターでも出たか。


「チ、チアキちゃーん!! きてーっ!!」

「なんだよ、もう」


 チアキが小部屋の中に入っていった。

 大丈夫なのか。


 チアキがゲラゲラ笑いながら、木箱の宝箱を持って出て来た。


「さすがみのりねえちゃん、持ってるね」

「ああ、宝箱がポップしたのか」


 それで悲鳴をあげたのか。


『なんという【豪運】』

『おトイレでも皆の注目を集めるDアイドルの鑑だ』

『携帯トイレとか買って無かったのか』

『おろ、迷宮運営からのお知らせだ、なになに、偶数階の階段安全地帯にトイレを新設します、だってさ』

『サービス良いなあ』

『女性配信冒険者にも気軽に探検して欲しいからのう』

『明後日からか、良いサービスだなあ』


 みんなのライトに照らされながら、チアキは宝箱の解錠を始めた。


「木箱だから、そんな大層な罠は無い、っと」


 毒針の罠をチアキは簡単に殺して解錠した。

 中にあったのは……。


「なんだこれ?」


 長い針の根っこに輪が付いた鉄製の正体不明の物だった。


「武器?」

「何だろうね、ちょっと調べる」


 泥舟がDスマホを取り出して検索を始めた。

 みのりが仏頂面で小部屋から出て来た。


「みのりお手柄だ」

「お手柄じゃないわよ、びっくりしたよっ」


 そりゃまあ、用を足している時に宝箱がポップしたらびっくりするよな。


「明後日から、偶数階の安全地帯にトイレが出来るって」

「ぐわー、もっと早く設置してくださいよっ!」

「みのりはひ弱すぎ」

「鏡子おねえちゃんが逞しすぎですっ」


 泥舟のスマホをいじる指が止まった。


「解った」

「なんだよこれ」

「レア武器リストにもあったんだけど、わかんないって解った」

「まだ判明してないのか」

「レア武器にもあるのか、買い取り価格は……、百五十万、三百万コース、銀レアの下の方だ」

「一応武器なんだね」


 チアキがわっかを指にはめたりしたが、意味のある感じではないなあ。

 とりあえず、収納袋にいれておこう。

 木箱から出たから、通常武器だな。


『なんだろうあれ?』

『たまに謎の装備あるよね、指輪みたいにして使うダガー?』

『さすがに指が折れるぞ』


 謎の武器は後で考えよう。

 顔が赤いみのりを隊列に入れてリドルドアへと向かう。


 泥舟が『ほっきょくせい』と入れて、リドルドアは重々しく開いた。


 少し通路を進むと、オークとオークリーダー、ハイオークの群れが出た。

 ネームドの『片牙』を含む群れだ。


「やったぜ」

「『ぐるぐるぐるぐる♪ おまわりおまわりなさい~~♪ 空も地面もぐーるぐる♪ 足下ぐらぐら気を付けて~~♪』」


 みのりの【ぐるぐるの歌】に合わせて鏡子ねえさんが飛びこんでいった。

 狙うは『片牙』のみだ。

 チアキが後退し、みのりの横に付く。

 俺は泥舟を追い越してハイオークに切りつける。

 ぐらぐらと平均感覚を失わせる歌の下で激闘が続く。


 さすがはネームドだけはあって『片牙』は鏡子ねえさんに果敢に抵抗していたが、するりと懐に飛びこまれて首をボキリと折られた。

 俺も『暁』の斬撃でハイオークを刺殺、泥舟もオークを一匹倒した。

 ねえさんが流れるようにオークの頭を粉砕して、戦闘は終了した。

 わりと楽勝であった。


「一回見た敵はなんとかなるな」

「【ぐるぐるの歌】はチートだからね、フロアボスも集団戦だから、この戦法が効きそうだね」

「ふふーん」


 みのりは鼻高々である。

 チアキは今回後ろを警戒していたので発砲していない。

 それで問題がないのだ。

 うちのパーティで一番脆いのがみのり、次いでチアキだから、後方で補助しているのが正解である。


 魔力を吸い、お楽しみのドロップだったが……。

 『片牙』からは、オークカーゴパンツが出た、フリース付きで暖かそうだな。

 お尻の所に豚の尻尾がちょこんと生えていた。


「オークファッションがコンプリートした」

「セット装備すると何かあるのかな」

「特効……、オークだから女性型特効か?」

『ないない、とても暖かいがセット特典じゃ』

『防寒着なのね』

『雪原階や氷結階があるから重宝するぞよ』


 そうだったのか、寒い階に行ったら着てみるか。


 どんどん通路を歩いて、十六階への階段を下りる。


 十六階の安全地帯で小休止。

 ガーゴイルがバサバサ飛んで来て一瞬隊列を組みそうになったが、カーキ色のツナギを着ていた。


『さぎょういんです』

『こうげきごむよう』


 ガーゴイルはツルハシで壁に穴を開け始めた。


「トイレを作ってるんですか」

『そです』

『こうげきごむよう』

「もっと早く作ってくれたらよかったのにー」


 まあ、そう言うな。


『余さんが手を回してくれたのかな』

『そ、そんな事はないぞ、何をいっておるのじゃ』

『まあまあ、つつかないつつかない、余さんは謎の人だしね』

『そうそう』

『よ、余はその、通りがかりの会社重役じゃからのう』

『うわ、怪しいw』


 何にせよ、トイレがあると女性配信冒険者は助かるね。

 やっぱり、大魔王迷宮の運営はちょっとずれているけどサービスが良い。

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