神殿の祭壇にさあっと永遠に続くような一直線の道が現れて、誰かがそこを歩いて来た。
巨大な他の神様に比べて普通の人間ぐらいの大きさだったが、神々しさは神様だった。
思わず土下座をしたくなったが、床がアルダーさまの海水でジャブジャブである。
俺はとっさに礼拝のベンチに正座して頭を下げた。
「あ、そんな手が」
「タカシくん頭いい!」
皆もベンチの上で正座をして頭を下げる。
「ごめんなさいねー、水で汚してしまって」
アルダー様がおっとりとした感じで謝罪した。
いぜん泥舟は赤子のように彼女に抱かれている。
『『
『新神様だー』
射撃の神様は背中にマスケットをしょって皮のコートを着た渋いイケオジであった。
眼に色気があるな。
『異世界の赤子ちゃんたち、魔法をしらない同輩たちよ、よくもまあ、転職できるまで鍛え上げたもんだよ、俺っちはそういう奴が大好きさ、ヤマナミデイシュウ、君に俺っちの加護する
口調はチャラいがイケオジなのでかえって格好いいな。
イカス。
「ありがとうございます」
泥舟はアルダーさまに抱かれたまま頭を下げた。
『絵面がしまらねえ』
『でもうらやましい、後でおれも診断してもらう』
『イケオジすてき~~!!』
『射撃の神ドルトスじゃな、神に上がられて千年ぐらいと、わりと日が浅いのじゃ』
ドルトスさまはアルダーさまに一歩近づいた。
アルダーさまは泥舟を抱えて彼の前に突き出す。
『射撃の神髄を探求しなよ。闇に伏せ得物を狙い、引き金を引け、お前の一撃が巨大な悪を打ち砕き戦いの流れを変えるよう、俺っちは願っている』
そう言うとドルトスさまは背中の銃を構え引き金を引いた。
ダキューンダキューン!!
光の弾丸が泥舟の胸に吸い込まれた。
おお、射撃の神様らしい祝福の与え方だな。
『精進しなさいよ、じゃあなっ』
そう言ってドルトスさまはウインクをして踵を返し、水平線まで続く道を歩いて行って、消えた。
『『『『『うおおおおおおっ!!』』』』』
『
アルダーさまは転職の儀が終わった泥舟を優しく降ろした。
「ありがとうございましたアルダーさま」
「がんばりなさい、デイシュー」
「はいっ!」
泥舟は歩いてこっちに来た。
「やったなあ泥舟」
「うん、これで中衛後衛はずいぶん厚くなったね」
「魔法使いの範囲攻撃は無いけど、そのかわり詠唱無しで強力な攻撃を打ち込める長所がある」
「すごいよ、それで、格好いいよ射撃の神様!」
そっちかよみのり……。
「【気配消し】があるのがいいなあ」
チアキが言った。
「狙撃用のスキルが多いね。狙撃してたら生えるかな」
「『Dリンクス』も凄くなってきたな、これでもっと深く潜れる」
「かなり良い感じよね~」
アルダーさまにお礼を言って悪魔神殿を出た。
泥舟が歩くたびになにかつっかえるような感じになっていた。
「どうした?」
「『戦士』の動きの線の補正が切れたから、慣れないね」
確かに泥舟の動きがぬるぬるさが少なくなっている感じだ。
「まじか、戦えるのか?」
「その代わりに視線導線というか、移動する物体の把握補助が付いたよ、なるほど射手系はこうやって世界を見ていたのか」
近接系と射撃系、魔法系はそれぞれ
そして転職したら切り替わるのか。
『
ロビーのソファーに座ってドロップした物の仕分けである。
今日も一杯出たなあ。
枕とか、残しておきたい物を聞いて、それ以外は売ってしまおう。
ねえさんがヘルハウンドホットドッグの封をあけてかぶりついていた。
よく食べるな。
「ちあきは駄目だ、晩ご飯が不味くなるぞ」
「ちえー」
ねえさんがホットドックを半分むしってチアキにあげていた。
もう、甘いんだから。
「ありがとう鏡子」
「きにすんなー」
スネークスティレットとナメクジバットは一応置いておこうか。
「魔石は弾丸用に何か残しておくか?」
「基本弾丸はあるから良いかな。魔石無くても魔力弾は撃てるし」
「ねえねえ、泥舟兄ちゃん、あした一緒に五階で射撃狩りしない?」
チアキが泥舟に話しかけた。
「射撃の修行か」
「明日は先生達の指導だから、二人で五階で訓練は良いな」
「そうしようか、僕も早く【射撃】と【狙撃】が欲しいし」
「二人で【気配消し】で隠れて戦おうよ」
「いいね」
換金カウンターに行って、魔石と、いらない装備、ナメクジ兜とかを売った。
ソファーに戻って分配である。
泥舟の銃剣に立て替えたお金も戻してもらう。
なんだか四百万円とかどうでも良い感じになっていて怖いな。
金銭感覚が崩れていくとまずい。
だがこの貧乏性でレア銃剣を三本押さえる発想が出なかった。
いたし痒しだなあ。
レアだからそれぞれ違う特色が付いているんだよなあ。
「さあ、帰って飯を食おう、今日はどこにする?」
「三久屋さんでも行こうか」
「めでたい日なのに蕎麦かよう」
「毎日ご馳走を食べて、さすがに飽きたよ」
「タカシはもっと良い物を喰わないとだめだ」
「明日、引っ越しの挨拶に、三久屋さんの蕎麦券を持って行こうかと思ってさ」
「……、お、おう、挨拶とかするべき?」
「一応、配信冒険者だし、顔を繋いでおいたほうがいいと思う、権八の時にも迷惑をかけたしさ」
「そうだな、うん、じゃあ、そば屋行くか」
「「「いこういこう」」」
リボンちゃん達に手を振って地獄門をくぐる。
また明日ね。
外に出ると川崎の街の喧騒がわっと押し寄せて来た。
空はもう赤いなあ。