さて、今日は鏡子ねえさんとチアキを交えて、マンションの引っ越し挨拶である。
一応部屋の数分の三久屋さんのお蕎麦券は用意した。
今日は日曜日なので居ない人もいるだろうから会えなかったら後日また挨拶に行こう。
「どっから挨拶する?」
「一階はナギサさんのお家だから、二階からだね」
「お蕎麦券! というか引っ越しの挨拶とかしたこと無いよ、されたこともないし」
わりと最近ではそうなのかもね。
でもこのマンションはDチューバー専門だし、顔を繋いでおいても良いんじゃ無いかな。
気が合えば同盟しても良いしな。
俺たちはエレベーターに乗って、二階まで下りた。
201号室のベルを鳴らす。
『はいはーい、どなた~、あらタカシ君』
そう言ってドアがすぐ開いた。
「どうしたの?」
高橋さんと同じパーティらしい女の人だな。
二十代後半ぐらいで、わりと色っぽい感じだ。
「引っ越しのご挨拶をしにきました。新宮タカシと申します」
「しってるよ~~」
「服部鏡子という」
「しってる~~」
「チ、チアキ、内藤チアキ」
「いつも見てるわよ~~、チアキちゃん、凄腕よねえ」
そう言ってお姉さんはチアキの頭を撫でた。
「私は『イン・ザ・グレイブ』ってパーティの
「草葉の陰で? ずいぶん不吉だな」
「あら、鏡子さん学があるのね、地下にって意味もあるのよ」
「ああ、ダンジョンだからか」
「そうそう、もう高橋が格好つけて付けちゃってねえ」
「何階まで潜ったの?」
「四十八階よ、もうすぐ五十階のフロアボス戦を目指すわ」
結構なベテランパーティだなあ。
「これ、三久屋さんのお蕎麦券です」
「あら、これはありがとう、近所のおそば屋さんなの?」
「はい、すぐそこですよ」
「ありがとう、みんなで行ってみるわ」
「今後ともよろしくおねがいします」
「おねがいします」
「しまーす」
三人で頭を下げるとケイコさんは笑い出した。
「はい、こちらこそ、よろしくお願いしますね」
ケイコさんはお蕎麦券を受け取って頭を下げた。
「この階は『イン・ザ・グレイブ』のメンバーと、『楽園突撃隊』の人達がいるわ。いつも宴会をして騒いでいるのは『楽園突撃隊』の人達、わりといい人達よ」
ああ、夜に騒いでいるのは、そのパーティなんだ。
「今日はうちの面子はいるけど、『楽園』さんたちはダンジョンに潜っているわよ」
「それは残念です」
「明日にでも挨拶すれば良いわよ。じゃあ、他のメンバーに紹介するわ」
「良いんですか」
「ええ、うちのメンバーはみんな『Dリンクス』のファンなのよ、高橋もね」
ケイコさんは、隣の部屋のドアチャイムを鳴らした。
「なんだよ、ケイコさん。おっ、タカシじゃん、どうした?」
「これは、うちの前衛の左山佐吉、重戦士よ」
「引っ越しのご挨拶にきました、これを」
「こりゃあ、わざわざありがとう、おお、鏡子さんとチアキちゃんまで、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
「よ、よろしく……」
「いや、嬉しいな、いつも配信を見て時々コメントを書き込んでるぜ」
「リスナーの方でしたか、ありがとうございます」
俺たちが挨拶をしているとケイコさんは、さらに隣の部屋のチャイムを鳴らした。
『ゲーム中……』
「『Dリンクス』のタカシ君と、鏡子さんと、チアキちゃんが引っ越しの挨拶に来たわよ」
ドタドタと音がして、メガネの青年が飛び出してきた。
「あれは、うちの
「失敬ですねっ、佐吉さんっ!! 初めまして、立花恭平ともうしますっ!! よろしくお願いしますっ!! いつも配信見てるよ、タカシ君っ!! 凄いね泥舟くんの
「は、はい、ありがとうございます。これ、三久屋さんのお蕎麦券です」
「わあ、ありがとうっ、近所のおそば屋さんだねっ、ありがたく頂くよっ!」
テンション高いなあ、立花さん。
「よろしくなあ」
「よ、よろしく……」
チアキはやっぱり知らない人なので気後れしているようだ。
「あと二人、盗賊の男の雨宮敬次郎と射手の魚住ことねって二人がいるんだけど、結婚して別のマンションに居るわ」
「では、お付き合いにこれをお渡しください」
俺はお蕎麦券を二枚渡した。
「うん、タカシ君のおごりだと知ったら喜ぶわ、ありがたく頂いておくわね」
「『楽園』の連中はいないのか?」
「ああ、潜ってたね、配信見たよ、三十五階あたりでレベル上げしてた」
立花さんが佐吉さんの問いかけに答えた。
彼はパソコンオタクっぽいな。
ゲームしてたし。
「帰ってきたら自慢してやろうっと」
「また夜に挨拶にくれば会えるわね。さて、うちのリーダーの高橋は四階にいるわ、行きましょう」
「ありがとうございます」
みんなでぞろぞろと一団となってエレベーターに乗り込んだ。
「権田権八戦とか、マイケル戦とかすごかったな、タカシ、思わず応援しちまったよ」
「世界一に勝ったEクラス配信冒険者だからねえ、いや凄かったよ」
「ね、みんなタカシ君のファンなのよ」
「恐縮です」
四階に着いた。
このフロアの部屋はちょっと家賃が高い、その代わりに結構広く作られている。
ケイコさんがチャイムを鳴らすと、ドアが開いてのっそりと高橋さんがあらわれた。
「ん、なんだ、タカシ?」
「遅れましたが、引っ越しのご挨拶にまいりました、これ、つまらない物ですが」
俺は高橋さんにお蕎麦券を渡した。
彼はにっこり微笑んだ。
「ありがとう、こちらこそよろしく。『イン・ザ・グレイブ』のリーダー、高橋慎一郎だ。剣士をやっている」
「服部鏡子です、よろしく」
「な、内藤チアキです、その、よろしく」
「ああ、二人もこのマンションに入ったんだな、よろしくな」
『イン・ザ・グレイブ』は名前は縁起が悪いが、なかなかバランスの良いパーティみたいだな。
良い人そうでほっとした。
「四階は、あと『チャーミーハニー』の二人が住んでいるわね。三階は、『楽園突撃隊』さんが一人、『チャーミーハニー』さんが二人住んでいるわね」
「『チャミハニ』の子達も狩りだね、四十階のフロアボスアタックしてるよ」
「マンティコア師匠か、厄介だったよなあ」
「ムカつくんだよね、あの師匠」
そうなのか、どんなモンスターなんだろう、マンティコア師匠。