「タカシくんタカシくん、大変だよっ」
教室に入るとまたみのりがデデデと走って来た。
「ワッペンがもう出来てきたんだよっ」
「おお、早いな」
綺麗な刺繍の『Dリンクス』マークのワッペンをみのりから渡された。
山猫が前に伸びてアクビをしているイラストにDLinksとロゴが入っている。
やっぱり山猫が鏡子ねえさんっぽいよなあ。
「良く出来てるなあ」
「でしょでしょ、横須賀のワッペン屋さんにたのんだんだって、タカシくんも防具に貼るといいよっ」
「どうやって付けるんだこれ?」
マリちゃんが寄ってきた。
「アイロンで圧着して三十秒ほどでくっつきますよ」
「アイロン……、無いけど」
「買おうよ買おうよっ」
「制服のワイシャツはアイロン掛けて無いんですか」
「お、おう」
アイロンを掛けるという発想が無かったな。
普通に干してそのまま着ていた。
「駄目だぞそんな事では、アイロンぐらいかけられないとな」
東海林もやってきて、そう言った。
「東海林はやってるのか?」
「お、お母さんがやってくれている」
「駄目じゃん」
「今度行って、私がアイロン掛けてあげるよ」
「みのりはアイロン掛けた事あるの」
「そ、そりゃあありますよ、はい」
目が泳いでいる、みのりもお母さんに掛けて貰ってるな。
とりあえず、俺のワイシャツは形状記憶の奴しか無いから要らないのだ。
生活の知恵なのだ。
俺は自分の席に座った。
みのりが前の吉田の席に腰を掛ける。
東海林が椅子を移動させ、マリちゃんも来たな。
「鏡子ねえさんとチアキも喜ぶな」
「今日は先生方の日ですから、迷宮の売店で魔石利用アイロンを買ったらいかがですか」
「「「そういうのもあるんだ」」」
売店は基本ドロップ品を売ってるはずだから、何かからドロップするんだな。
アイアンゴーレムだろうか? アイアントータスか?
まあ、値段を見て安かったら買おう。
「おおっ、リンクスのワッペンだっ、くれっ」
「ざけんな」
「いいじゃんかよう、あ、マリっぺ、あたいらのチームのマークも作っておくれよ」
不良の姫川と高木も寄ってきた。
「おまえら、パーティの名前決まったの」
「きまったぜー、聞いて驚くな『ラブリーエンゼル』だっ」
「カワイイだろう、へっへー」
「君たち、本当にそれで登録したの?」
「なんだよ、東海林文句でもあんのか」
「やんのかこらメガネ」
「あだ名が『ダーティペア』になるぞ」
「なんでだよ」
「わけわかんないこというなっ」
「そういうアニメがあったんだよ」
「東海林、隠れオタク~~」
「だっさっ」
東海林は頭をかかえた。
「いかん、確実に『ダーティペア』って呼ばれる」
『ダーティペア』に後ろから拳骨が降った。
「おまえら、タカシに絡むなって言ってるだろうがっ」
「い、いえ、後醍醐先輩、からんでたのは東海林で」
「このメガネキモイ事いいやがるんで」
「良いから失せろ、俺の朝の憩いの時間をじゃますんなっ」
「へーい」
「はーい」
『ダーティペア』は後醍醐先輩には素直なんだよな。
「お、ワッペン出来たのか、良いなあ、マリちゃん、うちのもデザインしてくれよ」
「ええ、良いですよ」
「うれしいぜっ、金は言い値で払うからよっ」
「わかりました」
『迷宮ぶっ壊し隊』のマークはどんな感じになるんだろう。
ちょっと気になる。
「しかし、タカシお前、あっというまにD級で追いつかれちまったなあ」
「鏡子ねえさんが強いですからね」
「ばっきゃろ、鏡子姐さんがスゲえのは当然だが、お前もすげえし、みのりんもすげえし、泥舟もすげくなったし、チアキちゃんはカワイイし、『Dリンクス』に死角はねえよ」
「魔長銃はすごいしろものだよね、普段は魔力弾、いざとなったら魔石弾で突破できそうだよ」
「中長距離が埋まったのはありがたいね」
「うちもうかうかしてらんねえな、すぐミノタウロスをぶっ倒してC級に行きそうだぜ」
「後醍醐先輩は今、何階ですか?」
「今は二十三階だ、敵が強くなってきて厳しいぜ」
教室の後ろのドアがあいてチヨリ先輩が踊りながら入って来た。
「みなさま『おはようおはようおはようございます~~♪ すてきな朝、青い空、白い雲に今日の元気をはじけさせましょ~~♪』」
【おはようの歌】が十八番になってきたな。
だんだん歌のレベルが上がって来てる感じもする。
「まあ、リンクスのワッペン出来たのね~、素晴らしい出来だわ~、グッズ販売とかはどこかにお任せになったの?」
「いや、そこらへんはまだですよ」
「お父さんがなんか関連会社を手配してくれるって言ってたよ」
「峰屋さまのコネクションなら問題はありませんね。リーディングプロモーションでもグッズやってますが、そんなに強くありませんから」
「いいなあ、俺たちのグッズも作りてえぜ」
「おほほほ、チョリグッズは色々出てましてよっ、団扇にアクキーにブロマイド」
「そりゃおめえは芸歴長いしな」
「みのりさんのグッズ展開はいかがかしら」
「んー、デビューはまだですからねえ、アルバムが出来てからじゃないかな」
「くうっ、デビューアルバムがマリア・カマチョさまとのデュエットだなんて、世界的にセールスが凄そうですわあ、妬ましい」
「あはは、凄く勉強になってますよ、マリアさん凄いから」
おっと先生が来た。
「おーう、みんな席につけ~、後醍醐と北村は自分のクラスにもどれ~」
「へーい」
「はーい」
うん、いつもながらの学校の朝でほっとするな。