五階での狩りは続く。
望月先生がビュービュー麻痺水鉄砲を撃ち、あとは撲殺刺殺である。
オークも出始めたが、わりと問題なく倒しているな。
マリちゃんがムカデ鞭をヒュンヒュン頭上で回している。
俺と東海林と高田君は暇である。
雑談しながら付いて歩く。
「方喰さんの鞭使いの上手い事」
「もっと威力のある鞭が出たらマリちゃんに渡そう」
「背徳な匂いがするんだお」
高田くんが笑いながら、そう言った。
「高田君、盾スキルは生えた?」
「まだだお、生えると楽になりそうだなあ」
彼の戦闘スタイルは手斧を投げて、中距離攻撃で、近距離は盾で受けての手斧だから、ちょっと近距離が弱いね。
「【手斧】スキルは大きい斧は使えないの?」
「サイズ限定だから入らないお」
「ちょっと、パンチが不足気味だよね、出来ればウォーアックスとか使えればいいんだけどな」
東海林が首を横に振りながら言った。
「手斧で投擲、接近したら大斧かあ、それも良いかもね」
「霧積が大剣だから、将来は剣士、高田は将来重戦士かな」
「斧のレアは安いから良いんだけど、スキルが別だおん」
わりと難しい所だな。
斧と言っても、手斧、斧、ハルバード類の柄付き斧と色々ある。
柄付きは槍っぽい武器だし、それぞれスキルが別だ。
【斧の才能】とかがあれば良いんだけどね。
「でも、鏡子さんに貰った、この魔法の手斧は使いやすいんだお」
『高田はゲッターだからなあ、接近戦は柔道でひとつ』
『ドリルでも良いぞ』
『高田の
ジョブとやりたい武器、そしてスキルの兼ね合いが難しいね。
「将来的には『Dリンクス』と『オーバーザレインボー』でレイドを組んで四十階以下を攻略しようぜ」
「それは良いお」
「うん、一緒に潜って行こう、新宮」
わ、宮川先生をすり抜けたゴブリンがマリちゃんに斬り掛かった。
マリちゃんは鞭だけだから防御手段が無い。
ゴブリンが振り下ろした錆びた剣が彼女に当たった。
が、器用に回避した。
高田君が手斧を早抜きして投げた。
ゴブリンの首が飛んだ。
「大丈夫かお?」
「かすり傷です、ありがとう高田くん」
「良かったお」
やっぱり飛び道具はとっさの時に良いな。
俺も何か、投げナイフとかやるかな。
マイケルもなんか持ってたし。
「魔法は起動が遅くていやになるな」
「しょうがないお」
かすり傷を負ったマリちゃんを竹宮先生が【ヒール】で治療した。
「すまんすまん、すり抜けたよ」
「いいえ、大丈夫です、迷宮の狩りですから」
今のは望月先生が麻痺液をあて損ねたらしい。
「ごめんね、方喰さん」
「大丈夫ですよ、望月先生」
マリちゃんにも盾が要るかな。
「マリちゃん、バックラーを使うかい?」
「重く無いですか?」
「バックラーは小さいから」
「重くても良いなら僕の盾を使うお、【盾術】付きだお」
高田君の丸盾は重いんじゃないかな。
マリちゃんはバックラーを選んだ。
「どう使うんですか?」
「握り込んで、敵の攻撃に当てる、ちょっと宮川先生、斬り込んでみてください」
「よし、本気でやっていいかい?」
「かまいません」
俺はバックラーで宮川先生の斬撃を弾いた。
マリちゃんは真剣にバックラーの動きを見ていた。
「……、新宮、マリちゃんに『浦波』を貸したら早いんじゃないか?」
「あっ」
「い、いけません、私は値段が付かないような退魔武装は持ちたくありません。無くしたら償いようがありませんから」
「でも、[自動防御]付きだよ」
マリちゃんは黙ってバックラーを俺の手から取った。
「鞭も器用度で振ってるんです、バックラーも器用度で受けますよ」
「それがいいお、『浦波』は新宮くん以外持っちゃ駄目だお」
「便利なのに……」
「そういう問題ではないな、新宮」
マリちゃんは宮川先生にゆっくり剣の型で斬ってもらって、それを受ける練習をし始めた。
というか、宮川先生もそろそろ【剣術】が生えるんじゃないかな。
ちなみに僧侶の竹宮先生が生えやすいスキルは【棍棒術】だ。
六階への階段近くの安全地帯で小休止をした。
ナッツバーを囓る。
高田君は懐からあんパンを出して食べているな。
マリちゃんはメモ用紙にさっそく、くつしたの絵を描いている。
モコモコで可愛いな。
Dスマホで泥舟たちの様子を確認する。
『Dリンクス』の配信を開くと、俺がスマホをいじっている動画が流れた。
顔を上げるとカメラを構えたリボンちゃんがいた。
まあ、そうだよな。
画面をスワイプして切り替えていく。
チアキの画面で止める。
チアキと泥舟と樹里ちゃんはライトを消してスニーキングしているらしい。
別の冒険者パーティが右往左往している。
『どこ行きやがった、餓鬼どもめっ』
『ほんとうに魔拳銃を奪うんすか? 狂子が怒って攻めてきますぜ』
『メスガキと足軽とクソビッチの今がチャンスなんだよっ、狂子なんざ鉄砲さえあれば怖くねえよっ!』
それは無理じゃ無いかな。
チアキと泥舟が匍匐前進を始めた。
樹里ちゃんもそれに続く。
くつしたも静かに移動している。
半グレパーティを遠くに置いて角を匍匐で曲がり、立ち上がった。
『ふう、ハラハラするっすね、チアキ師匠』
『ちょっと、【気配消し】で奴らの近くまで行って……、装備を盗んでくる』
『チアキちゃん、危ないよ』
『泥舟兄ちゃん、危ない事をするから配信冒険者なんだよ』
チアキ~~。
チアキは【気配消し】を使って足音を忍ばせて通路を歩いて行く。
泥舟は長銃に煙玉を詰めた。
なるほど、何かあったら煙幕に紛れさせるのか。
チアキはそろそろと半グレたちに近づき、動きを止めた。
半グレたちは気が付いて無い。
盗賊っぽい奴が居るけど【気配察知】が無いからか?
チアキの接近に気が付かない。
そろそろと背後を取って、チアキは半グレのリュックの底に毒蛾ナイフで切り込みをいれた。
『わ、わわっ! くそっ、リュックの底が抜けたっ』
『え、俺もだっ! 荷物が、荷物がっ!』
『ち、畜生、なんだ、なんだこれ』
【気配消し】すごいな、やりたい放題だ。
チアキは泥舟と樹里ちゃんの元に戻った。
『ろくな装備が無かったから、リュックの底を抜いてやった』
『えらいっ』
『見つからないもんすねえ』
『今のうちに別の所に行こうよ』
『そうだね』
チアキと泥舟と樹里ちゃんとくつしたは静かに移動を始めた。
なんだかスニーキングミッション楽しそうだなあ。