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SS05 廃工場へ行く

 廃工場は埃っぽくて荒れ果てていた。

 後ろ手を結束バンドで縛られた(風)のチアキを連れて中に入る。


「おお、リュウジちゃーん、良くやったっ!! さすがだなあっ、駄目兄貴とは違うぜっ」


 『グランドオーダー』共は煙草の煙を吹き出してゲラゲラ笑った。


「や、やっぱりやめようじゃないか、リーダー、あんな小さい子を、可哀想だよ」

「うるせえっ!! テメエッ、何かと言えば弱気な事を言いやがってっ、Dチューバーってのはなあっ! 喰うか喰われるかなんだっ、それが解らねえなら、リューイチ、お前は首だっ、俺の『グランドオーダー』から出てけっ!」

「だ、だけどさ、上手く行くとは思えないんだよ」


 ドガシッ!


 琴平が兄ちゃんの頭を蹴った。


「上手く行くんだよっ!! チアキを人質にして、『Dリンクス』を食い尽くすんだっ!! あいつらの持っている全ての物を俺達が頂くっ! チアキを人質にして、あいつらを奴隷にして楽して生きてやる。みのりも鏡子も肉奴隷にしてやるよっ、げははははっ!! 上手く行くんだよ、あいつらは高校生で甘ちゃんだからさあっ! チアキを殺すぞと脅したら、何でもいう事を聞くんだっ!! 俺達はあいつらを働かせて楽して生きるんだ、がははははっ!!!!!」


 酷い考えだった。

 ドブの泥よりも汚い、汚穢のような考え方だ。

 本当にそんな事が上手く行くとでも思っているのか?


「そういうのは駄目だよ、なあ、思いだしてくれよ、みんなの注文を受けるようなパーティになるのが『グランドオーダー』の名前の由来だろ」

「うるせえうるせえっ!! 迷宮探検はきれい事じゃねえんだっ!! 手を汚して初めて先に進める所があるんだよ、お前は馬鹿だから解ってねえんだっ!! お前は『グランドオーダー』から追放だっ!!」


 琴平が兄ちゃんをガンガン蹴り飛ばした。

 他のメンバーもニヤニヤしながら煙草を吹かしていた。


 兄ちゃんが瓦礫の山から転げ落ちて、こちらに歩いて来た。

 泣き出しそうな、悲しそうな、そんな顔をしていた。

 そんな顔をするなよ、兄ちゃん。

 兄ちゃんはあいつらよりもずっと上等なんだからさ。


「お兄さん、リュウジを守って」

「え?」


 チアキがタタタと駆け出した。

 後手に縛られたふりをまだしている。


「あ、どうしたどうした、チアキちゃん、大人しくしてれば酷い事はしねえぜ」

「リーダー俺は、これぐらいの子がジャストヒットでさ、ぐふふ」

「おいおい、傷物は困るぜ、まあ、ほどほどに……」

「しね」


 チアキは後手の偽装を解き、ジャージの上着の下からムカデ鞭を二本出して、琴平とロリコンをひっぱたいた。


 バシーンバシン。


「ぎゃーっ!!、く、くそっ、毒がっ!! どういう事だリュウジ!!」

「チアキに全部話した。『グランドオーダー』を殺すってさ」

「ば、ばかな、小学生の女の子に……!!」


 チアキはムカデ鞭をビュンビュン振るって行く。

 琴平には毒は入らなかったが、ロリコンには入って瓦礫の上で苦しんでいた。


「小学生? 女の子? はっ、笑わせるな琴平、お前の前に居るのはLv.32、三十五階突破のプロの配信冒険者だ」

「ち、畜生!!」


 琴平は短剣を抜いてチアキにむけて斬り下ろした。

 それと同時に『射手アーチャー』の奴がナイフを投げる。


 フッ。


 チアキの姿が消えた。


「え、どこに行った?」

「ふ、ふざけんなよっ!」

「毒消し、毒消しをくれ~~」

「【気配消し】だ、畜生、凄腕の『盗賊シーフ』だぞ、あれは」


 『グランドオーダー』の『盗賊シーフ』も【気配察知】を持っているのか、チアキを見つけ出してナイフで斬りつけた。


 チンタンチン。


 澄んだ金属音が響き渡る。

 『射手アーチャー』がナイフを構えるとチアキは【気配消し】を掛けて射線を斬る。


「俺が姿をあぶり出す、だからシンジ、ミチオが全力で攻撃を叩き込め、こいつ、舐めてたら、俺らが狩られるぞっ」

「お、おうっ」


 ミチオは魔術師ウイザードのようだ。

 ブツブツと呪文を唱え始めた。


「ミチオ、後だ!!」

「へ?」


 パンパンパンパンパン!


 ミチオの後から強襲したチアキは軽い鞭の攻撃を五連発で入れた。

 毒は三回入り、ミチオは倒れた。


「くそうっ! 畜生!!」

「お兄さん、良い腕の『盗賊シーフ』なのになんでこんな所にいるの?」

「それは……」

「公安くるよ」

「はっ!」


 『盗賊シーフ』の人はナイフを落として、手をあげた。


「なにやってんだーっ!! 早く捕まえろよっ!!」

「いや、琴平……、これは絶対電話で仲間を呼んでる訳じゃんか」

「ぐううううっ! ふざけんなふざけんな、あいつらを俺は奴隷にするんだっ!! リュウジ!! お前のせいだっ!!」


 琴平がナイフを持って僕に向かって駆けてきた。

 兄ちゃんが、僕を守るように立ち塞がった。


「リュウイチ、お前もだー、死ねーっ!!」


 兄ちゃんは僕を守って死ぬつもりだったんだろう。

 小声でつぶやいた。


「ごめんな……」


 僕は従魔の珠を投げた。

 ケロベロスは僕と兄ちゃんを噛むかもしれないけど、たぶん琴平も倒してくれるだろう。


「ばうばうばうばうばうっ!!」


 くつしたが現れて琴平に向けて突進、体当たりで壁まで吹き飛ばした。

 彼は僕らを振り返り、どうだい、とばかりに「ばうん」と鳴いた。


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