廃工場は埃っぽくて荒れ果てていた。
後ろ手を結束バンドで縛られた(風)のチアキを連れて中に入る。
「おお、リュウジちゃーん、良くやったっ!! さすがだなあっ、駄目兄貴とは違うぜっ」
『グランドオーダー』共は煙草の煙を吹き出してゲラゲラ笑った。
「や、やっぱりやめようじゃないか、リーダー、あんな小さい子を、可哀想だよ」
「うるせえっ!! テメエッ、何かと言えば弱気な事を言いやがってっ、Dチューバーってのはなあっ! 喰うか喰われるかなんだっ、それが解らねえなら、リューイチ、お前は首だっ、俺の『グランドオーダー』から出てけっ!」
「だ、だけどさ、上手く行くとは思えないんだよ」
ドガシッ!
琴平が兄ちゃんの頭を蹴った。
「上手く行くんだよっ!! チアキを人質にして、『Dリンクス』を食い尽くすんだっ!! あいつらの持っている全ての物を俺達が頂くっ! チアキを人質にして、あいつらを奴隷にして楽して生きてやる。みのりも鏡子も肉奴隷にしてやるよっ、げははははっ!! 上手く行くんだよ、あいつらは高校生で甘ちゃんだからさあっ! チアキを殺すぞと脅したら、何でもいう事を聞くんだっ!! 俺達はあいつらを働かせて楽して生きるんだ、がははははっ!!!!!」
酷い考えだった。
ドブの泥よりも汚い、汚穢のような考え方だ。
本当にそんな事が上手く行くとでも思っているのか?
「そういうのは駄目だよ、なあ、思いだしてくれよ、みんなの注文を受けるようなパーティになるのが『グランドオーダー』の名前の由来だろ」
「うるせえうるせえっ!! 迷宮探検はきれい事じゃねえんだっ!! 手を汚して初めて先に進める所があるんだよ、お前は馬鹿だから解ってねえんだっ!! お前は『グランドオーダー』から追放だっ!!」
琴平が兄ちゃんをガンガン蹴り飛ばした。
他のメンバーもニヤニヤしながら煙草を吹かしていた。
兄ちゃんが瓦礫の山から転げ落ちて、こちらに歩いて来た。
泣き出しそうな、悲しそうな、そんな顔をしていた。
そんな顔をするなよ、兄ちゃん。
兄ちゃんはあいつらよりもずっと上等なんだからさ。
「お兄さん、リュウジを守って」
「え?」
チアキがタタタと駆け出した。
後手に縛られたふりをまだしている。
「あ、どうしたどうした、チアキちゃん、大人しくしてれば酷い事はしねえぜ」
「リーダー俺は、これぐらいの子がジャストヒットでさ、ぐふふ」
「おいおい、傷物は困るぜ、まあ、ほどほどに……」
「しね」
チアキは後手の偽装を解き、ジャージの上着の下からムカデ鞭を二本出して、琴平とロリコンをひっぱたいた。
バシーンバシン。
「ぎゃーっ!!、く、くそっ、毒がっ!! どういう事だリュウジ!!」
「チアキに全部話した。『グランドオーダー』を殺すってさ」
「ば、ばかな、小学生の女の子に……!!」
チアキはムカデ鞭をビュンビュン振るって行く。
琴平には毒は入らなかったが、ロリコンには入って瓦礫の上で苦しんでいた。
「小学生? 女の子? はっ、笑わせるな琴平、お前の前に居るのはLv.32、三十五階突破のプロの配信冒険者だ」
「ち、畜生!!」
琴平は短剣を抜いてチアキにむけて斬り下ろした。
それと同時に『
フッ。
チアキの姿が消えた。
「え、どこに行った?」
「ふ、ふざけんなよっ!」
「毒消し、毒消しをくれ~~」
「【気配消し】だ、畜生、凄腕の『
『グランドオーダー』の『
チンタンチン。
澄んだ金属音が響き渡る。
『
「俺が姿をあぶり出す、だからシンジ、ミチオが全力で攻撃を叩き込め、こいつ、舐めてたら、俺らが狩られるぞっ」
「お、おうっ」
ミチオは
ブツブツと呪文を唱え始めた。
「ミチオ、後だ!!」
「へ?」
パンパンパンパンパン!
ミチオの後から強襲したチアキは軽い鞭の攻撃を五連発で入れた。
毒は三回入り、ミチオは倒れた。
「くそうっ! 畜生!!」
「お兄さん、良い腕の『
「それは……」
「公安くるよ」
「はっ!」
『
「なにやってんだーっ!! 早く捕まえろよっ!!」
「いや、琴平……、これは絶対電話で仲間を呼んでる訳じゃんか」
「ぐううううっ! ふざけんなふざけんな、あいつらを俺は奴隷にするんだっ!! リュウジ!! お前のせいだっ!!」
琴平がナイフを持って僕に向かって駆けてきた。
兄ちゃんが、僕を守るように立ち塞がった。
「リュウイチ、お前もだー、死ねーっ!!」
兄ちゃんは僕を守って死ぬつもりだったんだろう。
小声でつぶやいた。
「ごめんな……」
僕は従魔の珠を投げた。
ケロベロスは僕と兄ちゃんを噛むかもしれないけど、たぶん琴平も倒してくれるだろう。
「ばうばうばうばうばうっ!!」
くつしたが現れて琴平に向けて突進、体当たりで壁まで吹き飛ばした。
彼は僕らを振り返り、どうだい、とばかりに「ばうん」と鳴いた。