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第14話 だからそれ、誠意じゃなくて脅迫です──書道初心者OL、筆を取る。

まったく、やりたい放題にもほどがある……。


今日も絵梨花様とお局様は仲良く出勤中。鬱陶しいったらない。勝手にシフトを変えておいて、私にも在宅させろって!


で、何これ?


──

RE: ご依頼の件

綾坂さん、

受賞者リストを送るわ。賞状の準備、よろしくね。宛名書きは、例の書道の達人にお願いして。誰のことか分かるでしょ?やってくれるかどうかは、あなたの誠意次第だけど。


池園 絵梨花

──

RE: ご依頼の件(追伸)

景品購入費として、現金三十万円を用意しておいて。取りに行かせるから。


池園 絵梨花

──


……はい、きました。今日も絶好調、絵梨花様の〝上から目線メール劇場〟。次から次へと、指示という名の命令が飛んでくる。


『花、書道の達人って誰のこと?』

『……お局です。これはたぶん、脅しです』


あの怪文書の件への報復に決まってる。頼んだって、簡単には引き受けてくれないだろうし。敵は本気で意地悪を仕掛けてくる気だ。


『陰湿ねぇ。でも、宛名書きは心配いらないわ』

『えっ、でも……』

『わたくし、書道も達人レベルよ。お局より上手いから』

『え、それって……もしかして私が書くってことですか?』

『そういうこと。大丈夫よ。で、道具はどこにあるの?』


い、いやいや待ってください。

私、書道なんて一度も自信持ったことありません。確かに外見はララ様ハイブリッドだけど、脳のスペック──つまり能力は完全に綾坂花のままかと?


「綾坂さん……」


絵梨花のメールを見ながらララ様と心の交信をしていたところに、後輩モブ男子が声をかけてきた。昨日、素顔を見られたあの男である。彼から話しかけられるなんて、かなり珍しい。


「はい?」

「あの、現金を……」


ああ、お使い係ね。絵梨花はすぐそこ──たったの五メートル先にいるのに、わざわざあなたが取りに来るなんて、ご苦労さま。


現金は引き出しの中。前任者から「会費の半分は通帳に入れず現金で管理」と引き継いでいたので、すぐに鍵を開けて取り出す。


「はい、よろしくお願いします」

「綾坂さん……僕、詳しい事情は知らないんですけど……宛名書きをお願いするときに、〝有志一同〟の電子ファイルのこと、正直に話して処分するって誓えば、山本お局さんも引き受けてくれると思いますよ」


「有志一同?……何のことかしら?」


──怪文書ね。やっぱり、あれが〝誠意〟って意味だったのか。しかも、私が仕組んでることにも気づいていらっしゃるのね。


「い、いえ……ただ、彼女たちを敵に回すのは……」


もうとっくに敵ですけど?


「忠告ありがとう。でも、宛名書きは他を当たるので、結構ですわ」


「そ、そうですか……よかった。正直、池園さん……ちょっと怖くて。僕も先輩も、なかなか逆らえないんですよ。ほんとは、綾坂さんともっとフレンドリーに話したいんですけど……」


はぁ!?何言ってんの、この人。寝惚けてる?

それに、ちょっと顔見すぎじゃない!?視線が上下してるし!


『花の魅力に気づいたのよ、きっと』


ララ様、それ今さら言われても全然許す気になれませんから!


ぷんっと席を立ち、ロッカーへ一直線。引き継ぎのときに預かっていた賞状を持って、組合の会館へ向かう。確か、ここには書道クラブがあったはず。一応、組合の雑務も担当してるから、専従の人とは話が通じる。案内された教室で、なんとか道具を貸してもらうことに成功した。


ふと、壁に貼られた作品が目に入る。おお、なかなか達筆。……と思ったら、そこに書かれていたのは、なんとお局の名前!


な、なるほど……これは達人ですわ。あの人、ここで〝本来の自分〟を発揮していたのね。まさかの趣味とギャップに、つい感心してしまう。


『花、こっちを見て』

『え?』


言われて目をやると、さらに美しく、躍動感あふれる書が目に飛び込んできた。しかも、添えられた名前に思わず息を飲む。


……ああっ、翔様だ!〝伊集院翔〟って書いてある!


『まあ、翔も幼稚園から手習いしてるからね。師範くらいの腕はあるわよ』


すごい……本当に素敵な文字。見惚れる。


──じゃなくて!感動してる場合じゃない!


今わかった重大な事実。お局と翔様、まさかの書道クラブ繋がり!そんなところで接点があるなんて……そっちの方が衝撃です!


で、ララ様?

勢いだけでここまで来てしまいましたけど……ほんとに、私の書道で大丈夫なんでしょうか……?


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