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第17話 か弱い(仮)OL、スッピン晒して恋に落ち、景品で囲まれ戦う日常です。

翔様……


デスクのPC画面をぼんやり眺めながら、私は昨日の出来事を思い出していた。


片付けもひと段落ついて、ダンボールに詰め込んだララ様の衣装を、安息の地まで車で運んでくださった翔様。その帰りに、食事をご馳走になったのだ。


──マスク、外さなきゃ食べられないよね。


予想はしてた。けど、いざとなると、どう思われるか怖かった。でも、どうしようもない。私は意を決して、素顔をさらした。


「……花さん、本当に姉にそっくりですね」


「えーっと、まるで贋作みたいでしょ。あはは……」


やっぱり、実のお姉様の〝なんちゃってコピー〟じゃ、恋愛対象にはならないよね。気持ち悪いよね。だからこそ、禁断の恋なんだってば。


──なんて悲観していたけれど、彼の反応は少し違っていた。


「あー、でも全部が同じってわけじゃないですね。髪型も違うし、ちゃんと〝花さんらしさ〟を感じます。むしろ、派手な姉より素敵ですよ」


ま、まぁ……!お世辞でも嬉しいわ!


そこからの記憶はあいまいで、頭の中がふわふわしてしまった。そして──今に至る。


バーーンッ!


甘い世界にひたっていたそのとき、突然の大きな物音にビクッとなって現実に引き戻された。

目の前のデスクには、乱雑に積まれた大量のギフト券が……なにこの現実。


「綾坂さん?わたくしが、わざわざ休日に買ってきた景品よ。景品!」


私はまたしても、敵に包囲されていた。


今日も出勤しているのは、絵梨花にお局、そして新卒女子。あれ?在宅勤務でもない男子が誰もいないわ。まぁ、いてもいなくても変わらない金魚のフンみたいな存在だし。平常運転。


『花、ここは演技しなさい』

『え?なんの演技ですか?』

『か弱い女性を演じるのよ』

『私、演じなくてもですけど?』


よくわからないけど、とにかく大げさにしおらしく振る舞えってことね。了解しました、ララ様。


「お礼のひとつも言えないの?まったく、残念なお人だこと~!」


絵梨花の声は、わざとらしく職場中に響き渡るようなボリューム。


「誰の代わりにやってあげてるのかわかってんの!?ほんっと鈍い娘ね、アンタ~!」


お局も負けじとヒステリックに叫ぶ。いつもよりピリついてる。たぶん、あの書道騒動が相当ご不満だったご様子。……でも、そこまで怒られる筋合い、私にはない。


そもそも三十万よこせって言ったのは誰ですか?どうせ主任とのデートの口実にしたんでしょう?言いがかりにも程があるわ。


──あっ、ダメダメ。今は「か弱い花さん」を演じなければ。


「ご迷惑ばかりおかけして……本当に、すみません。ギフト券、購入していただき……ありがとうございました」


しおらしく頭を下げると、騒ぎを聞きつけた男性陣が、どこからともなく現れた。敵だったはずの同期男子と、影の薄い後輩モブ男子が仲裁に入ってくる。


「まぁまぁ、池園さん。ここは穏便にいきましょうよ」

「そうそう。ほら、彼女も反省してるみたいですし」

「はぁ!?」


絵梨花とお局は、まるで「信じられない!」とでも言いたげな顔をしている。

──何であんたたちが邪魔するの?って思ってるんだろうけど、こっちも不可解なんですけど。


でも、今日はなんだか周囲の空気が違っていた。見て見ぬふりなのは相変わらずだけど、誰ひとりとして追従笑いをしていないのだ。


……どうやら、彼女たちはその微妙な変化に気づいていないらしい。


「もういいわ。後でメール送るから、その通りにやって頂戴。まったく、何で会計でもないわたくしが、ここまでやらないといけないのかしらねぇ~」


絵梨花は、あくまで私が悪者であるかのように、周囲へのアピールに余念がない。


「ふん!使えないわね。呆れて物も言えないわ~」


お局もキレ気味に、まるで未熟な後輩を〝教育〟している体を演じている。


はいはい、そうですか。呆れて物も言えない?そのセリフ、まるっとお返ししますわ。


「池園さん、コーヒーでも飲みに行きましょう」


怒り心頭の二人をなだめつつ、自販機方面へと誘導する男性陣。そのうちの一人が、チラッとこちらを振り返って──謎の笑みを浮かべた。


ん?何その笑顔?正直ちょっと気持ち悪いんですけど?

……でもまあ、助け舟を出してくれたことには、感謝すべきなのかしらね。




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